??? PART12 (完結)
12.
2009年2月28日。
「お、やってるな。もうすぐできそうじゃないか」
凪は縦長のダンボールを抱えながら入って来た。
「それにしても異常な光景だよな。自分の祭壇を自分で作るなんてさ」
「……ああ。まったく変な感じだよ」
彼に視線を寄せていう。
「千月の体を借りているとはいえ、このまま成仏してしまうかもしれない」
「面白くない冗談は止めてくれ。今お前にいなくなって貰ったら困る。例の
作戦が台無しになるからな」
明日は3月1日。事故に遭ってから一年ということもあり、志遠の一周忌法要をするため和室が貸し切られている。もちろん自分だけでなくここの創設者・
凪が手に持っている紫の小花に目がいく。スターチスの花言葉は『変わらない思い』。作戦を多少変更することにはなったが、あの時に誓った思いは今も変わっていない。
「それにもう一つ面白い花を持ってきたぜ。可愛いだろ? 名前は春紫苑(はるじおん)。花言葉は『追憶の愛』。今のお前にぴったりだ」
「……確かに間違ってない。今ここにいるのが僕ではなく千月だとしてもあっているよ」
そう、自分は今、千月の過去を追想している。
千月のために彼女の過去を変える物語を作っているのだ。彼女はその夢を現実として受け入れ順応し始めている。彼女の記した日記がそれを物語っているからだ。
「……所で例の作戦のことなんだが」
凪はダンボールから花を取り出していった。
「お前と話す時、いつも例の作戦の話といってるだろう? こういっちゃなんだが、例の作戦とか怪しすぎるだろ。そこで誰に聞かれてもいいように作戦名を考えてきたんだ」
凪から小さな紙を手渡された。そこには『月花美陣(げっかびじん)』と書かれてあった。
「ゲッカビジンと読むのか?」
「ああ、そうだ。ほら、月下美人は夜にしか咲かないけど、夜に光を当て続けていれば昼間見ることができるっていう話をしただろう」
「そういえばそんなことをいっていたな」
「千月にしても同じことだ。あいつの時間を逆転させなきゃいけないんだからさ。あいつ(月)とお前(花)が入れ替わる布陣を作らなきゃいけない。だから月花美陣ってわけ」
「なるほど、一応意味があるわけだな。だが布陣なんて格好のいいもんじゃない。せいぜい背水の陣だ」
「……ま、そう固くなるなよ」
凪は大袈裟に笑った。
「先は長いんだ。気楽にいかないと身が持たないぞ」
「すでに身はないけどな」
必要以上に口元を歪めてみせる。
「でも君のいう通りだ。これから先、長い付き合いになることが確定した。これからもよろしく頼むよ」
――月下美人の花言葉はね、『もう一度だけ会いたくて』っていう意味があるんだよ。
ふと脳裏に彼女の声が回想される。その願いは永遠に叶うことはないけれどそれでもいい。
君の悲しみが癒えるまで僕はずっと君の側にいる。
誰よりも近い場所で――。
胸にある懐中時計をぎゅっと掴んだ。裏蓋には花鳥風月の文字が彫られてある。その文字を右手の親指で順になぞることが習慣だった。
……だけど、今日からは『逆』に変えよう。
右手に持っていた時計を左手で握り返した。そして息を吹き込むように親指で反対側からなぞることにした。
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