第26話 突撃格闘戦艦

 銀河ユニオン戦艦祭の花形競技であるバトルシップトーナメントは、一対一の宇宙戦艦同士による戦闘だ。

 装備された兵装は全て使用可能で、相手を戦闘不能にするか撃沈する事で勝敗を決める。試合形式の戦争なのだ。

 そして今回、試合形式は取るが、サイズ的にこちらは巡洋艦級、相手は大戦艦級が八隻というあまりに不利な状況だ。

 だが宇宙戦艦白雪艦長である秋月夕日乃に悲壮感は全く感じられない。

 むしろやる気満々で、必ず勝てると信じて疑わない、そんな表情をしている。

 白雪が指定されたポイントは北極点上空2500km。

 敵艦隊も南極点側上空に集合している。

 試合宙域は地球を中心に月軌道内の全て、ここから出ると反則負けになる。今回は正規戦ではない為、地球大気圏戦闘は禁止にしている。宇宙戦艦が本気の速度を出せば、あっと言う間に月軌道など飛び出てしまう。それ故に機動力重視の白雪のような小型高速艦には分が悪いルールと言えよう。

 ボワードがターミナルコロニーに流れ弾警報を発令させた事で、全宙域に緊張が走る。現在、観光や作業中の艦艇が慌ただしくコロニーへ避難を始めている。

この様な暴挙がまかり通る時点で、当然アルフレッド委員長は現在地球圏不在だ。


「ゲハッ再びあの艦を捕らえる好機に巡り合うとは、何たる僥倖!しかも今回はお誂え向きの艦隊だっゲーッハハハハッ!」

 下品に笑いの上機嫌なボワードを横目に艦隊司令エッゲルト・ホイマンは的確に指示を出し、戦闘準備を整える。

 いかに高名なクラリア艦であろうと巡洋艦級一隻に、我がエッゲルト艦隊を構成するバウムガルデンⅡ八隻の連携に敗北は有りえない。だが軍人である以上、驕らず冷静に事を成すのみである。


【艦 名】 バウムガルデンⅡ D型仕様

【形式名】 BG2005 ドレクスラー型 大戦艦

【サイズ】 デミトロン級 全長698m 最大全幅208m 

【主 機】 ハイペリオンドライブ×6基(シャフト深度250m) 

【攻撃兵装】大口径4連プラズマ荷電粒子ビーム砲塔×4基 

      3連荷電粒子ビーム砲塔×12基 

      光子魚雷発射口×1基 艦首ミサイル魚雷発射管×12基 

      後部ミサイル発射管×12基 対空兵装多数

      ハイペリオン砲×1基 

【防御兵装】エネルギーシールド(最大展開数26)エネルギースクリーン

【特殊兵装】D型装備

【備 考】 シュバルツバルステラ重工製大型宇宙戦艦。簡易マナス艦で乗員12名      での運用が可能。このクラスの汎用艦だが、D型仕様は中隊運用を想定      した特殊兵装を装備する。


「グランドン・ボワード殿、両陣営準備完了です」

「よし、カウントを出せ」

 60、59、58、57……


「おっカウント出た出た。ねぇ雪ちゃん、あのおじさんは以前雪ちゃんを捕まえようとしてたヤツだよね、きっと今回もそういう風に動くと思うけど、どう思う?」

「そうですね、元々さくらを狙ってましたから、恐らく捕獲に使用する様な装備を持っているかもしれません」

「うん、私もそう思う。こっちのハイペリオン砲大丈夫?」

「はい、さくらの牙は全然届いてませんから問題ありませんよ」 

 そのままコクリと頷く夕日乃。緊張は感じられない。   

 10、09、08……

 くいっとお尻を持ち上げ、いつもの前傾姿勢。

「じゃ、行くよ!」

「はいっ!」

 03、02、01――GO!!

