第22話 この、確かな声を【1】

 聖は、学校で配布されたプリントを机の上に広げ、唸っていた。

 一人でいるには少し広い部屋でぽつんと座り、聖は書類と静かに睨み合っていた。昨日からこの薄っぺらい紙切れが、聖の頭を悩ませている。例のごとく、『進路志望調査票』だ。

 嘉章は、土曜だというのに仕事だといって出て行ってしまい、辺りが暗くなった今も戻っていなかった。教師というのは年末は忙しいらしく、このところは平日も帰りが遅いし、帰宅した後も持ち帰りで何ごとか片付けている嘉章の姿をよく目にする。師走の師は僧侶のことだと言うけれど、どうも教師も走り回っているようだ。

 おかげで、今回の調査票についてはまだ嘉章と話ができていない。

 冬の訪れと共に、周りの友人達は徐々に志望校を決めつつあった。願書の受付は年が明けてからだからまだ猶予はあるが、それでも何かが迫ってくるような、あるいは追われているような緊張感は、聖の中で確実に膨らんできている。

 クラスメイトのほとんどが、この村から通うことができる距離の地元の高校を選択しているらしかったが、中には大きな街の高校を目標に定める者もいた。その場合、求められる学力は、地元校よりも少し高い。

 例えば誠太郎は、幼なじみでもあり恋人でもあるちぐさが通う県随一の進学校を目指している。彼は、ちぐさと同じ高校に通うことを二年生の頃から一途に目指し、結果的にこの一年で恐ろしいほど成績を伸ばした。このままいけば、春からは望み通りの道へと進むことだろう。

 聖はといえば、転校前も後もペーパーテストだけは良く、三年生になってからは常に学年で五指に入る程度の成績を維持し続けていた――ただし、体育を除いてだけれど。

 まあ、そんなわけで聖は担任教師にも、そして嘉章にも、ちぐさや誠太郎と同じ高校を勧められていた。

 しかし、聖本人は未だ進路を決めかねていた。多分、成績は問題ない。どちらを選んだとしても、入試をクリアするのに必要な得点を取る自信はある。

 ただ、街の高校に進むとなると。

 ――澪さまと離れなきゃいけない。

 どきん、と胸が大きく鳴った。それは、痛みを伴う音だった。

 この二年ほどで、『聞き耳』の使い方は大分身に付けた。耳栓をしていれば大抵のことはやり過ごせる。

 たちの悪いのに絡まれても、対処法は澪からみっちり仕込まれたから、立ち回り方は心得ているつもりだった。それに、万一あやかしたちにちょっかいを出されても、澪が助け船を出してくれる。

 ただし、それはこの村にいたら、という話だ。

 聖がここに引っ越してきたのは、あやかし達のせいというよりは、むしろ人間との関わりに倦んだせいだ。この村の人たちはみんな優しいし裏表がないから、いくら『耳』が何か余計なことを捕らえても、それほど堪えることはなかった。しかし、街にはこことは比べものにならないほど人が多い。都会へ戻ることはやはり怖かった。

 同時に、自分の成長を試してみたい気持ちもないわけではなかった。引っ越してくる前に晒されたくらいの悪意になら、今ならば耐えられる自信がある。立ち止まって怯えてばかりだった自分が、人混みの中でも前に進むことができるのか、やってみたい。むしろ、いつかはそうしなければいけないとまで、聖には思えるようになっていた。

 それにしたって、気になるのは澪のことだった。自分がここから去ったとき、彼女はどうなってしまうのだろう。あの祠に通う者がいなくなったら、出会った頃の彼女のように消えゆくのだろうか。

 考えても、答えは出なかった。

「午後は、山に行こうかな」

 聖はそう言って、窓の外を見た。部屋の裏手の木々は、うっすらと積もった雪で白く縁取られていた。



 凍てつく空気に、澪はつい鼻を擦った。

 暑さや寒さは生身のときほどは感じていないはずだが、キンと冷えた日などは、やはり昔を思い出して身が縮む。寝床にしている祠の周りは、昨夜からの雪がまだらに積もっていた。水たまりは凍り付き、日の光を鈍くはね返している。

