人形師ユウとアルクの物語

牧 春奈

第1話 ぼくのなまえはアルク

 ちくちくちく……。

 今日もぼくの大好きなユウは、針をピンク色の布に通していく。ぼくはこの音が大好きだ。

「アルク。一休みしたら、次はアルクの番だからね」

 ぼくとユウの住む家は、とっても小さくて、何故かとっても暗い。ランプで手元に明かりをつけていたユウが顔を上げた。

「ぼく、イヤだよ。痛いのイヤだもん」

 ぼくはブルブルと首を横に振った。

「ほら、ここがケガしてるじゃないか」

 そう言って、ユウはぼくの右足を刺した。僕の右足から綿がうっすらとでてきている。

「アルクだめだよ。君はどんなに元気でも人形なんだから――」

 ユウは人形をとっても作るのが上手で、人形に命を吹き込んでくれる、そんな不思議な能力ちからを持っていた。ぼくは記念すべき第一号。だからか、たまにほつれちゃったりする。

 今はとっても上手だけど、ぼくだって全身が他の布だったり、木だったりに変わってしまうのはいやだから、こうやって、たまになおしてもらう。

 机の上でユウの伸ばす手から逃れていると、さっきまで作業していたピンクの布を踏んでこけてしまった。

 こけたってぼくは痛くない。野良猫にひっかかれても痛くない。

 でも、何故か、自分に針を通していると思うと、痛くて痛くて、体中にその痛みが走って、なんだか、胸のあたりがぎゅーってなる。それに頭も痛くなっちゃうんだ。

「わかったよ。ちゃんと、これ使うから」

 起き上った僕に引き出しから出した緑色の布を見せてくれた。

 深い森のような濃い緑。近くのお店におばあさんがぼくのために作ってくれた不思議な布。これを顔に掛けられると、ぼくはぐっすり寝てしまって、目が覚めたときにはすっかり、体がなおってる。

「ありがとう。ユウ」

 ピンク色の布をどけてくれたので、ランプの前で寝っころがって、ぼくは緑の布が降ってくるのをまった。

「ごめんね。アルク」

 そんな声を聞きながら、ぼくはゆっくり眠りについた。

 

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