第11話 軌道エレベーター
西暦2000年――
白い宇宙戦艦に予言されたその年、地球に銀河ユニオンの使節団が来訪した。
彼らユニオンの使者は、地球との友好結びその証として、この地でのユニオン恒例の祭り開催地したいと提案してきたのだ。
銀河ユニオン戦艦祭。その名に人々は不安を感じるも、その内容が戦艦を使用したオリンピックに似た祭典だと知り安堵する。
そして開催地である地球と地球人類への贈り物として、宇宙進出の足掛かりになるターミナルコロニーと軌道エレベーターが提供される事を知り大いに沸いた。
使節団と一緒にターミナルコロニーと随伴艦隊、そして建造されながら航行してきた軌道エレベーターの一部が地球圏に到着しており、昼間であっても数千km近いサイズのエレベーターシャフトがぼうっと空に浮かんで見る事が出来る。
素晴らしき宇宙時代の幕開けに歓喜した人類はこの重大な案件を二つ返事で受け入れた。歓声で極少数の慎重派の声が掻き消されてゆく。
ただ、戦艦祭開催とエレベーターの提供はするも、銀河ユニオンへの加盟は条件が満たされておらず、直ぐに加盟とはならないとの事だった。
その条件は、まず人類が統一意志を持つ事。これが出来ないとユニオンの規律も守れず、惑星間の取引なども不可能だからだ。
そしてもう一つ、ハイパードライブ航法を持つ事だ。残念な事だがこの二つを満たすには、人類にはまだ時間が必要であろう。
軌道エレベーターに関し、使節団も呆れる問題が発生した。
このエレベーターをどの場所に設置するかで、国家間やその所属する陣営間で壮絶な争いが始まってしまったのだ。
これがすんなりと決まるようならユニオン加盟条件の一つのクリアも間近であったろう。
まず赤道上に設置するのは当然として、問題は場所だ。
国連が運営するとしても、設置された国は莫大な利益が得られるのは自明の理。
そして何より国家間のパワーバランスに大きく影響する。
答えは中々出なかった……
その間も軌道エレベーター建造は宇宙空間で進んでゆく。
愚かな事に三年が経過してもまだ決定できぬ人類に、元来おおらかなユニオン使節も「あと一年で決めないなら勝手に設置するぞ」と、呆れる始末。
未開の惑星だと宣伝してるのと同じである。
そこで白羽の矢が立ったのが白い宇宙船だ。
定めた時刻に白い宇宙船が居た場所。その緯線の先にある赤道上に設置しようという事になったのだ。一種のギャンブルであろう。
そして、運命のその時刻――白雪(当時はまだクラリア白)はハワイのヒッカム空軍基地に着陸し、ホノルルでロコモコを食べているのだった。
観光客も多い有名店のオープンテラスで、約20年前と変わらぬ悩ましいボディのミステリアスな美女が、純白の髪をなびかせ、ぷるんぷるん揺れる大胆な純白ビキニと、瞳と同じ薄紫色のシースルーパレオ姿を披露していた。
当然ながら周辺は大騒ぎとなったが、彼女がしぃ~っと人差し指を口元に立てると驚くほど静かになってゆく。
いつの間にか周囲には屈強なSP達がガードしており、とても近寄れる雰囲気ではなかったが、意を決し写真を一緒にと頼み込む勇者が現れると彼女も快く応じ、記念撮影大会が小一時間ほど続くのであった。
テイクアウト用のロコモコを腕に下げ、にこやかに基地司令達と挨拶する白雪。そして空軍基地を白い宇宙船が離陸する。
艦首を上げ、くるくる舞う様に回転しながらシュパァーッと蒼穹に消える。
宇宙と大気の狭間へ上昇すると、準軌道飛行で一気に日本へ向かう。
帰宅に要する時間は約二分。ロコモコは温かいまま両親の朝食に……
美味しいけど朝から重いわ!