「敵艦、こちらに向かって来ません。月方向へ加速しています」

「ほう、流石に子供でもこの戦力差は理解できると見える。司令どうするかね?」

「はい、まずは様子見、プランBで対応します。ハウンドⅠ、Ⅱは先行し対象をこちらへ追い立てろ!突出せず距離を保ち一対一は避けるんだ!残りは距離を取り艦隊攻撃で相手を弱らせ、そこをD装備で捕獲する。小型艦だからと侮りません」

「さすが司令、頼みますぞ」


「夕日乃、二艦追ってきますよ」

「じゃあ様子見に、どんな戦艦か試してみよ」

 宇宙ドリフトターンを決めると一気に加速する白雪。

 各砲口内部に粒子光がぼうっと輝き出す。

「艦長っ敵艦反転!我が艦に向かってきます!」

「まずは小手調べだ、ハウンドⅠ援護頼むっ!第一、第二主砲目標へ照準固定!すれ違い様に側部副砲で対応!来るぞっ主砲斉射!」

 ドヒュウゥン!ドヒュウゥン!大型砲塔二基から白雪に直撃コースで黄色みがかったプラズマビームが放たれる。大口径砲8門のエネルギー量は凄まじく通常の巡洋艦ならシールドを何枚重ねようと貫かれ即撃沈であろう。

 だが白雪はそれをひらりと回転しながら紙一重で回避。

 白雪のエネルギークリーンが敵砲のプラズマに干渉しパリパリと閃光を放つ。

 それが消える間もなく、回避動作から一気に敵艦へ近接する。

 しかしそれをもう一艦が動きを読み白雪を攻撃!――するも今度は逆回転で回避。 白雪もそれを読んでおり、右艦翼砲及び右腕アクティブアーム甲部砲から大口径プラズマビーム発射!それは前方の艦ではなく右舷艦ハウンドⅠへ向けた攻撃だ。

 防御すべくオートで展開されたシールド3枚を砕き、減退したビームがスクリーンに命中し艦を揺らす。装甲へ届かずダメージは微小。

「なっ何と!あの艦砲は我が艦主砲並の威力があるのか?」

 そして前方にいるハウンドⅡが二射目を放った時、白雪はほぼゼロ距離まで詰め、左舷に展開したシールド二枚重ねを力技で発射されたビームごと敵主砲に押し付ける。凄まじい閃光と衝撃でシールドが弾け敵砲筒数本が吹き飛ぶ。更にすれ違い様、左腕アクティブアームを敵スクリーン内に突っ込み、こちらを指向する左側部砲塔2基を発砲直前に側面装甲ごとビームクローで切り裂き、更に並ぶ副砲2基を刺し貫き一気に加速し離脱した。

 ハウンドⅡの発射直前のエネルギーを蓄えていた副砲塔が爆発し艦を大きく揺らす。だが、ダメージを負うも、全長だけで白雪の倍ある大戦艦だ。

 この程度では航行に全く影響はないが、戦闘力三割程のダウンは大きい。

「ハウンドⅡは無事か?あの艦やるぞっ!火力も操艦技術も凄まじい!気を抜くと、こちらが食われるかもしれん」

「艦長!旗艦より入電、ハウンドⅢを追加し三隻でプラン続行との事です!」

「よしっ!ハウンドⅢと合流し敵艦を追い込むぞ!」


「やっぱ大きい分面倒だねぇ、硬さは問題ないけど、前の時みたいには行かないな」

 前の時――とは、傭兵戦艦ドワンゼッペルを瞬殺した時の事だ。

 カニのハサミの様にアームを折り畳み艦底部定位置に戻しながらレーダスフィアで敵位置を確認する。戦いは始まったばかりだ。

「先程接触した二艦は後続と合流するようですね。三艦でこちらを追うみたい」

「硬さは判ったから、次は最低二艦撃沈させるね。ゴリゴリ行くからシールドよろしくねっ」 

「了っ解!」

 バウムガルデン三艦はハウンドⅢ、Ⅰ、Ⅱと左の艦を先頭に斜めに艦列を構えた、左雁行陣を組み白雪を追跡する。先程被弾したハウンドⅡは一番後方に付けた。これは無傷の右砲戦を主に置いた陣形だ。

 艦列前方艦へ向け突撃してくる白雪に主砲及び副砲で連射右砲戦を開始する。白雪が敵ビームをシールドで受けながら避ける様に下方へ潜ると、敵艦も死角を突かれぬ様にぐるりと艦体を回転させながら砲撃を続ける。

 大口径砲は熱量が高く、連続砲撃を続けると砲身をオートで強制冷却し攻撃を止める瞬間がある。その瞬間を補う為に副砲が砲撃するのだが、その威力では一撃で白雪の重厚なシールドを破壊できないのだ。

 白雪はタイミング良く三枚のシールドを重ね大口径ビームを受け止める。他艦からの砲撃も別にシールドを効率的に展開させ防ぎ続ける。夕日乃は白雪にシールドを任せに距離を詰め、途切れたビーム攻撃の隙きを狙い一気に先頭艦ハウンドⅢ右舷に取り付くと、ダイナミックにアームを展開させビームクロウでサクサクと、そしてブスブスと届く範囲の武装を刺し貫く。

 その姿はまるで大型草食動物に襲いかかる肉食獣の如くの様相だ――

 もしくは白いザリガニに襲われる大型魚に見えるかもしれない。

 白い戦艦に取り付かれた友軍艦への被害を躊躇し砲撃を止めた陣形中央のハウンドⅠへ向け全ビーム砲を最大放射攻撃!