「冬じゃのう」

 呟いてから辺りを見回す。澪以外に気配はないし、もちろん返答もない。

 近ごろは聖が傍らにいるのが当たり前になってしまっているので、口数が増えた。聞いてくれる誰かがいないと独り言になってしまうのだ、と澪は気付いた。

 昔は、冬は嫌いだった。

 寒さを凌ぐには腹を膨らませねばならなかったが、一面白く覆われた山には食料などない。鹿であった頃は、木の皮を歯でこそげとって口へと運んだものだ。それでも満たされないときには危険を承知で人里へ下り、畑を掘って撃たれそうになったこともある。

「食うものが少ないのは、今も同じか」

 聖に頼って命を繋いでいる自分を思い出し、自嘲を込めてぽつりと漏らした。今度はちゃんと独り言を言った、と澪は苦笑する。

 今や唯一といってもいいほどの澪の力の源――澪を必要としてくれる人間――それが、聖だ。聖一人に支えられている現状を、澪はそのまま受け入れていた。その昔、強大な力を持っていた頃の自分は、確かに今よりも無理ができたし、自由もあった。だが、今の暮らしも悪くない。慎ましく平穏に、聖とともに過ごす日々もなかなかいいものだ。

 ちょうどその時、祠の脇の藪が動き、澪は飛び上がらんばかりに驚いた。

 がさがさという乾いた音がしばらく続いたのち、枯れた下草を掻き分けて、件の聖が顔を出した。足下は丈夫そうな革靴、ブーツとやらを履いていたが、つま先から足首まで泥にまみれている。日陰は氷で滑り、日なたは陽射しでぬかるむ山道だったに違いないが、彼はそんなことはものともせずに詣でてくれたらしい。

 聖は「澪さま」とにっこり笑う。

「お待たせして、すみません」

 聖の何でもない一言に目元が熱くなるのを感じて、澪は自分のことながら驚いた。考え出すときりがなさそうだったので、とりあえず返事はしておく。

「ま、待ってなどおらぬ」

「そんなこと、言わないで下さいよ」

 聖は澪の軽口を受け流すと、持参した敷物の上に膝を抱えて座った。準備のいいことに、鞄からさらに布団のようなものを出して自らを覆う。もこもことして、まるで冬毛に変わったかのようだ。

 澪もその隣に腰を下ろし、鼻の頭を赤くした聖の横顔を見た。いつもは頬も耳も赤いのだが、詰めものが垣間見えるはずの耳は、今日は耳当てで覆われていた。やはり、聖も特別に寒かったとみえる。

 おや、と澪は思わず聖の顔を見返した。何かがいつもと違うな、と感じたのは、獣の本能のようなものだっただろうか。

「何ですか?」

 聖が、目を丸くしている。澪の無遠慮な視線にたじろいでいるようにも見えた。

 その眠そうな瞳の下にはくっきりとくまが浮き出ている。違和感の源はこれだろうかと、もう一度聖の顔を覗き込むが、それ以上は何も見つからない。やはり、目だったのだろう。

「その目はどうした?」

「これは」

「寝ておらぬのか」

「いいえ」

 聖は両手で目を擦ると「大丈夫ですよ」と微笑んだ。強情な聖のこと、ここで澪がいくら心配したところで、帰って寝る、とは言うまい。しかし、彼が大丈夫と言うときは、大抵がから元気だから問題なのだ。しかも、彼自身はそれに気付いていないことが多い。

 またあやかし絡みのいざこざだろうと、澪は読んだ。それは澪が聖の力になれる、数少ない機会でもあった。悩む聖を見て心が躍るのは不謹慎だと自らを戒めながらも、澪は追及の手を緩めない。

