ススメ☆オトメ①

 王都から迷宮へ続く門の手前にある赤いレンガ造りの建物、それが冒険者ギルドである。ギルドは冒険者の相互互助を目的とし、冒険者の登録、実績管理、パーティの斡旋を行っている。


 リズも、まずはギルドに冒険者として登録しなければいけない。迷宮は魔物の巣窟であるため一般人が立ち入ることはできず、国王軍およびギルドに認められた冒険者しか立ち入ることはできないことになっているからだ。


 飾りも何もない武骨な扉を開くと、左手に受付が並んでいた。反対側はロビーになっていて迷宮探索のパーティを探している冒険者でにぎわっている。

 受付は六つあり、三つは他の冒険者の対応をしていた。リズは空いている窓口のうち一番優しそうなお姉さんのところへ向かった。


「おはようございます。本日はどういったご用件でしょうか?」


受付のお姉さんが笑顔を向けてくる。


「あのう、冒険者の登録をお願いしたいんですけど……」

「でしたら、こちらの用紙に記入をお願いいたします。それと推薦状はお持ちでしょうか? もし、お持ちでなければ入団試験が3日後に行われますので、そちらを受験していただく必要があります」


 ギルドに認められ迷宮探索を行うためには、それ相応の戦闘能力が必要になる。そのため、実績のある冒険者からの推薦状か入団試験への合格が必要となるのだ。


「それだったら、冒険者のものではないんですが、一応推薦状があります」

「拝見させてもらってよろしいですか?」


 腰のポーチから一通の手紙を取り出す。リズの兄が書いてくれた推薦状だ。

 受付嬢はそれを受け取ると「確認いたしますので、しばらくお待ちください」と奥に消えていった。推薦状が信用に足る人物によるものなのか照合するのだろう。


 ど田舎とはいえ剣術指南である兄様からの推薦状だし、大丈夫とは思うけど……。

 まぁ、駄目だったら試験を受ければいいだけか。


 そんなことを考えていたら、推薦状を確認してきた受付嬢が戻ってきた。

「西の辺境伯の剣術指南であるマイヤー様の推薦状ですね。以前推薦された冒険者の方も十分な実力者のようですし、問題ないとのことでした」

「じゃあ、今日から迷宮探索できるんですか?」

「ええ、そのための順守事項の確認をさせていただきます」


 曰く、冒険者にはランクがあり探索できる範囲に制限があるとのこと。

 曰く、ランクを上げるためには魔物から得られる素材をギルドに提出する必要があるとのこと。

 曰く、迷宮内での冒険者同士の刃傷沙汰はご法度のこと。

 その他にも冒険者としての在り方を説明されたが、正直数が多くて覚えられていない。


「遵守事項はこちらの手引きに記載されていますので、おいおい覚えていけばいいですよ」

 冊子を渡しながら受付嬢が微笑んだ。


 冒険者としてリズが受け取ったのは、その冊子とドッグタグであった。鉄製のドッグタグ――最低ランクであるE級冒険者の証――がリズに冒険者になったのだという実感を与えた。




 今日から迷宮探索ができるということで、リズは早速、受付の向かいのロビーに向かった。


「D級以上で前衛職の方ー!上層探索しませんかー!」

「C級魔術師でーす!中層探索される方どうですかー!」


 ロビーでは迷宮探索を行うパーティメンバーの募集や、各パーティへ自分を売り込む冒険者が声を上げている。その数、二十数名いったところか。


 迷宮は地下深くに続いており、その最深部は未踏の地だ。

 現状、王国によって五階層――最上層、上層、中層、下層、そして未開層――に分類されている。人類未踏の地である未開層に関してはA級以上の冒険者だけが探索可能であるが、どのパーティも二年前にS級パーティが到達した階層の探索を行っており、その下の階への到達は当分先の話になりそうだ。


