ポーラロード戦後処理

今日は一段と騒がしい外を、城の窓から眺めて、深呼吸をする。


部屋の隅には、スーツ姿の鈴鹿が、いつも通り立っている。


「この戦争が落ち着いたら、皆を探さないとですね」


「そうだな、また全員揃う日が来ると良いな」


そう笑顔で言い、鈴鹿に頭をぽんぽんと優しく撫でられる。


時折見せる鈴鹿の笑顔が、七凪の不安も、何もかもを吹き飛ばしてくれる。


「じゃあそろそろ行きます」


「そうだな、あまり国民を待たせては悪いしな」


全面ガラス張りのドアを開け、て全国民の前に出ると、国民が静まる。


「皆さん、この国での戦争は、ストレント帝国の勝利と言う形で終息しました。しかし、この戦争により、国内で多くの犠牲者が出てしまいました」


七凪の話の意図が見えず、国民の喋り声が徐々に大きくなる。


「静かにしろ!」


叫んだ鈴鹿の声は、ざわつきの声に掻き消され、国民には届かない。


次に鈴鹿が前に出ると、突然の破裂音がし、国民が静まり返る。


鈴鹿は手に拳銃を持っており、空砲を発泡したようだった。


七凪がもう一度前に出て、呼吸を整える。


「この国に、今後このような事があってはなりません。この中には、誰も戦争を望む者は居ないと思います。この国は、今日をもって生まれ変わります」


七凪が言い終わると同時に、鈴鹿が七凪の横に立ち、紙を広げてその内容を読み上げる。


「一つ、ポーラロードの王政を廃止する。二つ、ポーラロード王国改め、ポーラロード公国とする。三つ、国の代表を、全国民の投票の下、代表者選定選挙で決める。四つ、選挙で選出された者は、国の為に、そして自分たちの為に、より良い国にする事。五つ、ポーラロード公国は、ストレント帝国の領土とするが、国の代表を中心として政治を執り行う。六つ、貴族などの地位を廃止し、全ての国民が平等とする。七つ、騎士団を解体し、新たに自衛団を設立する。八つ、国の治安を全て改善し、この国からスラム街を無くし、皆が最低限の幸せな暮らしをする権利が与えられる。以上」


鈴鹿はテラスから飛び降り、城の前に立ててあった看板に、先程読み上げた紙を貼り付けた。


「以上です。皆さん、本日はありがとうございました」


七凪が言い終わると同時に、一斉に国民が看板を見る。


「七凪に客人だぞ」


鈴鹿の後ろを見ると、貴族の反乱の件で逃がした元貴族兵が、全員で来ていた。


「お久しぶりですね。本日はどうしたのですか皆様方」


一人の青年は、一枚の書類を七凪に手渡す。


七凪は書類を受け取り、内容を確認すると、自衛団の募集を承認してほしいとの内容だった。


「如何でしょうか帝」


青年はおずおずと顔色を伺うように聞いてくる。


「聞かれるまでもなく承認です。団長と副団長を報告してくれれば、その日から活動を認めます」


そう言うと、青年は笑顔で礼を言い、廊下を走って行った。


「七凪、明日北タリアスに進軍する。今日の内に準備を整えておけよ」


今まで優しい雰囲気を纏っていた鈴鹿が一変して、ピリピリとした空気を纏っている。


「分かりました。次も出来るだけ敵に犠牲を出さないように徹底して下さい」


ピリピリとした空気に当てられ、背筋が伸びる。


「そのことなんだが。今回の戦争でもそうしてこちらに多くの犠牲者、負傷者が出た。それに対してポーラロードの犠牲は少数だ。残念だが、もうその命令は聞いてあげられない」


それだけ言うと、こちらの意見も聞かずに鈴鹿が立ち去る。


七凪は、鈴鹿の後を追いかけて、横を歩く。


「分かりました。無責任なお願いをしてしまったことは謝ります。話題は変わりますが、銃がまだ作られていない世界で銃を使ったら、駄目です。銃が普及してしまえば戦争で、たくさん犠牲者が増えます。非常時のとき以外は使用禁止にします」


「ああ、迂闊だった。反省してるよ」


鈴鹿は銃を手に取り、銃身を撫でる。


「北タリアスと敵対してる南タリアスに手を貸して恩を売っておくってのはどうでしょうか?」


「唐突にどうした、随分とやる気なんだな」


銃をしまい、眠そうに目を擦りながら、鈴鹿がこちらを向く。


「それとも北タリアスに協力して、南タリアスを併合させて恩を売りますか?」


鈴鹿が腕を組んで考え出すと、前から騎士が走ってくる。


騎士は息を切らしながら、膝に手を着き、言葉をなんとか紡いでいく。


騎士が全て言い終わる前に鈴鹿が走り出す。


騎士からの報告を受けた七凪は、内容の衝撃が大きく、膝から崩れ落ちそうになるのを堪えるので精一杯だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る