「悩み事か? ……また、何か起きたのではないのか?」

「……いいえ」

 聖は眉間に皺を寄せている。澪はその頬に手を伸ばしそうになり、思わず自分の手を押さえた。

 それほどの苦渋の色が、彼に浮かんでいた。

 口を開いては、閉じる。顔を上げては、俯く。そんな仕草を数回繰り返したのち、聖は小さな声を絞り出すように言った。

「……もし僕が今いなくなったら、澪さまはどうなるんですか」

「うん?」

 一瞬、何を尋ねられたのか分からずに、澪は聞き返す。

 聖は抱えた膝を強く引き寄せると、顔だけをこちらに向けた。眠そうだった目にしっかりと光が見える。

「澪さまの力は、戻ってきているんですか。僕がいないと消えてしまう、なんてこと、ないですよね?」

 ――聖がいなくなる、だと?

 今度はしっかりと質問の中身を理解して、澪の顔から血の気が引いた。今、いちばん聞かれたくないことだった。

「……寝不足の原因は、それか」

 聖が無言で頷いた。今日ははじめからこのために来たのだと、聖のきゅっと結んだ口が伝えている。

 彼との別れが来るとして、それは果たしていつなのか。それとも、具体的な予定など無くて、ただ純粋な疑問を口にしただけなのか。それが分からない。

 真っ直ぐ正面からぶつかってきた聖に、澪がやはり正面から答えるとするならば、『消える』だろう。

 現状は、数日おきに顔を見せてくれる聖の想いだけが澪の糧である。それは命を繋ぐには十分でも、力の蓄えをするのには少し足りない。だから、聖がここへ来なくなれば、澪はいずれ飢えていなくなるだろう。

 聖はヒトだから、寿命がある。いつか聖がいなくなる日が来る――それは、澪も分かっていた。

 そもそも澪は、聖が天命を全うするまでこの山に来てくれるとは考えていなかった。もちろん、そうであればどんなに嬉しいか――とは思うが、それは身勝手というものだ。そうまでして生きながらえて、何の意味があるのか。聖に見限られたときが、澪の終わりとなるだろう。

 ――生きるならば、聖の隣で。彼と共にいられるなら、何をも厭わない。

 それだけが、澪の本心だった。

 答えぬまま時間が経ちすぎてしまっては、聖に疑われるだろう。いや、例えすぐに答えたとしても、心に大きな迷いを生じさせてしまえば、心の『声』は聖の『力』に拾われてしまう。

 まずは、この場を切り抜けるのだ。

「消えぬよ」

 澪はそう言って、聖の憂いを一笑に付した。納得したとは言えない顔で、聖は頷く。その目元はほんのりと朱く染まっていた。

「それじゃ、もう一つ。高嶺さまが今度来たら、その――澪さまに、勝ち目はあるんでしょうか」

 高嶺が澪のもとを訪れるのは、澪を手元に置きたいからだ。そうであれば、澪自身に危害を加える可能性は低い――と、澪は思う。

 それよりも、聖の聞き耳を高嶺に勘付かれるわけにはいかない。環の二の舞にならぬよう、気を付けておかねばなるまい。澪が聖と特別に親しいことも、高嶺には知られぬ方がいいだろう。あんな思いは、もうごめんだ。

「正直、高嶺どのに勝てる気はせんな。そもそも、格が――力が違いすぎる。しかし、高嶺どのは儂と戦うためにここを訪れているわけではなかろう。お主が何を心配しておるかは知らんが、取り越し苦労というものじゃ。……ただ、お主の力のことは内密にな。正直言うと、高嶺どのは儂も読み切れぬゆえ」

「そう、ですか。分かりました」

 聖はやはり複雑な表情で頷いた。何か腑に落ちないことがあるのかもしれないが、彼はそれ以上何も語らなかった。

 いくら心配するなといったところで、考えすぎる聖のことだからおそらくは聞かないだろう。今の澪の力でできることは、多くはないかもしれない。それでも、澪はこう言うしかなかった。

