ぼっちな勇者と魔王様
神山紘
プロローグ
プロローグ 勇者と魔王
魔王城の魔王の間。
そこでは村人のような風体の男と黒いローブの女が向かい合っていた。
「よくぞ来た! わしが魔界の王、最強にして最恐の魔王である! さあ勇者よ! 戦いを始めようではないか!」
黒いローブの女、魔王が高らかに名乗りを上げ、
「……」
勇者と呼ばれた村人のような風体の男が剣を構える。
「先手は譲ってやろう! さあこい!」
「はっ!」
勇者は魔王の誘いを聞くと一瞬で魔王との距離を詰め、斬りかかった。
しかし、座っている魔王の前にはバリアが張られ、バリアにぶつかった剣が折れる。
「ふはははは! お前の力はその程度か!」
勇者は魔王の挑発には反応せず、すぐに剣を捨て魔王をバリアごと殴り飛ばす。
魔王が座っていた椅子は派手に壊れ、魔王はその勢いのまま土煙をあげながら壁に叩きつけられた。
戦いが終わったかのように見えたがしかし、土煙の中の影が動き、
「ではこちらの番だ! 『ヘルフレイム』!」
魔法を放った。
『ヘルフレイム』
たとえどんなに鍛えた人間でも食らえばたちどころに消滅する黒い炎の魔法。
魔法の余波で土煙が張れ現れた魔王はしかし、無傷。
勇者は油断していたのか、魔法をまともに食らってしまう。
「ふはははは! どうしたどうした勇者! こんな簡単に終わってしまうのか!? つまらん! 実につま」
しかし、勇者は当たり前かのように無傷で飛び出し、魔王に殴りかかる。
それからは同じことの繰り返しだった。
殴っては吹き飛ばし、魔法を食らっては殴りかかる。
殴り飛ばされては立ち上がり、魔法を放つ。
しかし、両名共に無傷であり、戦いは進まない。
さて、もうお気づきだとは思うが、これは人類の未来がかかった最終決戦!
勇者と魔王の戦いである!
この物語は勇者が魔王を倒すという王道物の異世界ファンタジーであ……。
ピピピッピピピッピピピッ
そんな大事な戦いの中、なぜか唐突にアラームが鳴りだした。
すると、両名は戦いを止め……。
「今日のノルマしゅーりょーじゃ」
「あー腹減った。飯食おうぜ」
そういうとそそくさと魔王の間から出て行った。
後に残ったのは激しい戦いの跡。
しかしそれも数分たったころにはすべてがすべてきれいになくなっていた。
先ほどのことはまるでなかったかのように二人は仲良く食堂に向かう。
「今日のやつだけどさ、流石にあれはやりすぎじゃないか?」
「え? そうかの?」
「そうそう。俺が全然しゃべってないのにお前ずっと一人でしゃべってたじゃん」
「でも魔王ってこんな感じじゃないかの?」
「そうか?」
「それよりもそっちのほうこそしゃべらなすぎじゃなかったかの?」
「いや、あれに対してなんて返せばいいんだよ」
「……さあの」
「もっとこうさ、勇者側にも配慮をもってやろうぜ」
「配慮って言われてものぉ」
「まあ前みたいにかんだり、しゃべれなくなっただけいいんじゃない?」
「昔のことは言わなんでくれ。消し炭にするぞ」
「それにそのしゃべり方もさぁ……作り物っぽいしさぁ」
「作り物ちゃうわ! 昔頑張って練習したのじゃからもう作れ者っぽさは抜けてお
るわ!」
作り物ではあったらしい。
……それにしても本当に仲良さそうである。
あのーあなたたちいちおう勇者と魔王なんだからちゃんと敵対していただけませんか?
さすがに世界の命運とかかかっているんですけど……。
「そういえば勇者よ。今日は体調悪かったのか?」
そんなこっちの都合を無視して二人は話し続ける。
「いや、そんなことはないだろ」
突然魔王に心配そうにされ、勇者は困惑した。
それはそうだろう。
仲良くしても相手は魔王。
人類の宿敵。
そんな相手に心配されるのは困惑してもしょうがない。
まあ勇者の心の中では『こんなやつに心配されてしまった……』という気持ちでいっぱいだが。
「いや、なんとなーくなんそう思っただけなんじゃがの?」
それを知ってか知らずか魔王の語調が荒くなる。
たぶん勇者の顔に出ていたのが悪いのかもしれない。
心配したのに困惑されるさすがに怒っても仕方ないかもしれない。
「いやいや、俺の攻撃に反応すらできない魔王にそんなのわかるわけないじゃん」
しかし勇者はそれに気付かない。
それどころか何も考えずに油を注いだ。
「わかりますーいつも受けてるんだからそんなことわかりますー」
「いーや無理だね。魔王ごときにそんなのわかるわけないね」
「わーかーりーまーすー」
「わーかーりーまーせーんー」
ついには子供の口喧嘩レベルまでレベルが下がってきた。
さっきまで激しい戦闘をしていた二人はどこに行ってしまったのだろうか?
この二人が魔王と勇者というのすら怪しく思えてくる。
もしかして勇者と魔王の戦いをもとにした演劇をやっている劇団員の方とかじゃないですよね?
「ああ!?」
「やんのか!?」
ついに二人は足を止め、にらみ合いを始める。
なんでこの二人が世界の命運なんて重要なものを握っているのだろうか?
もう本当に勘弁してほしい。
「そんなんだから仲間が一切作れないのよ!」
「そんなんだから部下が一人もいないんだよ!」
「「このぼっちが!」」
さて、最終的には幼稚な罵りあいになってしまいましたがこの物語は、人間の中で最強の勇者と魔物の中で最強の魔王が織りなす異世界ギャグファンタジーである!
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