あの子のふとももはエリクサー

@mentaiko_kouya

聖霊薬の少女

 自分は高校二年の一般男子・新藤晴一しんどうはるひと

 俺は今、ダチに誘われ学校帰りに別校の女子とカラオケ中だ。

 んで俺の番となり、イイトコ見せようと十八番の曲を歌っていた。

 

 ―――ハズだった。


「あれ、モニターどこ行ったし」


 瞬きで目蓋を開けば一転、そこはカラオケルームでは無くなっていた。

 見渡せば周りを囲む白の石柱と、どこまでも続く白い石畳……。

 狭苦しいカラオケルームが一瞬にして、純白の大広間に変わっていた。

 あまりの非現実な出来事に、夢ではないかと脳が囁く。

 ……熱唱しすぎて酸欠になって、気絶でもした?

 そんな考えが巡る中、おもむろに動いた足が靴底が石畳を擦って、じゃりりと音を響かせる。

 伝わるその感触は、夢じゃないと俺へ静かに報せた。


「は……? 訳わからんのだが」


 どこだし、ここ。

 記憶を色々漁ってみるが、全く覚えの無い場所、知らない場所だ。

 

「もしかして気を失ってる間に運ばれた?」


 明かりが少なく、判り辛いがかなり広い。

 そうだな……奥行き的に、学校の体育館くらいの広さはありそうだ。 

 淡い光に釣られ、おもむろに見上げれば天井を覆う豪勢なステンドグラス。

 それは宝石の様にキラキラと眩しく光を放ち、それが照明のように辺りを照らしていた。

 教会……?

 いや違う。

 マリア様とか天使でも模られてるのかと思えば、見た事も無いデザインだ。


「てかマイクはあんのかよ。

 聡ー、勝也ぁー! ノリスケー!

 誰かいねぇえかぁああー!?」


 俺以外にもここに来てる奴が居るかもしれない。

 そう思い、ダチの名前を叫ぶ。


「……」


 だが聞こえるのは反響する自分の声のみ。

 視界を動かしても辺りは柱と石畳の白、そして影のグレーの2色だけ。

 どうやらここに居るのは俺だけ。

 ……見知らぬ場所でボッチとか、まじかよ。


「おお、貴女様の御力によりここに勇者の器たる者が! 感謝を!」


「うわぁああっ!?」


 突然の声に思わずビビる。

 慌てて振り返れば、姿勢の良い聖職者スタイルのおっさんの姿が。

 そいつは満面の笑みを浮かべては、スキップと共に俺の元へ駆けてくる。

 良かった俺以外にも誰か居た……と安堵するのも束の間、それはすぐさま警戒に変わった。


 ―――何だこのおっさんの格好は。

 白地に金刺繍、見た事の無い青の模様の入った高級そうな服。

 その服装は一言で表すなら聖職者、と言った感じ。

 しかしおっさんの見せる表情はそんな格好からかけ離れた、キモい笑顔だ。  


「うんうん。皆様最初は困惑されると思います。

 御説明致しましょう。

 私は異世界召喚師のカーラ。

 そして貴方様は魔王を倒すべく召喚された、勇者の器デっス!」


 召……喚師?

 勇者?

 魔王?

 ごめん、ワケわからん。

 身代金目的の誘拐かと思ったが、それなら女子さらうハズだもんな。

 そうか、誘拐じゃないんだな。

 って待てよ。

 俺、歌った後に利奈ちゃんとLINE交換約束してたんだが?


「わかっておりますわかっております! そんな貴方様の為にさぁ!

 今こそ女神の力を受け継ぎし、聖女と契約を!

 さすれば貴方様は勇者として殻を破り、魔王を撃ち滅ぼす力を得るでしょう。

 そして人々に害成す魔王を倒した暁には一つ、願いを叶えましょう!」


「あの、身代金目当ての誘拐じゃないんですね?

 そうじゃないなら帰して欲しいんですケド。

 折角利奈ちゃんと良い感じだったのに……LINE交換イケそうだったのに」


「あー……申し訳ありません勇者よ。

 現状、貴方様を帰す事は出来ません。

 そしてこの国は勇者と成らぬ者を手助けするほど、裕福ではありません。

 それを踏まえてよぉーくお考え、ご選択下さい?」


「だから帰して欲しいってか。

 急に何の話かわからないんですケド」


「まことに申し訳ありません、もう一度言いましょう勇者よ。

 現状、貴方様を帰す事は出来ません。

 そしてこの国は勇者と成らぬ者を手助けするほど、裕福ではありません。

 それらを踏まえて今一度、よぉ~く、お考え、お選び下さい?」


「……アッハイ。わかりました勇者やります」


「流石は勇者たる器をお持ちの御方! 聡明な判断に御座いますねぇ!」


 おっさんに気圧された俺は思わずYESと答えてしまう。

 やっちまった。

 にしても魔王倒すべくってどこのレトロゲーだ。

 いや待て?

