第2話 ファーストコンタクト
1話から約33年程遡ろう……
1984年晩秋――
街中でも何気なく空に目を遣る人が増えたのは気のせいではないだろう。
忽然と現れたそれは地上から500㎞上空、衛星軌道上に静止していた。
ただそこに在るだけで人々の好奇心を掻き立て、未知に憧れる人々の心をぎゅうぎゅうと鷲掴みにしてゆく。
未知の存在が遥か宇宙の彼方よりこの地球にやって来たのだ。遂に宇宙人が我々に会いに来たのだ。そう人々は心を躍らせた。
衛星軌道上のそれは、朝夕わずかな時間帯のみ太陽光で照らし出され、群青あるいは燃える赤、橙から紫へ変わる、鮮やかな空の彼方に浮かび上ががる。
そして、ぼうっと白く輝く。
その姿は時折白竜にも見え、人々の目を楽しませた。
白い宇宙船――誰もがそう呼び空を見上げる。
初めは好意的な声が多かったが、鮮明な宇宙船画像が撮影され世に公開されると、人々から不安混じりの声が上がり始める。
「本当に宇宙船なのか?」
「これ武器に見えないか?」
「あれは戦艦ではないのか?」
白い宇宙船は艦首を地上に向け、世界中の人口密集地上空に場所を変え、高度を変え、じっと静止する事を繰り返していた。
まるで猛禽が獲物を物色してるかのようだ……
そんな風に人々の目に映り、不安が口々に囁かれ始めた。
すると白い宇宙船はその不安を払拭させるかの様に、腹を晒し無害アピールをするかの如く艦底部を地上に向けるようになったのだ。
人々はその行動から、こちらの意を汲み、意思の疎通が出来る存在が乗っているのだと安堵し、コミュニケーションを取ろうと電波でメッセージを送る人々も現れるのだった。
一年程すると、白い宇宙船は日本列島上空に留まる様になっていた。
時々姿を消しても、そこが定位置であるかの如く戻ってくる。
好機と捉えたNASAアメリカ宇宙局は、スペースシャトルノーチラスによる接触計画を実行した。
それはとても危険な行為とも言える。明らかに武装と思しき装備が複数確認できる未知の存在へのコンタクトなのだから。
シャトルの全長は37m程、対する白い宇宙船はその十倍近くあり、何か起これば一溜まりもない。
相手が受信しているか不明であるが、何度も友好を伝え、シャトルは空のペイロードを開き害意無しとアピールしながらゆっくりと白い宇宙船に接近してゆく。
そして横にピタリと並ぶと、緊張な面持ちの青年宇宙飛行士が一人、宇宙船の甲板であろう場所へ向け、すうっと宇宙遊泳を始めた。
ふわりふわり……あと少しで到着という所で、突然落下するように甲板に叩きつけられしまう宇宙飛行士。
「うわぁっ!」
ヘルメットを打ち付けてしまい、必死で空気漏れが無いか確認しながら彼はハッとする。ここには重力がある!
「大丈夫?」
同時にすらっとした白い手のひらが差し出される。
え?声??手??誰の??
私はその瞬間、混乱しまいと必死で状況整理をする事にした。
私の名はノーマン。父はマイク、母はジョアンナ、カレッジで二人は出会い在学中に私が生まれ……
うむ、思い切り混乱しているようだ。とっとにかく、まず起き上がろう。
視界に明らかに女性のものであろう脚が見える。ゆっくりと視線を上げ、その存在を見上げ……目を見開き、ゴクリと息を呑む。
白く美しい……そして凄く大きい……
言葉を失うほど美しい女性が自分に手を差し伸べているではないか。
「重力をかけるイミングを失敗してしまいました……怪我はありませんか?」
「え……あっああ」
申し訳なさそうにこちらを見つめ、優しく私の手を取る女性にうまく言葉を返せない。
彼女の手を借りて立ち上がり、少し落ち着き、彼女の姿を改めて確認する。
間違いなく人間に見える……いや人間だ。それも女性だ。
二十歳ぐらいの女性に見えるが、もっと若いかもしれない。
今確実に言えるのは、彼女は間違いなく地球人ではないという事だ。
驚くほど白い、腰まで届いてるさらさらと光が零れおちる純白のロングヘアー。
そして薄紫がかった銀色の瞳……
そして大きい……胸!しかも服装が……ゴクリ。また息を呑む。
白地に黄緑の肌に張り付くように薄いスーツが彼女のボディラインを艶めかしく際立たせている。
はっ!見入って失念していたがこの女性、宇宙服を着てないじゃないか!
