君と飲むコーラに、救われてた
夏みかん
第1話 我求めて得たり
あの日、神社で五歳の私は、生まれて初めてコーラなるものを飲んだ。
父に自販機で買われて、当時飼っていた犬を連れて、はっはとその犬の息切れを聞きながら、暑い中飲むコーラは口の中が爆発した!と言って泣く私を撫でる父の手に取られて、その後はどうなったか知れない。
犬がぺろぺろと舐めてくれたのを覚えている。犬はお母さんみたいだった。ほんとのお母さんは家で弟と寝てる。兄は友達と遊びに行った。だから父と犬と、神社でコーラを飲んだ。
ただそれっきりの思い出が、今日の私を作っている。
机に付しながら、コーラの瓶を見つめている。
最近見つけた駄菓子屋で、100円コーラとブラックサンダーを大人買いしたら「贅沢はいかんよー」と婆ちゃんに怒られた。
そんなことばかり思い出す今時分、多分優しさに包まれている。
私は絵が描けるのがとても自慢だった。でも進路に出来ないと知り、落胆して描くのを止めたら、途端世界がくにゃりと色を失った。
今日のような積雪の日に、筆を執ることもなくなった。今はただ、静かなる心地にて。
その後祖母と暮らすようになり、求めていた生活が手に入り、父も母もみんな理想の形に慣れて生活は落ち着いた。私は日々を昇華しながら、こうして日常の断片を書き留めておこうと綺麗な風景を探している。
パソコンの横で、コーラの泡が弾ける。
幼いころを過ぎたら、途端反抗期。いつも構ってくれない母にとことん抵抗して、いつもだんまりを決め込んでいたっけ。その内なんにも聞かれなくなって焦ったな。独りぼっちになっちゃうよー。そんな風に思った。
でも世界は案外優しくて、求めていけばそんな人の集まりもあったから、なんとかやってこれた。
あの頃付き合っていた友達と、何故だろう、今は全然交流が無い。
なんだか会う気がしなくって、その内ほんとに会わなくなった。
まあ、こんなもんか、そう思っている。
フェイスブックで見る限りは楽しそう。それならそれでいいんじゃない。私はネットストーキングを軽く終えて、首を回して腕を伸ばした。
最近はアイフォンにも触らなくなって、世界がまるで小さくなるかと思えば、現実の感覚がごまんと待っていた。
父と見るテレビ番組だとか、人と共感することが主に。
パソコンなんか覗いてる暇もないな、世界はこんなに物事に溢れていたのか。今はそんな所存。
昼間こそ点けないテレビが、夜は大活躍する。古き昭和の時代の様な生活サイクルで、私達の家は回る。
隣の家のヤンキー一家が面白い人たちだと聞いていたから、何をされても無視してみた。
軽く笑うお母さん。うちじゃ考えられないな。人のことを笑う前に自分のことをしろー!これこれ、こんな人だから。
でもその真面目さに救われてきたのだ。
私は外見がふざけているらしく、面白そうだとよくからかわれるのだけど、さっきもブログ書いたので覗いたら、真面目っぽと書いたら真面目っっぽ!と強調して訂正されていた。
ううむ、と唸る。
そんなに真面目だったかしら。
とりあえず、もう28なので、馬鹿なことには付き合えない。若干残念、でも楽しかったのでよしとする。
今までをさあ、ありがとうと思う。
何に対しても。
ありがとう、日々をくれて。結局は可愛がってくれていたんだと分かるから、早くまともになってお金儲けでもしたいのだけど、そうは問屋が許さないらしい。
うーん、レジ打ちくらい、よくないか?
どうなんだろうなーと思う。
カゴに移す作業が大変そうだけど、出来そうに見えるなあ。あれは技術職だから、どこ行っても食べられるしなあ。
最近さとうさんで女の人にあいカードを作りたいんですが、と言ったらあいプラスカードの方がお得ですよ、とそれとなく誘導され、確かにお特なあいプラスカードを持つために免許証を出したのだけど、免許って持ってるだけ得だったんだな、とわかった最近。
ごみ箱にティッシュを投げた。ゴール!最近手首の唸りが効いてしゃーない。
しゃーないことと言えば、最近喉の奥で少し匂いがするときがあり、うがいすると血痰が出る。
少しの量なので、喉が切れたんだろうと思っている。これは肺病ではない。だって苦しくないもの。
早く死ぬなら死ぬで、あの世から眺めるこの世の楽しさを思う。
浮世に浮かんだ心地とは、如何に。
犬を連れて二階に上がって来ていたのだけど、寝ていたらしきりに起こしてくる。
喉が渇いたよー、お姉ちゃん。そんなところか。
一階に降ろしたら、すぐに水を飲んでいた。私の部屋でトイレが出来るのは良いが、湿っぽいので環境的に如何なものかと思う。日が照るだけまだマシか。
コップで飲んでいたコーラを、弟に持って行ってやった。
弟はパソコンしていて、「ああ、いいで」飲んであげる、とそう言った。
優しいからね。そう評価が変わってきたのが良い所だと思う。
雪の中、笑う童子たちの雪合戦は、今日は行われないらしい。
朝水を出そうと蛇口を捻ったら、凍り付いていた。
こんな日のみかんはきんきんに冷えている。甘い。
お芋が焼けた。あつあつと食べる。
祖母がくれた日々も、こうしてコーラの泡のようにぷちぷち一つずつ弾けて、最後は甘い水になる。
炭酸が抜けたころ、飲むそれは案外美味しいだろう。
そんなことを思った。
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