この小説はあまりに残酷すぎます!

ちびまるフォイ

ラストは絶対に予想できない(悪い意味で)

「なあ、この小説に書いてあった"最後に衝撃の展開が!"とあるけど

 今のところ、ごくごく普通の異世界ファンタジーなんだが」


「うん」


「伏線も探してみたけど特になかったし、本当に衝撃なのか?

 というか、そもそも衝撃のオチにする必要ってあるのか?」


「ある。実はこれは書くも涙、聞かせるも涙の物語があるんだよ」


※ ※ ※


それは、もう投稿したことすら忘れたころにやってきた。


「ちょっと! この小説を書いたのはあなたね!!」


「あの、なにか?」


「あなたの小説を読んだうちの子が、影響されて非行に走ったらどうするの!」


「いや、これフィクションですし……」


「フィクション? よくもぬけぬけとそんなことを!

 あなたの小説は一人称じゃない! だから自分と主人公を重ねてしまうわ!

 それなのに残酷なことをこれでもかと書いて……


 うちの子が残酷なことしたらどうするの!?」


「そういわれても……」


「そういうだろうと思って、あなたの小説、有害なものとしてすでに通報済みよ」


「ええええええ!?」


数日後、すぐに有害文章検閲学会から通達が来た。


―――――――――――――――――

拝啓


貴殿がご投稿された小説が悪意と残虐極まりないものと通報がありました


ひいては、小説の自主回収をお願いします。


応じない場合は今後あなたの執筆活動すべてが制限されます。

―――――――――――――――――


「自主回収たって……どうすりゃいいんだよ!?」


俺がサイトで公開していた異世界ファンタジーは、

すでにネットを通じてどこまでも配信されてしまっている。


まずはすぐに非公開へと切り替えた後で、

読んだとおぼしき人のところへいって記憶を回収する呪文文章を送った。


アクセスしていた100人目が終わったとき、俺はやっと気づいた。


「あと、99999900人って……無理だろ!!」


しかも、俺が小説を閉じたところで、別サイトが転載していたりするので

こうして回収している間もまた回収先が増えている。


これじゃきりがない。




「ちょっと! まったく自主回収できてないじゃないの!

 あなた、本当にこの件のことを深刻に考えてるのかしら!?」


「はい……でも、公開範囲が広すぎて手が回らなくて……」


「そんなこと知らないわ! こうしている間も、うちの子のような被害者が

 いまもあなたの書いた害悪小説で悪い子になってるかもしれないのに!

 少しはいい子になるような小説で治そうとは思わないの!?」


「……そうだ! その手があった!」


回収するのはもう無理だ。

だったら、上書きしてしまえばいい。


前より健全な小説を読ませてしまえば問題ない。

いわば解毒作業だ。


「ようし!! はやく書かなきゃ!!」


前の作品と同じ世界観と設定を踏襲しつつも主人公の性格を大きく変えた。


容姿端麗、品行方正、礼儀正しい。


およそ考え付くいい人間の要素をすべてぶち込んだ作品を投稿した。

公開すると、前の作品を読んでいるすべての人に読み渡った。



―――――――――――――――――

拝啓


先日から動きがないように思います。


貴殿はちゃんと自主回収、ないしは対策をとっていますか?


影響されているかもしれない人への対応をしない場合はわかっていますね

―――――――――――――――――


通達では俺のここまでの努力を根底から否定する内容だった。


「ええええ!? なんで!? どうして効果出てないんだ!?」


新しく投稿した小説でみんな解毒されているはずなのに、

読者のひとりに確認してみると、答えは簡単なものだった。


「ああ、あの主人公ね。印象薄すぎて忘れた」


「え゛……」


「なにもかもパーフェクトじゃん。読んでてつまんないんだよね。

 あこがれもしないし、自分にも重ねられないし」


「う゛……」


完璧なパーフェクト優等生にしてしまったがために、

自分と重ねられなくなって、肝心の解毒効果もなくなっていた。


日に日に読者は増えていく……。



※ ※ ※







「え!? ここで終わり!?

 どうしてこの小説に"衝撃の展開"が容易してるのかわからないんだけど!?」


「その衝撃の展開によって、自主回収先の読者の解毒ができるんだよ」


「……でも、今は以前の小説を投稿してるよな」


結局、優等生バージョンは毒にも薬にもならなかったので削除した。

今はもともとの害悪バージョンが再び公開されている。


「しかも、前よりも内容が過激になってるじゃないか。

 これじゃますます非行に走る原因になるよ」


「大丈夫。この小説の主人公に自分を重ねても、絶対に非行に走ることはない。

 最後まで読んでみてくれ」


「わかったよ」


読者は投稿されたての最終話を読み進めた。

相変わらずの暴力描写と残酷描写で魔王を惨殺していた。


「やっぱダメじゃん!! ある意味、衝撃の展開ではあるけど!」


「だから、最後までちゃんと読めって」


小説の最後には、自分と主人公を重ねていた読者に配慮する一文がちゃんと用意されていた。





――主人公は見ていたテレビを消した。


と。

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