第15話

次の日。

賢人は朝早く、仕事に行ってしまった。

昨日の夜も、お風呂から出た後、直ぐに寝てしまうし。

あの写真の事、捨ててしまったのなら、仕方ないけれど、せめてどんなモノがあったのか、どこに捨てたのかだけでも、教えて欲しかった。

そんな事を、ボーッと考えていると、家の時計が鳴った。

「あ、リハビリの時間。」

仕事をしていないと、時間が経つのが、早く感じる。

窓を閉めようとすると、ちょっと寒い風が入ってきた。

「もしかして、今日涼しいのかな。」

暑かったり寒かったり、今頃の季節は、寒暖の差が激しいしな。

私は部屋に行って、何か上に羽織るモノがないかと、クローゼットを開けた。

「うーん。どこにいったんだろう。」

うろ覚えで、遠い記憶を辿りながら、クローゼットの中を探した。


「あっ、これかも。」

見つけたと思って、伸ばした先には、輪ゴムで束ねられていた写真の束が、いくつかあった。

「なに、これ……」

恐る恐るその写真を手に取ると、やはり温泉に行った時の写真だ。

「どうしてここに?捨てたって、言ってたのに。」

輪ゴムを外して、一枚一枚、その写真を見ていく。

そして、私は今までになかった程の、違和感を抱いた。

旅館で撮った写真。

そこに一緒に写っているのは……


「違う……賢人じゃない。」


賢人によく似ているけれど、違う人だ。

次を捲っても、やはり賢人によく似た、違う人。

「どういう……こと?」

私は錯覚を見ているんだろうか。

その時、家の電話が鳴った。

「誰?」

ビクビクしながら、電話機のディスプレイを見た。

それは、賢人の実家からの電話だった。

「はい……」

『ああ、珠姫さん?』

「……そうです。」

声の主は、賢人のお母さんだった。

『賢人、そっちへ行っていない?』

「いえ……今、仕事だと思います。」

『仕事?』

私の答え方が不味かったのか、賢人のお母さんは、黙ったままだ。

『あの子、今お友達の家に泊まっているって言ってたけれど、どのお友だちか、珠姫さん分かる?』

友達の家?

婚約者だと言うのに、友達の家に行くと、言っていたの?

『珠姫さん?』

「すみません。どのお友達か、検討がつかなくて。」

『そう。』

とても慌てている様子がした。

「あの、お急ぎでしたら、私からも賢人に連絡してみましょうか?」

私の心臓が、勝手に早くなった。

『そうね。お願いできないかしら。』

「はい。それで、何があったんですか?」

『あのね、良人が、目を覚ましたの。』

「良人?」

『あなたの婚約者よ!』




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