Monad Buster
もみあげマン
世界が観測した敗者の一幕
型階層と呼ばれる世界。
そこでは日夜、様々な
「
「スベテヲ抱擁セヨ……ソレガ
「
より強き者が弱き者を
型階層の
己が主張を絶対と信じ、相容れぬ型を殺す──それがこの
「も、Monadだーっ」
戦士の悲鳴が戦場に響き渡る。
彼の視線の先には、怪しげな法衣に身を包んだ集団。
種族間の争いが横行するこの世界において、種族ではなく1つの思想の元に集いし異端達。
『
『
Monadの思想に染まった者達──
『これは厳しい
『だから従わなければならない』
教義を相手に囁き、
そして、思想に従わない者達を例外なく亡き者にする。
「もうだめだ、おしまいだぁ……」
それまで勇ましく戦っていた男が、絶望に顔を歪めながら膝をつく。
彼らの教義を受け入れることはできない。
だが、多くの強者をその教典を用いて取り込み強大化した組織に勝てる見込みもない。
男が選べる未来はただ一つ、弱者として抹消される道だけだった。
『さあ、我らと共に高みへ至ろう』
それまで戦場で争っていた者達が、次々とMonad
「に、逃げ……ぎゃっ!?」
背を向けた者は入信の見込みなしとして処理された。
「こっ、来ないでっ!」
運悪く死ななかった者は拘束され後方へと送られる。
洗脳し、操り人形として使役するために。
「くそっ、くそくそくそくそがあああっ!」
生き残った者達がMonadの思想に洗脳されてたまるか、せめて一矢報いてみせようと得物を振り回す。
だが、彼らの攻撃は当たらない。
Monadという統一された思想の下で鍛え上げられた者達にとって、一般兵の戦いなど児戯にも等しかった。
「あ、ああ……」
Monadに反抗していた者達がついに武器を手放す。
眼前で見せつけられた圧倒的な力の前に、人々は抗う気力を一片までそぎ落とされていた。
「
異変が起きたのは、誰かがそう呟いた時だった。
「ぐあああっ!?」
「ぎゃっ」
暴風とも呼べる存在が、信者達を蹂躙した。
「奴は……Monad Buster!?」
死を免れた兵士の一人が驚きの声を漏らす。
噂話でしか語られることのない存在が眼前に現れ、しかも助けてくれるとは思いもしなかったのだ。
「あれは何者です?
我々の味方ですか?」
徹底命令を受けて戦場から逃げる兵士の一人が、先ほど驚いていた上官に問いかける。
彼ならばMonadの信徒達を倒し勝利に導いてくれるのではないかと期待しての質問だった。
問われた男は首を振りながら、耳にしていた情報を淡々と告げる。
「敵でも味方でもない。
Monadと思想を同じくしながら、
圧倒的な戦力差を、それを上回る力で退ける破壊者。
この世界で唯一無二ともいえるその在り方に畏敬の念を込めて、人々は彼をこう呼ぶ──Monad Busterと。
Monad Busterの使命はただ1つ。
姿形を変えて存在する多種多用な
「この世界に
フリーアはMonadに共感し、その力を信じるからこそ
信者たちが勝手な解釈でMonadを語り、捻じ曲がった価値観を他者に押し付けることが我慢ならなかった。
「貴様達の講釈など無意味だ!
真にMonadを信じるなら
「若造が、知ったような口を!」
老齢の男が唱えた呪文に連動する形で魔弾がフリーアへと殺到する。
彼の者を野放しにするわけにはいかない、ここで
フリーアは魔弾のことごとくを薙ぎ払いながら老人を睨むが、老人は臆することなく攻め続ける。
「文化が理解できぬとかつて我らを迫害した者達に、それでも手を差し伸べる我らのどこに非がある!?
「だからといって、世界を混乱させて良いわけじゃない!
解釈の違いで派閥を作って、皆を巻き込んで……それでは平穏から遠のいていくだけではないか!」
「それは我らを産み落とした
世界は敗者を許さない……神がそう定めたのなら、そこに住まう者はその理に従うしかない。
その理の中で多種多様な者達が生き残るには、種族ではなく思想によって世界を統一し勝者となる他ない。
多少の解釈の違いは、その争いの中で自然に整理されていくはずだと老人は叫ぶ。
「長い年月をかけてようやくここまでたどり着いたのじゃ!
あと少しでようやく世界はMonadに染まる……今更お主1人の我儘で覆されてたまるか!」
人生をMonadに捧げてきた男の魂が吼える。
震撼する魂に連動する形で、
『
それは、自身を生贄に世界と接続する魔法。
たった一度だけ許された禁忌の技。
「あなたは、そこまで……」
フリーアの目が驚愕に見開かれる。
老人の執念に、願いに、ただただ圧倒された。
自分を犠牲にしてまで敵を排除し、世界に思想を広めようとする姿にある種の感動さえ覚えていた。
同時に、フリーアは別のことも確信する。
「これで、終わ──」
老人が勝利の笑みを浮かべながら崩れ落ちる。
己の命と引き換えに展開した魔法が破られることはない──そんな絶対の自信を胸に抱きながら、男の生涯は幕を降ろした。
順風満帆とはいえないが、自らの信を貫き通した意味では幸せな人生だったのかもしれない。
いや、もっとも幸福なのはこの後の展開を知らずに逝けたことだろうか。
「ああ、終わりだ。
その魔法はこの間、
確認を怠ったあなたの、負けだ」
神の手によって世界は常に動く……弄ばれているようだが、それもまたこの世界の真理だった。
そのことを失念し、思想にのみこだわったことが老人の過ちだった。
戦場が静寂に包まれる。
「どうすれば、この戦いは終わるのだろう?」
フリーアの独り言に耳を傾ける者はいない。
生き残っていた者達は早々に撤退しており、戦いも決着した。
フリーアを除けば、この場に残っているのは敗者となり命の鼓動を停止させた躯だけだった。
「俺のように力を得た者が人々をまとめ上げれば、神は納得してくれるだろうか?」
安らかな顔で永遠の眠りにつく老人に問いかけ……いや、と自らその問いを否定する。
「俺は銀の弾丸じゃない。
だから、戦いを終わらせるのは俺じゃない──その一言を残して青年はこの地を去った。
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