 もしかしてそう言う事か。

 おっさんの中世風な服装から考えて、アニメやらで流行りの異世界転生したのか?

 

 いやでもちょい待った。

 俺いつ死んだんだし……しかもついさっきまでカラオケ中だったし。

 ……っと、まぁそれはいいや。

 とりあえず口振りからして、現状の俺に拒否権は無いだろう。

 となればここはおっさんの話を聞くのが得策と思える。

 下手なトラブルはマズい。


「さぁ聖女たちよこちらへ!」


 鳴らされた手に合わせてどこからかともなく少女たちが姿を現わし、目の前にずらりと並ぶ。

 ピンクに青に緑に金髪とカラフル……すげー髪の色の女の子たち。

 おお、グレード高いなオイ。

 みんな可愛いし、身長もそんなに高くない。

 

 格好も―――待て。

 ちょい待って。

 キミらそのスカート短すぎじゃね?

 見えそうなんだが?

 つーかそのライン、穿いてる?

 胸も何か凄い事なってるし……オイ、どこのギャルゲのヒロインセレクト画面だよコレ。


「てか勇者はいいんだケド俺、一般の高校男子なんだケド。

 戦いとかサッパリだぞ?」


「問題ありません。

 異世界者はこの世界へ来たと同時に、女神ルカの加護を受けます。

 それによって戦いに於いて卓越した技量、または何かしらの特異を兼ね備えます。

 そしてこの者たち……

 聖女は魔王を打ち滅ぼす力を唯一秘めており、その力を引き出せるのは勇者のみ。

 そう、貴方様はこの世界に来られた瞬間より、選ばれし者なのです!」


「は、はぁ」


 ……胡散臭いんだが。

 うまい事ばっか言って丸め込むどっかの詐欺っぽいっすよ、おじさん。

 つーか魔王に対抗出来る力が、異世界人居ないと使えないって駄目だろ。

 ―――と、そんな俺を置いてけぼりに能力説明が勝手に始まる。


「この娘が握る物は全ての物を切り裂く力を宿します」

「あちらの娘はこの世にある全ての魔法を操ります」

「その娘は魔物を操る力を持っています。あ、でも幹部級以上は無理です」

「そしてこちらの娘は―――」


 チートかよ。

 てかここまで最強な子が居たら魔王とか楽勝なんじゃ?


「さぁ! 貴方様の魂に響く聖女を一人御選び下さいませ!」


「……魂、ねぇ」


 おっさんの言葉を反復してみては違和感を覚え、一つ唸る。

 確かに可愛いケドなぁんか違うんだよなぁ。

 この子達、俺と同じ歳くらいなのに全員男馴れしてる感じ。

 なんてーかこう、女の子らしさっつーか初々しさに欠ける。

 能力は確かに素晴らしい。

 しかし長旅をするパートナーともなれば性格、見た目も大事になってくる。


 ……が、並ぶ子は皆が皆エロコス。

 更には堂々としていらっしゃるし、てか色々見えそう。

 

「女の子らしさが……もっとお淑やかさが……うーん」


 そんな中、他と比べて控え目な服装で、胸元の大きなアクセが印象的な少女に目が行く。

 彼女は他の子たちから少し距離を取って立ち、目が合うと困り顔で柔らかく微笑む。

 その瞳は澄んだエメラルド色で、揺れる髪は鮮やかな海色を思わせるハワイアンブルー。

 

 胸下ロング、清楚な服装、膝下スカート、お淑やかな仕草。

 そして気恥ずかしさを誤魔化しながらの笑み。

 あ、この子やわ。


「―――これがこの場に居る聖女たち全ての能力に御座います」


「あれ、そこの子は?」


「あー……その者は不完全と言いますか、少々問題がありまして」


 そう口にしておっさんは気まずそうに目を逸らす。

 いやいやいやいや。

 俺の理想ドストライクな可愛い子の説明されてないケド?

 好みの子の説明ナシとかありえないんですケド?


「その者は聖霊薬エリクサーの力をその身に宿し、全てを癒す力を持っております」


「最強じゃん?」


「……しかし効果がですね、ふとももにしか発動していないのです」


「ふともも? 足の?」


「はい。

 しかも太ももへ直に触れなければならないと言う制限付き。

 他にも色々ありまして……故に不完全であり未完全。

 故にオススメしません」


「なるほどわかりました。じゃあその子で」


 俺は迷う事無く聖霊薬エリクサーの少女を選ぶ。

 そして周りの反対を押し切り、彼女と共に魔王討伐の旅へ出た。

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