第10話 穢れなき眼
ところで、
途中、落とした金山城がまだ無傷で残っていること、そして安房岡本城の守備兵力が思いの外ごく少数だったことを知ることとなる。
その知らせを聞き、
彼はすでにこの戦の形勢を見定めていたのである。
事実、正木勢が
そればかりではない。さらに、
もしあの時、正木憲時が岡本城へ戻っていたならば、彼らの一兵たりとも二度と上総の地を踏むことはできなかったかも知れない。そう言う意味では、正木憲時もやはり歴戦の勇として数えられるに値する武将であったといえよう。
大多喜城へと
すぐさま
このように、すぐさま次なる一手に着手するところ辺りが、戦わずして佐貫城を明け渡すことを選択した加藤
しかしながら、世の形勢は正木憲時が思う以上に、すでに里見義頼側へと傾いていた。
「ほんに、どこでどう間違えたのか。戦とは面白いものじゃ」
憲時は城を囲む数万の軍勢を前に、一人そのしわがれた顔をくずした。
一方、佐貫城の明け渡しを終えた義頼は、その足で
部屋の前まで来ると、部屋付きの
甲冑こそ身につけてはいないものの、その小さな頭には里見家の象徴ともいえる紫色の鉢巻きが巻かれている。
梅王丸は静かに両の手をつくと、義頼に対し深々と頭を下げた。
「梅王殿、怪我はされておらなんだか?」
義頼は目を細めては、梅王丸のその小さな手を自分の掌の上に置いた。
「叔父上、叔父上は私を殺すので御座いますか?」
梅王丸は、
「誰がそのようなことを。そなたはわしの
「叔父上は、この
梅王丸の目には涙が込み上げ、それは一筋の流れとなって
「わしは上総の民も、安房の民も皆供に仲良く暮らせる世を作るために、梅王殿を迎えに来たのじゃ」
義頼は、この小さな身体に里見家を背負わせたあの重臣達に、改めて
部屋を去るとき、義頼は
「叔父上、これは何というものですか? たいそう甘くて、信景にも食べさせたやりたいのですが・・・」
梅王丸は紙に包まれたその一つを口にすると、気が許したのであろう、いつもの幼い子供の顔に戻っていた。
その後、梅王丸と加藤伊賀守信景は安房岡崎城へと送られた。
信景の処遇について義頼の家臣らは、極刑を持って対処すべしと主張したが、義頼はそうはしなかった。
敗戦処理の中、一人で敵陣まで足を運んだ信景に対して、その
義頼は梅王丸のために、ただ梅王丸の為だけに信景を残したのである。
幼くして父
城を出立する日、義頼は
「梅王殿、わしはいつでもそなたの見方じゃ。よいか」
偽りのない眼差しでこちらを見つめると、こくりと頭を傾ける。同時に、「叔父上、信景の姿がありませぬが」と、加藤信景の所在を案ずる、幼い梅王丸の顔が、義頼にはいつまでも脳裏から離れなかった・・・
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