革命の火種①

騒々しい音で目が覚める。

突然眩い光が目に入り、目を開いていられない。


耳に入ってくるのは鉄と鉄がぶつかる音。

鼻を通り抜けるのは血の匂い。


感覚を取り戻すと共に、徐々に目が光に慣れてくる。

覚醒した後最初に目に入ったのは、剣と共に倒れ伏す紅い鎧に身を包んだ騎士。


救命行動の為に、転がっている騎士に近寄り脈を確かめる。


「死んでるな」


『せやね』


意識が回復した直後にもかかわらず、二つ目の人格が何事もなかったかのように独り言に返事をする。

周りを見回すとそこは見慣れない場所で、見慣れない光景が広がっていた。


背の高い建造物は無く、ただ平原が続いているだけの昔の時代に戻った様な光景。


その中に喧騒と叫び声。断末魔。


その場所を知る私に、この状況を理解するまでにそう時間は掛からなかった。


『斑鳩』


「分かってる」


予備動作を見せずに左に飛び退きざま足下に転がっている剣を拾い、後ろから忍び寄る影に向かって構える。

斬り掛かって来た白い鎧を纏った騎士の剣を弾き、この場を離れる為に走る。


暫く走っていると、馬に乗った騎士が前方から来る。


「確実に私目掛けて来てるよな」


『相手をしてやればええやろ。敵意があったらやけどな』


頭の中で、斑鳩が楽しそうに笑う。


「勝算はあるか?」


『そうやねぇ、負けることはないやろ』


「さあ、どうだか。私とて衰える」


敵意が無いことを示す為に、拾った剣を捨てて両手を上げる。


「貴様、グランフリートの配下の者か。見た所一人だが、敵陣深くまで来るとは大したものだ。その腕は賞賛しよう。だが、ここで散れ」


騎士は馬上から睨みつけながら、会って早々そう言った。


「グランフリートって誰だ。何で殺されるんだ、初対面の奴に」


『私に言われてもなぁ、とりあえずやったればえいやろ」


「私も死んでやる気はまだ無い」


捨てた剣を拾って、戦闘態勢に入る。


「貴様、私とやるのか。手加減はしてやらんぞ」


「御手柔らかに……死ねー!」


足に力を入れ、騎士が瞬きをした瞬間を狙って前方に踏み込んで下段から剣を振り上げて馬の首を跳ね飛ばす。

首の無くなった馬が、即時性硬直で立ったまま命を落とす。


「きゃっ」


『きゃっ?』


戦場に居るはずもない女の声がして、斬った馬の方に振り返る。

目に映ったのは立ったまま死んでいて首の無い馬と、地面に落下途中の首。


見た所、女はどこにも居ない。


『クソ当主!』


頭の中から斑鳩に呼ばて、我に帰った頃には大人数の騎士に囲まれていた。


『クソ当主、戦場で考え事して集中できへんのなら変わり』


「いや、大丈夫だ。黙ってろババア」


馬から落ちた騎士は体勢を立て直して、こちらに剣を向けている。


「おや、馬だけで済ませたのに」


『だからやったれ言うたのに、ババアの言うことを聞かへんだお前が悪いんやろ』


「人を殺すのは抵抗がある」


『よう言うわ。最高峰の殺し屋が』


「貴様、誰と喋っている」


騎士は落馬した痛みを堪えているのか、肩で大きく息をしている。


「んーしまった、ここで活動限界だ」


連続して活動していた為、蓄積した疲労で体が徐々に動かなくなってくる。


『じゃあ交代や』


「ん。頼んだ」


瞼を数秒閉じて瞼を開くと、見慣れた小さな部屋が映る。

小さな机の周りに、一人掛けの椅子が並んでいる。


その奥には本棚が大量に並んでおり、行き止まりが見えない。

それは大量の記憶であり、九条斑鳩の生涯。


そしてこれからの生涯が保管される場所。

それは生きる為に覚えてきた事。


それは世の中に復讐する為に溜め込んだ知識。

それは守りたかった人の為に蓄えた武器。


「斑鳩ゆっくり休み。でも寝るのは禁止や」


『それはどうも』


不規則に並んでいる本棚を一つ一つ巡り、時折本として読み返す。

ナンバーが一番小さい本を選び、不健康的とも見て取れる真っ白な手の上に乗せる。


「貴様雰囲気が変わったな。人が変わったみたいに、殺気の量と質が先程とは全く違う」


警戒しながらも、全騎士が徐々に距離を詰めて来る。


「そりゃ中身が変わればなぁ。まぁ、普通の人間に話しても相手にされへんのが癪に触るけどな。こいつの苦しさを分かれへんのなら、お前らに興味も価値も無い」


『恰好良いこと言ってくれるな。その性格には惚れるよ』

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