巡り、還り、廻り、回り続ける世界を周る
嶋本元成
序章
Chapter01「生きる理由」
Scene000
たまに、自分が本当に生きているのか分からない時がある。
たまに、自分がどこか達観的な視点に立って、背後霊のように自分の背中から自分を覗いているような感覚に陥る時が、ある。TPS的な、第三者視点から世界を眺めているように感じる時が、たまにだが、少なくともあるのだ。
浮遊感を感じて……「幽体離脱」。そう、もし、「幽体離脱」というものを体感したなら、多分そういう感覚なんだと思う。いや、しかし幽体離脱をすれば本体は動けなくなるみたいだから、ちょっと違うのかもしれない。
その「浮遊感」を感じた時、感じた時には怖くも、なんとも。それこそ、第三者になったみたいに、どうでもよくて、
その時は怖くない。けれど、終わってから、なんだか変な感じがするのだ。「戻ってきた」という感覚もない癖にいつの間にか戻ってきている。例えるなら、二、三日自室を開けて、久しぶりに部屋に入った時みたいな。
変わってないはずなのに、何かが変わっているような――錯覚。
不要な懐疑心が働き、無様な
それを体験したとき、俺は、本当に生きているのか分からなくなる。
「でも、あなたは私の目の前で、こうやって生きている」
「いや……お前がそう言ったとしても、俺は……」
「言って」
「俺は……お前が生きていることを信用できないんだ」
己が生きていることを証言する人間がいたとしても、それは己が生きているという存在証明にはならない。
そもそも、自分が生きているのかわからないのだから、自分の見ている光景が、世界が、生きているのかもわからないじゃないか。
「なんていうか、さ。夢を見ているみたいなんだ。今までのことも、これからのことも夢のように、世界が霞んで見えるんだよ。全部、俺が勝手に見ている妄想で、実物なんて何一つないように思えるんだよ。思えてしまうんだ……」
この広い世界は実際にはちっぽけなもので、すべて俺の頭のなかに、空想の範疇に収まってしまうもののように感じてしまう。
そして、彼女の存在も――
「なあ、『生きている』ってどういうことなんだと思う……? 俺はどうやって生きているということを、証明できる?」
「……きっと、人は自分で『生きている』ということを証明できないように作られている。『生きている』という実感は、受け身でしか得られないんじゃないかな」
「なら、誰にも相手にされなくて、誰にも愛されなくて、誰かに忘れられた人は、『生きている』って言えないのか……?」
そんなの、残酷すぎる。
たとえ自分が生きているという実感を得られていたとしても、誰にも認められなかったら『生きている』と言えないのなら、生きていても、死んでいても、変わらないじゃないか。
「例えそうだとしても、安心して――」
動物として生きるには、人間は賢くなりすぎた。
真理を追求するがあまり、人間として、動物として、生物として、生き辛くなってしまった。
値踏みをして、自分たちの物差しで測って、価値の低い者には制裁を与えるようになった。
俺もその一員だった。
そして、自分の物差しで測った世界は、ひどく
自分も汚れ、世界も
自分を疑い、世界を怪しんで、
息苦しくなって、生き苦しくなった。
「安心して、私はあなたを認めるし、愛しているし、決して忘れたりなんかしない。絶対に。だからね――」
あなたも、私を――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます