異世界生活は神々の加護で!
軌跡
エピソードⅠ
序章 女神に招かれて
Ⅰ-Ⅰ
「……?」
気付けば、その荒野にいた。
両手を突いて立ち上がってみるものの、辺りには乾き切った大地しか映らない。地平線の彼方まで同じ光景だ。町はおろか、人の姿さえ見当たらなかった。
「――どういうことだ?」
首を捻りながら、直前の記憶を整理してみる。
しかし靄がかかったように思い出せない。自分の名前、これまで関わってきた出来事は回想できても、ここに来る直前の光景がどうにも思い浮かばない。
足元にはただ、紅い槍が落ちているだけ。
ああ、これは忘れていない。共に戦いを潜り抜けた、父から受け継いだ剛槍だ。俺が英雄である証の一つであり、神の加護を宿す神器でもある。
「……」
「いたぞ! 召喚された英雄だ!」
屈んで槍を拾い上げようとした直前、男達の叫びを耳にする。
赤い鎧で身を覆った男達だった。手には剣と盾。俺に対して敵意を向けているのが、嫌というほど伝わってくる。
「はん、上等だ」
俺は足先だけで槍を拾い上げた。
戦いに対して一切の嫌悪感は持っていない。挑んでくる者があれば、どんな立場の人間だろうと受けて立つ。
それが俺という人間。
大英雄を父に持つ身の、絶対的な基準である。
「殺しても構わん! 王の前に突き出すのだ!」
隊長格らしき男が吠えた。
それに従い、部下である四名の男達が剣を手に疾走する。――何か特別な力でも持っているのか、彼らは地面を滑るように走っていった。
なるほど、悪くない。
悪くないが、
「俺の敵じゃねえんだよな!」
一瞬だった。
俺が、彼らの背後に回り込んだのは。
「え――」
刹那の出来事。彼らにとっては正面にいた筈の敵が、いつの間にか背後に回り込んでいるという事実。
俊足か、あるいは神速か。
それを理解するよりも先に、赤の鎧はより濃い紅の一撃によって吹き飛ばされる。
耐えた者はいない。中にはどうにか盾を構えた者もいたが、俺が持つ槍の前には防御など意味を成さなかった。
吹き飛ばされた彼らは、倒れたまま動かなくなる。
生きてはいるようだが戦闘は不可能だろう。なら残るは一人。後ろで勝利を目にしようとしてた、隊長格の男だけ。
「さて、アンタはどんな武器を使うんだ? 剣か? 槍か? 弓か? それとも魔術か? やる気があるならさっさと見せてくれよ」
「な、な……」
「おいおい、ビビって声も出せねえのか? ……ま、逃げるんなら逃げでも良いんだぜ? 抵抗しないのであれば、俺も殺す気はねえし」
「っ――」
男は背負っていた大剣を手にする。
淡い光を帯びた、見るからに特別な能力を持っていそうな剣だった。
しかし、それを目にした俺に恐怖はない。むしろ好奇心だけが刺激される。
どんな力を持っているのか、俺の速さについてこれる実力はあるのかどうか。
命のやり取りを前にして、確かに口元は笑っていた。
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