「心配するな。いざというときには、儂が何とかしてやる」

 それだけを言って、澪は笑った。



 聖は今し方下りてきたばかりの山を振り返り、澪の姿がないのを確かめてから、道端にしゃがみ込んだ。立っていられなかった。頭がガンガンと痛むし、少し吐き気もする。

 コートのポケットに手を突っ込んで取り出したのは、いつもの耳栓。のろのろと耳に詰めて、ようやく一息つくことができた。

 今日は、『聞き耳』を開放して澪と話をしていた。それを隠すため、付け慣れないイヤーマフラーなどをしてきてしまったけれど、澪にはばれていなかったろうか。

 そうまでしても、澪の本心が知りたかった。さっき、澪の『消えぬよ』という声を聞いて、そして澪の心を知って、聖はもう泣き出しそうになっていた。澪が自分のことを思っていてくれるのは心底嬉しかったし、聖がいる限りは諦めないのだと決意してくれたのも頼もしかった。

 しかし、澪の心の声を聞くという行為はすなわち、聖が彼女を信用していないことの裏返しだったのだと、聖は今になって気付いた。聖に気を使い、本当のことは言わないだろうと考えたからこそ、聞き耳を使ったのだ。

 僕に嘘までついて大切にしていたそれらを、自分は勝手に引っ張り出してしまった。きっと、僕にだけは知られたくなかったはずなのに。

 ――ごめんなさい、澪さま。僕はあなたを騙しました。

 がっくりと肩を落とし、膝に額を擦りつける。こんな罪悪感に苛まれるくらいなら、やるんじゃなかった。結局、ここまでしたというのに、いちばん大事なことが言えていないのだ。『僕の力を、あなたにあげます』と。

 どうして言えなかったのだろう。

 澪がその申し出を断ると、聖自身が思いこんでいるからか。拒絶されることが怖いのか。継ぐべき二の矢を持っていないからか。

 それとも、『力』を失った後の世界が想像できないからか。十五年かかって、ようやく慣れてきた『異能者』としての暮らしを無くすのが不安だからだろうか。

 そのどれもだ、と聖は自己嫌悪に沈む。

 そこで、聖の思考はストップした。

 ――座っていることすら辛い。

 残念ながら、今日の聖にはそこから先を考える余裕などなかった。聖は、逃げるようにその場を後にした。



「おい、ひー」

 いきなり何者かに布団をめくられて、聖は不本意ながら目を覚ました。何者かもなにも、この部屋に住んでいるのは聖と嘉章だけだ。

 コートを着たままの嘉章は、聖の顔色を窺うと、今さら申し訳なさそうに言った。

「……もしかして、具合でも悪かったか」

「まあね」

 言いながら体を起こすと、それでもいくらか楽になっていた。横になったからか、頭痛薬が効いたのか。後悔だけは、まだ心の底にどんよりと沈んではいたけれど。

「うん、でももう大丈夫かも」

「それならいいけど。……起こしてごめんな」

 部屋の中は、真っ暗なうえに冷え切っていた。どうやら、かなり長い間寝ていたらしい。嘉章は部屋の灯りと暖房を付けると、再び布団の脇に戻ってきた。手に何か持っている。

「ところで、これ。またまた白紙だけど、どうすんだ?」

「あ」

 進路の調査票だった。学校から配布されるたびに空欄のままで放っておかれ、嘉章が見つけては聖の目の前へと戻す。そんなことを、今年は何度も繰り返している。この従兄弟は、良い意味で逃げ場をくれない。