 途切れず放射され、攻撃力を最大限に発揮したビームがバリンッ!バリンッ!とシールドとスクリーンを突き砕き、スクリーンを容易く貫くと装甲を融解させ艦首から右側面へかけて大口径ビーム5本を貫通させる。

 更に貫通したビームはそのまま最後尾艦ハウンドⅡへ直撃した。

 放射攻撃故、ビームに減退はなくハウンドⅠを貫いた同じ威力のビームだ。

艦首に展開したシールド全てを砕かれ、主砲1基と先程ダメージを受けてた主砲が完全破壊され、更に副砲2基を焼かれながらも、白雪の射角が浅く辛うじて致命傷を回避し後退する。

 アクティブアームによって艦中央側部を貫かれた先頭艦ハウンドⅢにトドメをさすべく、ドリルの如くビームクローを回転させ竜骨に相当するメインフレームを掘削攻撃し、更に追い打ちの甲部大口径ビームを内部構造体に向けたっぷりと放射攻撃!

 先頭艦に取り付いてからここまで約14秒。

 更に狩り損ねた最後尾のハウンドⅡに攻撃を仕掛けようとした瞬間、後方の艦隊からの猛烈な砲撃を受け、一時撤退する。


「しっ司令っ何たる体たらくだ!あれを操縦してるのは14のガキなんだぞ!」

「わっ判っております!しかしあの様な性能の格闘艦が相手では、接近されたら艦隊戦向けの大型艦では太刀打ち出来ません。せめて突撃艦の小隊でもあれば……」

 事前情報以上の性能を披露する白雪に、戦術ミスを素直に認める司令のエッゲルト。彼は元ユニオン軍の退役提督だ。

「グフフッなら私の妙案を試してもらえますかな」


 ハウンドⅠ中破。艦機能一部停止、作戦行動不能。

 ハウンドⅡ中破。主砲、副砲の六割使用不能、作戦行動のみ可能。 

 ハウンドⅢ大破。艦機能完全停止、恐らく廃艦。


 敵が艦隊再編に艦足を緩めたのを見計らい、一旦白雪も地球裏側へ距離を置く。

地球圏内では、どれだけ距離を取ろうと、普通に砲撃が届いてしまうのだ。

「うーん、全部やれたのにちょっと砲撃精度が甘かったね。反省する」

 どうも夕日乃はビーム攻撃よりも高度な近接格闘戦を好んでいる?

