分配論

 問うて曰く、世界一の大富豪の口座に手を突っ込み、その1%を分け与え、以て100万人を極貧から救うならば、これ如何。

 答えて曰く、善なり。

 また問うて曰く、師父の財布に手を突っ込み、10万円を盗み取り、以て100人を極貧から救うならば、これ如何。

 答えて曰く、悪なり。これは正当なる労働の対価なり。

 さらに問うて曰く、大富豪の金は労働の対価ならず、師父の金は労働の対価なり、これ古文書に言ふ矛盾ならずやと。

 答えて曰く、これ矛盾ならず。大富豪は労働せず資本を動かすだけで対価を得る。これすなわち搾取なり。

 弟子、不遜を恐れずまたひとたび問うて曰く、資本と言えども誰にでも貸すわけではない。人に貸し、その人がそれを元手に増やすからこそ資本が増えるのは自明なり。この経過において新たな事業、新たな製品、新たな雇用が生まれ、その対価としての金利が生まれるとすれば、そもそも誰に貸すか、だれが良い事業をするか、ということを見極めるもまた、労働にあらんずや。

 答えず。

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