救国の英雄王と根がネガティブな叛逆者に喝采を!
聖 聖冬
生-れ──た──
曇天の空の下、住んでいた住民は既に避難し、暫く前に廃墟と化した街。
左眼に紫色の炎を灯した少女が、まだ美しいままの形として残っていた民家の壁に手を着く。
だが、少女が手を着いた壁は一瞬にして塵となって形を失う。
無くなった壁に体重を預けていた少女は、よろけて地面に手を着く。
この廃墟と化した街で涙を流す事もなく、少女は自分の存在を知る。
自分が死ねない化物だと。
この世を萌した神は彼女を見捨て、残酷にも絶対を与えた。
それは死なない絶対。
全てを塵に帰す絶対。
もう、戻れないと言う絶対。
勝利を約束したその異能に、世界は嫌悪感を覚えさせた。
それは憎しみ。
それは痛み。
それは過去。
それは現在。
それは力。
それは世界。
それは愛情。
それは君。
それは僕。
僕は、僕が君を愛している事は無いと言った。
しかし、君は僕を愛している。
何故なら僕は君を愛しているから。
地に手を着く少女は、君を探しながら彷徨う。
そう遠くない背後で、地を踏む音が聞こえた。
零せない涙の代わりに溜息を零す少女は、クロークのフードを深く被り直す。
ひとり分の足音が少女に近付く。
怯えながら少女は足音の主を確かめる。
少女の紫色の眼に映ったのは、自分と同じく左眼に紫色の炎を灯している軍人。
見た目は二十歳前後。
目口鼻、全てを取っても完璧に整っていて、まるで女神を思わせる。
彩やかな蒼色の髪の中にある一筋の銀が、色の無くなった少女の世界に初めての色をもたらした。
その軍人を見た瞬間、全てを塵に還す少女は思う。
あの人が欲しいと。
昔、自分を愛してくれた人。
自分を守ってくれた人。
暖かさをくれた人。
手と手を繋いで、僕が進む道の微かな光になってくれた人。
少女は強く思う。
あの人が欲しい。
欲しくてたまらない。
少女は思い出す。
自分が触れれば、あの美しい人まで色を失ってしまう。
軍服を纏った軍人は、少女の目の前で止まる。
「やっと見つけたな」
短く言い、軍人は少女に手を伸ばす。
直ぐに少女は立ち上がり、軍人から距離を取る。
眉一つ動かさない軍人は、一定の距離を保ったまま、白く細い手を前に突き出す。
「僕は、君に触れない。触れてみたいけど、僕に触れると……」
少女は俯いて、弱々しく軍人にそう言う。
途中、体が久し振りに感じた感触に包まれ、体がぎゅっと締め付けられる。
「あんたも私に触れたい、私もあんたに触れたい。それだけで、もう十分じゃないか」
少女は軍人を抱き返すと、細身の体が徐々に塵になっていく。
「だから、僕に触れると……」
「構わないさ。あんたを抱き締めて死ねるんなら……あんたの為なら、私はウラノスにだってなってみせるよ」
その言葉の後、軍人は完璧に塵になる。
膝から崩れ落ちた少女の左眼から、今までずっと灯っていた紫色の炎が、いつの間にか消えていた。
同時に少女の瞳から今まで流れ出なかった、温かい涙が零れ落ちる。
一陣の風が吹き、涙と一緒に軍人だった塵が割れた空に逆さまに落ちて行く。
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