 嘉章は県下一の進学校と、地元の高校の名をそれぞれ挙げた。

「二択だろ。……まだ、街には戻りたくないのか?」

「そういうわけじゃないよ。今なら人が多いところに行っても、いけると思う。でも、ここを出たくないってのもある」

「煮え切らねえなあ。ま、じゃあもう少し悩めよ」

 嘉章は笑って、聖の枕元に調査票を置いた。

 席を離れるかと思ったが、嘉章は座ったままだ。聖が「まだ何かあるの?」と尋ねると、彼はコートを脱ぎ、膝を正した。そして、いつになく神妙な面持ちで切り出した。

「俺の進路は、もう決まったんだ。聞いてもらおうかな」

「何それ」

「辞めることにしたんだ。……三月で、先生辞める」

「ええっ」

 聖の大声にも嘉章は動じることなく、さっぱりした顔で「そんなに驚くなよ」と答えた。これが驚かずにいられるか、と言い返そうとしたが、自分の声が頭に響いてつい尻込みした。今日はとことん不調だ。

 嘉章は家でこそこんなだが、小学校に兄弟がいるクラスメートに聞くと、ちゃんと仕事はしているし、子供や保護者からの人気もあるという。今日だって、休日返上でこんなに遅くまで頑張っている。なぜ、辞める必要があるのか。

 聖がしばし黙考していると、嘉章は小声で言った。

「次の春の異動では、恐らく転勤があるんだ。……となると、あいつの側にいられなくなるからな。幸い今のあいつには居場所があるし、離ればなれになってもすぐに何か起きるってわけじゃない。けど、もう亡くすのはごめんだ。少しでも近くにいようと思ってな」

「じゃ、かなでさんのために?」

 照れもせず頷く嘉章。

 転勤を前に、彼は決めたのだ。ここに根を下ろし、自分の手でかなでを守ることを。

 嘉章が教師の仕事にどれほどの誇りと愛着を持っていたか、聖は知っている。かなでの存在が、その職を続けることよりも優先すると、嘉章は決断したのだろう。

「それ、かなでさんには言ったの?」

「ああ。ずいぶん恐縮されたけど、あれはたぶん――喜んでたんじゃないかと思うな」

 控えめに、しかしきらきらと目を輝かせるかなでの姿が容易に思い浮かぶ。

「実は、四月からの仕事ももう決まってる。そのあたりのことで、最近ちょっと遅くなってるんだ」

「帰りが遅かったのは、次の仕事の準備があったからなの?」

「まあな。今のところは、変わらずここに住み続ける予定にしてる。……だから、お前も残りたいなら残っていいんだぞ」

「僕のことなんか、気にしなくていいのに」

「家族だろ」

 嘉章は真顔で言った。嘉章が自分のことをそんなふうに考えていたなんて、初耳だった。何気ない言葉だったが、聖の胸には込み上げるものがあった。

「気にするとか気にしないじゃなくて、当たり前。もしそうならってだけだから、決まる前から遠慮すんな。ついでなんだから、いいんだよ」

 嘉章は、聖にも選択肢を残してくれたのだ。

「ありがとう。……僕も、ヨシ兄がほんとの兄さんだと思ってる」

「俺もお前を弟だと思ってはいるけど、どうせなら可愛くて尽くしてくれる妹がよかったな」

 照れ隠しなのか、嘉章は埒もないことを口走ってから頭を掻いた。

「ま、いちばん心配してるのは叔父さんと叔母さんだろうからな。ぼちぼち決めておけよ。相談にはいつでも乗るから」

 飯は作っとく、と言い残して、嘉章は居間へと出て行った。


 今の自分が喉から手が出るほど欲しい行動力、そして未来を切り拓く力を、嘉章は持っていた。聖は、それだけで嬉しくなった。

 かなでを亡くしてからよみがえるまでの年月を、嘉章は無駄にはしなかった。二度とそんな思いはしたくないという辛い経験が、彼を動かしたのだ。職は捨てなければならなかったけれど、幸せとひきかえにするのなら後悔はないだろう。

 ――僕は、どうだろう。

 子供だから、聞き耳だから諦めるしかなかった――そんな言い訳はしたくない。また逃げて、周りの人たち迷惑をかけたくはない。何より、澪を不幸にしたくない。

 嘉章からもらった勇気が潰える前に、澪に会いに行こう。

 浮上のきっかけを掴んだ聖は、手放さぬうちにと目を閉じた。

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