第3話
夢果が「夜刀」と俺のことを呼びながら俺の身体を揺すり、そのおかげ俺は目を覚ます。と、眼前に飛び込んできたのは奢侈なラブホテルの天井でもなく夢果の顔でもなくイーノック=トンプソンの顔だった。
「やあ、起きたね。おはよう」
「うわっ」
突然、視界に入ってきたイーノックさんに驚いて俺は飛び起きる。
「なんでいるんですか?」
「なんでって。そりゃあ、ここは俺がキープしている部屋なんだから。出入りくらい勝手にできるさ」
それより、とイーノックさんは言う。
「ゆうべはおたのしみでしたね」
「は?」
「したんでしょ。二人してベッドで寝たってことは。それにラブホテルだしね。しなくちゃ損だよ」
「は?」
「え、まさかしてないの?」
「何をですか?」
「言わせないでくれよ」
「あなたが想像しているようなことはしてないです」
「なんだつまらん」
本当につまらなそうな顔をするイーノックさん。
「まあ、とりあえず頼まれたことだけど。ほら、これ」
差し出されたのは地図の描かれた紙切れだった。
「このホテルからアド・アボレンダムの拠点までの道のりを描いた地図だ。地図があれば大丈夫だろ。もしなんなら俺も同行してやってもいいが」
「いえ、充分です。ありがとうございます」
「じゃあ、渡すものも渡したから俺は用済みってことで。死なない程度に頑張りな。君たちが生きていたらまた会うこともあるだろう」
「イーノックさんも死なないでくださいね」
「ふん。俺は死なないさ」
手を振りイーノックさんは部屋を出た。
俺の手には地図がある。この地図はアド・アボレンダムに繋がっている。あいつらとコンタクトを取ればたぶんおそらく祓魔師協会ひいては灰ヶ峰椿姫の居場所がわかるだろう。
灰ヶ峰椿姫の考えを俺は知りたい。だから俺は彼女と会わなくてはいけない。そのためには手始めに彼女を助ける必要がある。
灰ヶ峰椿姫を助ける。
改めてそう思い、俺は地図を持つ手に力を入れる。くしゃ、と。手の中で地図が皺を作った。
「さて、行くか」
と俺がそう言えば、
「うん」
と夢果が頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます