第2話 「秘密」を知る者
「おい、村野。本当なのか? 安田の秘密を知ってるって」
村野はいかにも面倒そうに会社のロビーでタバコを吸っていた。どうやら営業二課の同僚の、この村野が知っているらしいのだ。安田の言うその「秘密」を。
「本当に知ってるって言ったらどうする?」
「どうするってお前。警察に言った方がいいだろう、いよいよ安田の奥さんも捜索願をだしたらしいぜ。それがいやならせめて……」
私は村野の目を見つめた。
「せめて俺には教えてくれよ。絶対に口は割らない、約束するよ」
村野はタバコを吸殻入れに押しつけると一つ憎たらしい笑みを浮かべた。
「まあ、教えてやってもいい。だが、ただとは言わせねぇ。人にお願いするときゃあ礼っちゅうもんが必要だろう。これでどうだ?」
村野は手の合図で金額を提示して来た。
そんなに? そんなに払う必要があるのか? 私は思った。
だがこの際仕方ない。安田はひょっとしたら私に何か助けを求めていたのかもしれない、最後の望みを私に託そうとしていたのかもしれない、そんな安田の事を思うと、そんな金額も安いものに思えた。
私はゆっくりうなずいた。
そんな私を見て村野は、あからさまに呆れた表情を見せた。
「そんなに知りてぇのか? お前も物好きだな、どうなっても知らねえぞ?」
私は一つ唾をごくりと飲んでから大きく頷いた。すると村野がにゅ、っとその無精髭の生やした汚い顔を近づけて来た。ふわっと、タバコの匂いが鼻をつき、思わず顔を背けたくなる。
「駅前の銀座通り、駅から三つ目の角を曲がると『サルーン』って喫茶店がある。明日の15時にそこで待ってろ、つけられるんじゃねえぞ、それから……」
村野は去り際に釘を刺すように付け足した。
「それから、俺がその事を知ってるなんてばらしてみろ、今度はお前が消える番だかんな」
そう言って村野は去って行った。
ひょっとして犯人は村野では? 私はそう思うようになってきた。しかしそれなら何故私にそうやすやすとその「秘密」を教えてくれるというのだろうか? これはワナかもしれない……そう私が気付いたとき、もう時すでに遅かった。
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