「ゆ……夕日乃、あなたは操艦も凄いですが、何故そこまで冷静でいられるの?私が一緒だからは無しで!」

「え?じゃあ~わかんない」

「え~~っまぁいいです。それでこの後、相手はどう動くと思います?それとも夕日乃が動きます?」

 目を閉じ少し考える少女をちょっと嬉しそうに見つめる白雪。目を開くと表情が少し険しくなる。

「二つ撃沈したから、あいつ、なりふり構わない事してくるかも」


 予感は的中した。敵は東京上空500kmの軌道上で艦隊を展開し、事もあろうに照準用レーザーサイトを地上に向け照射するのだった。

 ちなみに人に当たれば只では済まない出力だ。

 その目標は東京上空で再生中のさくらを守るヤマブキはおろか、スカイ樹などの都市構造物までも含まれている。

 つまり砲撃から仲間や街を守りたくば、艦隊の前に出て来いと言ってるのだ。

『なんというクズぞ、わっちが今ここから全て薙ぎ払ってもよいかの?撃沈だけならものの一瞬ぞ?』

「ううん、ヤマブキちゃんは、そこでさくらちゃん守ってて。こっちは何とかする。今回は私達で勝たないと意味ないから」

『うむ、白雪姉の相方は頼もしく育ってるの~わっちも夕日乃が欲しいぞな』

「ええ、あげませんよ?って、そういえば何ですその流暢な喋り方!」


 エッゲルト艦隊旗艦グレートハウンドの艦橋内にて、聞くに堪えない笑い声が響いていた。クルー達の軽蔑する視線に笑い主は全く気付かないようだ。

「ゲッハッハッ!素晴らしい名案だろう司令!これならあのガキも大人しく出てくるしかあるいまいっ!」

「グ……グランドン殿……流石にこのやり方は問題ではありませんか?」

「何を言うか、既に大損害を出しておるのだ!半年前にも原因不明で八隻失い本社からの支援もこれ以上受けられん!今回こそ結果を出さねばならんのだぞ!」

「わっ判りましたが、ですがこの作戦はあなたの指揮という事で構いませんな?」

 レーダーにこの宙域へ移動を開始する白雪が表示されると、ボワードがヒートアップし叫ぶ。

「無論だ!私の作戦と指揮で結果を出してやるわい!よし、まずは一発地上の金色のデカブツに撃ち込め!」

 グレートハウンドの艦首第一砲塔がレーザーサイト照射中のヤマブキヘ向けプラズマビームを発射する。

 それは瞬時に地上へ届き、ヤマブキの展開するシールドによって弾かれ凄まじい光を都心に放った。この程度のエネルギー量では何発撃ち込もうと金色の装甲へは届かない。

「もう一発だ!」

 次のビームは間一髪射線に飛び込んだ白い宇宙戦艦のシールドにより弾かれた。

「よぉし来よったな!本艦とハウンドⅣは、白い艦があの場から動けぬようビーム出力を調整し攻撃開始!残りは捕獲準備っ!」

 白雪がビーム攻撃を全て受け止め続けねばヤマブキ達や東京都心に被害を与えてしまう。そんな状況を作り足止めするのがグランドン・ボワードの作戦だ。

 そしてシールド24枚展開で手一杯の白雪を四方より残りの艦が取り囲む陣形を取ると、艦底部から現れた全長200mにも及ぶ仰々しい装置が起動を開始する。


「これって相手の思う壺の展開だよねぇ。うわー何だろあの装置、怖いなー」

「うわーって……夕日乃楽しそうですね」

 白雪一人であったら、きっといつぞやの様に泣き叫んでたかもしれない。


 四方の艦から白雪に向け緑色の光が放射を開始する。その光は白雪のスクリーンを無効化し艦体にまとわり付く様にどんどん包み込んでゆく。

「これは……一種のエネルギー粒子ですね。凄い高密度ですよ」

「つまり、どうゆう事?」

「つまり私達の使用するシールドに近いエネルギー粒子で、恐らくそれを使って艦を固めて動けなくしようって物なのでしょう」

 緑の光――バインドケージにより、ほぼ全体が覆われると、白雪へ足止め攻撃してた二艦も装置を起動させ、直径600mに及ぶ球体で白雪を完全に封じ込め拘束する事に成功したのだった。

 高密度シールドによって、まるで氷漬けの如く、砲口も塞がれ、アームも展開不能に陥り、もはや戦闘継続不能である。更にケージが減退しない為の制御リングを周囲に展開されたので、万事休すと言えよう。

 この高度だと地球重力に引かれ落下するので、推力を失った白雪を封じた球体に牽引ビームを接続し、敵艦が静止軌道まで引き揚げを開始しする。

「舐めてたー全然動けないよ雪ちゃん、これ凄いよ」

「そうですね、ギッチギチですね」

 この様な状況であるというのに、何故か二人に悲壮感はない。

『どうだぁ!ガキ共ぉ私の勝ちだっ!大人しくその艦を明け渡せば、お前達と下の連中を見逃してやっても良いぞぉ?』

 モニターに映し出される、暑苦しく不愉快なドヤ顔に「うっわぁ~キモ!」と顔を背ける二人。

「そんな約束してないし、勝利宣言はまだ早いよ?」

『何ぃ?もはやその状態では何も出来まい!潔く負けを認めんか!』


 ビシィィッ!

 突如、ケージの球体が白雪喫水線から水平にぐるりと全周囲にヒビが入る。

『なっ……!』

 次の瞬間ヒビから光が漏れ出し、一気に球体を砕き散らせた。それはまさに大輪の花。夏の夜空を飾る花火のような美しい花を宇宙に咲かせた。

 キラキラと輝き消えてゆく粒子の中……艦首と左右艦翼のエッジに沿いに眩い光を放出させ、巨大な光の翼をひろげる宇宙戦艦白雪。

 その竜の頭部にも似た艦首センサーアイを輝かせ敵艦を物色する。


 まるで獲物を狙い定める白竜の如く。


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