この事から軌道エレベーターの設置場所は、ハワイから南下し赤道上にある島国、フェニックス共和国と決定した。
フェニックス共和国はイギリス連邦に所属する西側の国だ。
当然異議を唱える国が現れる。中でも太平洋に領海が面しない中央民主共和国の反発は一番大きく、怒鳴り声がいつになっても収まらない。
「HAHAHA!ならばハワイに来ていた彼女に文句を言うべきではないかな?」
米国代表がそう皮肉を込め発言すると、白い宇宙人美女のこぼれ落ちそうな奇跡の瞬間を収めた画像が大画面に映し出され、会場が騒然となった。
「この写真は!誰に頼めばもらえるんでしょうか?」
不謹慎ではあるが、我が心の代弁者といえる勇者が挙手し発言すると男達の大歓声が沸き起こるのだった……(大丈夫かこの星)
神々しい女神の姿を前に反対する声も消滅し、投票の結果賛成多数で可決。三年に及ぶ軌道エレベーターの案件がようやく片付くのだった。
今回あまりにも露骨なタイミングにアメリカが関与したのではないかと疑問の声が上がるも、白い宇宙船はここ数年世界中のグルメスポットを巡っていたので、その事実を突きつけられると反論出来る者は皆無であった。
……さて、本当に白い宇宙船はあの日、あの時、あの場所に、偶然ロコモコを食べに行ってたのだろうか。
事実はこうだ――星宮家の近所のアパートに外国人が住んでいる。
「ワタシ、ニッポンダイスキー!」
彼の名は、ジョニー・ウィック(33)だ。
「オジョウチャ~ンコニチワ~!イイテンキデスネェ!」
「はいっジョニーさん、こんにちは」
花壇の手入れをしてる女児に、ひょろっと背の高い外国人が挨拶をしてきた。なんの変哲も日常の一コマ。
彼が少し年季の入ったショルダーバッグから、何やらチラシを取り出すと女児がそれを受け取り興味深そうに見つめる。
「ん~?これは?」
「コレネ、ロコモコ!ハワイデイチバァン美味シイオ店ノ広告デスザマース!」
「ほほう……美味しそうね、それで?」
「明日、お食事にお出かけしてはいかがでしょうか」
三歳児とは思えない不敵な笑みを浮かべ問う女児と急に流暢に喋り出す白人男性。
実はこの外国人、米国のエージェントで白雪をこっそりと見守る任務を帯び、この町に滞在している者の一人だ。
決して見張っているのではない。問題があれば白雪自身が排除に動くであろう。そう、互いの正体を彼も彼女も素知らぬふりする間柄なのだ。
以前から米国は日本政府にこっそり働きかけ、白雪が日本人として穏やかに暮らせる様にとフォローをしており、それを彼女も知っている。
彼経由で自ら育てた花の種を大統領宛に贈って貰った事もあるのだ。
その時彼は「バレテマシタカー!」と驚きの顔を見せながら、大笑いするのだった。過去、このような露骨な要望は一度も無く、何かあったのだろうと容易に想像がつく。
つまり今回の件は偶然でも何でもない。
ギャンブルで例えるならイカサマなのである。
ただ付け加えておくと2000年以降、来訪する戦艦祭関係者と地球人国家、企業間、個人等とのあらゆる交流がユニオンによって認められている。
なので白雪が理解した上でこの件に加担しているのは別段問題ない行為なのだ。
ちなみに2000年以前にフライング交流した白雪は違反しており、厳重注意を受けている。
もっとも注意を受けたのは、所有者兼保護者のクラリア博士の方で、白雪には特にお咎めは無かった。
今回のユニオン関係者と特定の国が結び付き画策するという行為は、十数年後に別の勢力によっても起こされ、大惨事が生み出す結果に繋がる。それはある意味今回の件が引き金になっている可能性も否定できない事件であった。
そして2005年、全長5万kmに及ぶ軌道エレベーターシャフトが、フェニックス共和国海上に建造された直径45kmのウォーターフロント基部中心と合体した。
その人工島は地上と宇宙を繋ぐ宇宙開発と異星間交流の地球側玄関口として、そして国土が海面上昇で水没の危機にあったフェニックス国民の新都市として発展してゆく。
直径250mのシャフトが雲間から降下してくる様子は全世界に中継され、それはまるで神の手が人類に差し伸べられたかの様な神々しい光景であった。
軌道エレベーターの途中には、低軌道及び高軌道ステーションが設けられ、更に宇宙側の先端部には直径35kmの自律航行可能な巨大ターミナルコロニーが存在する。
これがが宇宙側の玄関口となり、宇宙からの観光客受け入れを行う。
更に戦艦祭参加艦の登録及び補給とメンテナンス設備を有し、護衛艦隊の駐留基地としても利用される。
祭りが終了すると施設運営管理は当面ユニオン側スタッフが代行するが地球側に所有権が譲渡されれ、宇宙への橋頭堡になるのだ。
ユニオンの軌道エレベーターとしては小型の部類ではあるものの、現在の地球人類にはむしろ過分な施設だと言える。
だか、いずれ自らの手で更に大きな軌道エレベーターを建造し宇宙へ飛び立って征くだろう。
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