寿司の定義

 総理の一言で、寿司を日本文化として海外に輸出することになった。悪くない案である。寿司文化の輸出は自動的に、寿司に合うコメの輸出にもつながるだろう。やはりタイ米で寿司というのは厳しいものがあるし。

 しかしこれがやってみると大変だった。まず、寿司が何であるのかということを定義できなければ、寿司を広めることはできない。当たり前だ。「SUSHIって、なんですか?」と聞かれて答えられないでは話にならない。頭のいい官僚が頑張って考えた。

「コメの上に魚介類が載っているもの」これではたまごが抜けている。

「コメの上に具材が載っているもの」これではどんぶりまで寿司である。

「酢飯の上に政府が定めた具材が載っているもの」鉄火まきが説明できない。

 そんなところに高知県や山口県の利害を代表する議員たちが「押しずしが入るような定義にしないとは怪しからん」というからもう大変だ。

 これを聞きつけたとある三世議員、こう言い放ったからすごい。

「寿司屋で出てくるのが寿司でしょう」

 そう、彼は回らない寿司屋にしか行ったことがなかったのである。

 こうして、回転スシチェーン店で出てくるラーメンは寿司となった。ラーメンが寿司となったのだから、ラーメン屋は寿司屋である。ラーメン屋が寿司屋なら、ラーメン屋で出てくるチャーハンも寿司になる。もうこうなると収拾がつかない。

 こうして日本の食事がすべて寿司と呼ばれるようになった近未来。私たちは未だに、寿司が輸出できない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る