 リズはロビーをうろつきながら、E級の自分が探索できる最下層に挑戦するパーティを探していた。

 しかし、新米冒険者を募集しているパーティはいないようだ。おそらく、明後日のギルドの試験日であれば、新米でパーティを組んで探索ということもあるのだろうが。


 E級のメンバー募集ってないなぁ……。

 迷宮って一人で探索しても大丈夫なのかな……。


 ためしに一人で行ってみて危なかったら戻ればいい――そんなことを考えながらロビーを後にしようとしたとき、後ろから声をかけられた。


「ねぇ、あなた。パーティメンバーを探してるの?」


 振り返ると三人組の冒険者がいた。声をかけてきたのは、黒いローブを羽織り、身の丈以上のロッドを手にした魔法使いの女性だった。肩まで伸ばした銀髪に真っ白な肌、たれ気味の黒い瞳がセクシーだ。その後ろには全身を鎧で固め、大きな楯と戦斧を背負った浅黒い肌をした大男と、僧侶服に身を包んだ痩身で糸目の優男が並んでいる。


「は、はい。ただ、今日冒険者の登録を済ませたばかりのE級で……。誰も募集してないなぁって」

「E級でも探索できる最上層の探索だと、あっという間にメンバーが揃っちゃうから、この時間だと募集はないかもしれないわね」

「そうなんですか……。最上層だったら一人で探索しても大丈夫ですかね?」


 声をかけてくれたけれどE級の冒険者を必要とはしていないだろうと思い、そう尋ねてみたが、「それなら、私たちと一緒に最上層の探索してみる?」と魔法使いが提案してきた。


「でも、いいんですか? もっと深い階層を探索する予定だったんじゃ?」

「いいのよ。私たちも最近D級に上がったばかりだし」

「では、お言葉に甘えて。私リズといいます。よろしくお願いします」

「よろしく。私はレベッカ。で、後ろのごついのがローグ、糸目の方がクオリアね」


 二人はそれぞれ「よろしくな、お嬢ちゃん!」「よろしくお願いします」と対照的な挨拶を返してきた。

 レベッカたちは四人で探索するつもりのようだ。「それじゃ、行こうか」とロビーから離れようとしている。そのとき、また声をかけられた。


「みなさん、よければ僕たちもパーティに加えてくれませんかね?」


 王都の冒険者はいろんな種族がいると聞いていたけれど本当だったんだ……。


 それが、声をかけてきた人物を見たときのリズの感想だった。

 声をかけてきたのは凸凹な男の二人組だ。長身の方は長く伸ばした金髪から尖った耳がはみ出していることから、エルフであるとわかる。小さい方はもっと特徴的だ。黒髪の上からオオカミの耳が生えている。


「俺らのパーティにか?」


ローグが前に出る。それに対しエルフが答える。


「えぇ、実は少し話し声が聞こえてきまして。そこの剣士さん、今日が初めての探索なんでしょう? 最上層なら大丈夫かもしれませんが、彼女の実力もわからないですし、パーティメンバーは多い方が良いと思うんですけど?」

「そうは言っても、あんたら最上層の探索なんてするつもりだったのか?」

「まぁ、今日は普段と違って二人で来ているもので、浅いとこを潜る予定でしたし」


 どうやら、この二人組は普段は他にパーティメンバーがいるようだが、今日は来ていないらしい。


「それに、新人さんと冒険してみたいですし」


 エルフがニコリと笑いローグを見る。二人はしばらく視線を交わすと


「確かに、これだけメンバーが揃ってりゃ最上層と上層の境界ぐらいまで潜れるかもしれねぇな。お嬢ちゃんはそれでもいいかい?」


 ローグが確認してくる。リズが了承すれば、六人パーティで潜ってもいいということだった。


「私としては初めてですし、慣れている方々にお任せしようかなぁと思います」

「それじゃ、決まりだな!よろしくな!えーと……」

「シオンです。よろしくお願いします。で、こっちが――」

「クロだ。よろしく」


 それぞれ自己紹介を済ませる。エルフのシオンと獣人のクロを加えた六人組――これがリズの初めての探索パーティとなった。

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