番外5 化学(ばけがく)解題
「あの、澪さまはどうして女の子の姿なんです?」
聖は、隣の澪に尋ねてみた。
澪は呑気なことに、ちょうど大粒の苺をへたごと頬張っていたところで、突然の問いかけに目を白黒させる。やっとのことで飲み下すと、咳払いを一つして聖の方へと向き直った。
「い、一応、女というか、メスじゃからな」
「いえ、そういうことじゃなくて。もっと化けやすい外見ってないのかな、と思ったので」
何やら難しい顔をした後、澪は顎に手を当てながら首をひねった 。
「これが、いちばんしっくりくるからかのう」
「その格好に化けるのが、いちばん慣れてるからってことですか」
聖もまた、澪の答えに首をひねる。澪は、顔をしかめたままそっぽを向いた。
「いや、慣れておるわけではない。ただ、お主に見せた最初の姿はこれだったろう。その、何だ、お主と話すには、この目の高さがちょうど良い」
あ、不機嫌そうだったのは照れていたのかと、聖は思わず微笑んだ。照れを隠すように、小さな口に苺を豪快に押し込む澪を横目で見ながら、聖はささやかな幸せを噛み締める。実際のところ、まだ力が戻っていないために他の姿をとることができないと思い込んでいた。そうではないと分かって、一安心といったところだ。
それに、聖はこの姿の澪の声が好きだった。だから、できるならこのままでいて欲しいというのも――むしろ、そちらが本音でもある。
「ありがとうございます。僕のため、だったんですか」
「年寄りをからかうでない。……礼には及ばぬ。儂の勝手じゃ」
澪は、聖をちらりと見やると老獪な笑みを浮かべる。
「ふん、なんなら実の年に合わせて化けても良いのじゃぞ?」
「実の年ってことは、ものすごーくおばあちゃんになっちゃうってことですか? ……それは、ちょっと」
【おまけ~嘉章とかなでの場合】
「なあ、かなではどうしてその姿なんだ?」
嘉章は、隣のかなでに尋ねてみた。かなではにっこりと笑うと、よどみなく答える。
「だって私、人間年齢で数えると七歳なんですよ。それでもよいのでしたら」
「……そりゃ、まずい」
改めて、人ではないものと付き合っているのだと実感する嘉章だった。
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