それともこれが宇宙服なのか?ヘルメットもしていないが。
「ここにフィールドを張り、生存可能な空間を作ってますから、ヘルメット取っても平気ですよ?」
恐る恐るメットを外し、すぅぅはぁぁ~と深呼吸する。
叫び続けているキャプテンの通信音声に今気付いた。
「はっはじめましてっ!わっ私はアメリカ合衆国宇宙飛行士、ノーマン・ヤングです!」
「はい、私はクラリア白。白はホワイトの白です。緊張しなくていいですよ」
「何を聞きたいですか?」
柔らかな物腰でにっこりと笑うクラリア白と名乗る彼女にノーマンも少し落ち着きを取り戻し――
「胸っ大きいですね!すっ素敵です!」
全然落ち着きを取り戻していなかった。
想定外の言葉に彼女は大きく胸を揺らし笑う。
「すすすすみません!あっあなたは何者で、ど何処から来て、この地球に何をしに来たのですか?」
やっと想定してた質問をされると彼女は静かに語り始めた。
「まだ詳しくは言えません。今はまだ私がこのように地球の方と接触する行為は禁止されているのです」
「でも折角ここまで来てくれたのです。ほんの少しですが可能な限りお話しましょう」
「ここから銀河の中心へ二万五千光年程の所にある惑星ヴェリスティアから私は来ました。今ここに私がいる理由は、個人的好奇心で地球の人々を観察する事です」
「なのであなたの星を侵略したり、あなた方の命を脅かすような行為をする事は絶対ありません」
「地球時間であと15年ほど先、西暦2000年に私の所属する銀河系内の惑星国家約四割が加入する共同体の使者が現れ、地球にある提案をします」
「その日から地球人類は宇宙時代を迎える事になるでしょう」
「ちょっと話し過ぎました……」
レコーダーが彼女の言葉を一言一句正確に録音して行く。
「2000年……あなたはそれまでの間、ここで地球人を観察し続けるのですか?」
「そうですね……出来る事なら、可能ならば地球の皆さんの中にひっそりと混じって……静かに暮らしてみたいです」
「それは素晴らしい!そうなる事を祈らせて下さい。私に可能なら協力を惜しみません!」
「ありがとう。ええと、ノーマンさんでしたね?」
透き通るような声色で名を呼ばれ、彼の鼓動は高鳴る。
やがて会話がたわいもな内容へと変わり始める頃、邪魔するかのようにシャトルのクルー達が我も我もとやって来て大騒ぎになった。
最後は彼女を中心に記念撮影をして、名残惜しさを強く感じながらも彼らは白い宇宙船から離れ、帰路に就くのだった。
大気圏突入を開始したシャトルの中、ノーマンは思う。
もし可能ならばどんな小さな事でもいい、彼女の為、自分に出来る事をしてあげたい……と。
その瞬間だった、異常振動とアラームがシャトルに響く。
減圧している?船体のどこかに穴が開いたのか!?叫ぶもうまく声にならない。
もはやクルーに出来る事は何もなかった。
大気との摩擦でシャトルが熱を持ち、激しく軋み音を立てる。
そして一際大きく船体が最後の悲鳴を上げる瞬間。
意識が遠のきかける中、誰もが死を覚悟し神に祈ったその時――音が消えた。
スペースシャトルノーチラスは静寂に包まれていた……
女神が微笑んでいる。ああ、私は天に召されたのだ――
ちっ違う!
コクピットの窓の外、こちらを覗き込む様に、彼女が微笑みながら手を振ってるではないか!
気付けばシャトルは白い宇宙船の甲板上で守られながら、雲海を航行しているのだった。
雲間から海が見える!太陽の陽射しが眩しい!その時やっと自分が生きている。
助かったのだと、ようやく実感した。
「「「うおおおおおお」」」
神に感謝する者。吠えるように号泣する者。割れんばかりのクルー達の歓声。
ノーマンも彼女への感謝を叫んだ。
白い宇宙船はケネディ宇宙センタースペースシャトル用滑走路へ無事着陸した。
クルーを降ろしたクラリア白だが――さて困った。
甲板までの高さ80m、そこに載る重量70tオーバーのスペースシャトル……
どうやって降ろそうか?
艦にマニュピレーターでもあれば簡単に降ろせるのに……
見上げながら悩むクラリア白とノーマン達。
宇宙船と宇宙人の突然のに来訪に慌てふためいてたセンター職員達も一緒に知恵を絞る。
そうこうしてるうちに、すぐ近所のケープカナベラル空軍基地の兵達も集まり始め、超美人の巨乳宇宙人が来ていると知るや否や現場は祭り騒ぎになってしまった。
しかし基地司令が現れた事で、何とかこの騒動は収まった。
ともかく今はシャトルだ。大型クレーンはすぐに用意できない。
壊れてるしいっそ落としたら?という暴論も出る始末。
幾つかの案は出るも、結局大型ヘリで降ろす事になったのだが「あーっ」とクラリア白が声を上げヘリコプター案を止める。
シャトルの両翼下にシールドを展開し、そのまま持ち上げ移動させ、難なく降ろす事に成功した。割れるような大喝采。
――どうしてもお礼をさせて欲しいとの彼らの熱望で、ならばと彼女が要望したのは、アメリカンな巨大ハンバーガー。
彼女は衛星軌道上から、美味しそうだな~食べてみたいな~と指をくわえ眺めていたのだそうな。
基地の食堂で皆にぐるりと囲まれ、豪快に巨大バーガーを頬張る――
美味しい!食べる、食べる、食べる……食べ……きれなかったわ。ガクリ(汗)
報告を聞いた合衆国大統領も大急ぎで現れ、握手と写真撮影を求められ、彼女もそれに快く応じた。
そして大統領命令のもと、その場は大歓迎パーティ会場と化すのだった。
数時間後、彼女を無理に引き留める事はせず、ノーマンをはじめ大統領達は艦影が雲間に消えるまでずっと手を振り見送ってくれた。
何て気持ちいい人々だろうか、彼らの笑顔を思い出すたびに心が温かくなるクラリア白だった。
ちなみにハンバーガーの食べ残しは、凄まじい争奪戦になったらしい……
「「「プレジデーン!」」」
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