第21話 弟と妹
「あーもう、関係ないのに何であんな態度取るかなぁ…」
可奈は外を散策しながら1人つぶやいた。
自身でもブラコンなのは自覚しているものの、「家業」としての立場での相談なのにあの対応はないだろうと思い返しては少し落ち込む。
「そういえば…ここは最近なにか作ってたけど…色々あって近くまで来てなかったっけ」
そう周囲を見渡すとスケートボードやバスケットコートが設置されたオープン施設らしく、それを楽しむ人達であふれていた。
施設内に入り見渡すとスケートボードのハーフパイプやトリックコースが複数設置されており、自分と年の変わらない人や愛好家らしき人達がそれぞれのパフォーマンスを見ては盛り上がっていた。
「スケボーかぁ…あまりいいイメージないけど、きちんと楽しんでいる分だと面白そうだけど」
やや偏見のある考えではあるが、普通に見て楽しむ分ならいいかと思い施設内のベンチに座る。
「…あれ?宮沖?」
声を掛けられた方を見ると、スケートボードを持ったレイジだった。
「え、不知火?」
「こんなとこに来るんだ」
「それこっちの台詞。ここうちに近いし、施設出来てからは初めてだけど」
そっちは?と訪ねるとレイジは親しい愛好家の人達と練習に来たと答えた。
「ホントはうちの姉貴も来る予定だったけど、親から急用頼まれていないけど」
(…もしかしてうちに今来ているの、そのお姉さんじゃ…)
珍しい名前だけに流石に最初インターフォンでの対応に出た可奈も気がつく。
「それにしてもクラス以外で会うとは思わないし、こういった趣味持ってるなんて知らなかった」
「だよなぁ。基本的にうちの人間こういったの好きで楽しんでるし」
そう話しているうちにレイジと一緒に来た愛好家の青年から声を掛けられ簡単に可奈に挨拶をして離れる。
実はこの2人、アスカと西牙の通う学校の中等部でありクラスメイトであった。
2人とも武術面で長けたこともあり、授業の一部では基礎を手本として披露するための打ち合わせで呼ばれることも何度かあったためこういった形で話すのはあまりなかった。
「不知火の家って仲よさそうよね…ブラコンの性格がなかったらもう少しいい関係になってたのかも…」
そう考えながら可奈はスケートボードコースのトリックに湧く観客をぼんやり眺める。
「って、血筋的に無理だよね」
そう考えて可奈はひとつため息をつく。
自分の一家が「家業」として妖怪や悪霊を倒す「討ち手」の家系故にありふれた普通とは縁遠い。
レイジも家が古武術道場を開いているだけでなく母親が現役の警察官と何かと大変なところだが、さっきの話でそれぞれが切り替えが出来ているというのも察せた。
「今は学業優先が基本だけど、卒業したらどうなるのかな…」
ふと先のことを考えてしまう。両親も討ち手としての家業とは別に普通の企業で働いている。しかしそれでもある程度家業に支障が出ないように配慮はしている。
そんなことを考えているうちにレイジがハーフパイプのコースに立っている。
滑り始めると基本的なトリックやターン、ジャンプを次々と決めていく。
「レイジ、先にもう一回して良いそうだぞ」
「分かった、じゃあもう少し上のやるよ!」
さっさとスタート地点に戻ったレイジは再度滑り始める。最初はシンプルに高く跳び、その後は全て2回転や3回転さらにひねりも加えたトリックを次々と成功させていく。
「…すごっ」
見ていた可奈も思わず素直な感想が漏れる。
詳しくない可奈でさえ難しいものだというのは周囲の反応からも分かる。
「…あれ?」
普通にレイジのパフォーマンスを見ていたが、ある違和感が可奈の目に映る。
褒め称えられるレイジの後ろにこっそり回り、その違和感に手を伸ばす。
「?どうした、宮沖」
「いや、ゴミがついていたように見えただけ」
「ふぅん」
そう言ってはいるものの可奈はその違和感をきちんとつかんでいた。
離れた後、改めてみると怪奇ドラマとかで見るような蜘蛛の糸のようなものだった。
そしてそれはレイジの首に巻き付けられており、一時的に精神を集中して巻き付かれた糸のようなものを焼き切っていた。
「何でこんなものが…?」
驚きながらも可奈は『見える』状態を継続し周囲を見渡す。
他にレイジのようなものが巻き付いているような人は誰もいない。
「一体どこから…」
周囲を見渡すも、レイジが通った後にある蜘蛛の糸のようなものを残して周囲に違和感はなかった。
「ともかく、たどらないと…あ」
一度親に連絡を入れるべくスマートフォンを取り出そうとして手ぶらで出てきたのを思い出す。
「一度戻る?…ううん、探ろう」
あまり単独行動はしないが、今回ばかりはクラスメイトが巻き込まれている可能性が高いだけにそのまま糸をたどって施設を後にする。
「思ったより近そうだけど…あれ?ここって…」
体感時間として20分くらいだろうか。可奈はアスカ達の家の前に来ていた。テレビで先週の事故を取り上げられただけに見覚えがあった。
壁の周囲を見て回ると、丁度壊された壁を修理すべく業者が作業をしていた。
工事の業者の邪魔にならないよう通行人のふりをしてのぞき込む。
すると、ちらりと見えた中にレイジに巻き付いていたのと同じ蜘蛛の糸らしきものが何カ所か張り巡らされていた。
「あの時の、見間違いじゃなかったんだ…」
そう考え可奈の顔がやや青ざめる。先週テレビで見たあの黒いものは見間違いではなかったということになる。
「ともかく、早く伝えないと…」
どうするべきか理解している可奈は急ぎ家へと戻ろうとしたとき、丁度アスカが帰宅したタイミングに鉢合わせる。
「あれ?貴女は西牙の…」
「あっ…」
失礼な態度を取っていただけに可奈は少し気まずかった。
「あの、ちょっとお聞きしたいのですけど…」
「?」
「不知火レイジってもしかして…」
「え?弟だけど」
「ああ、やっぱり…」
そう真実を知ると可奈は最悪な状況になっていると理解する。
「実は、クラスメイトで…」
「ああ、名字で気がつくわよね」
「それよりも家に入るの待ってください」
「いやいや、流石に自分の家なのにそれは…」
「『見える』なら多分気づきます」
その言葉にアスカの表情が変わる。すぐさま結界の印を結び、入口の門前に結界を張る。中に入り、扉を開けてみると、そこには道場や家の一部に蜘蛛の糸のようなものが張り巡らせていた。
普通に今朝もいつもと変わらない風景だったが、可奈の一言で思考を切り替えると明らかな変化が風景に混じっていた。
「そういうことね…」
「それで兄に連絡しようにも…」
「やむを得ず手ぶらで来ちゃったという訳ね。貸してあげるからすぐ連絡して」
結界を解き可奈にスマートフォンを貸すとアスカは知らないからこそある疑問が浮かぶ。
「その前にひとつ聞かせて。なんでこうなってるって分かったの?」
「実は彼から聞いて知ったんですけど、本来今日行くはずだったスケボーの施設うちの近くだったんです。そこで偶々会ったんですけど…」
そこで可奈はなぜ気づいたのかを話す。それを聞いてアスカの顔が青ざめる。
「まさかそんなことになっていたなんて…」
アスカはショックで軽い立ちくらみに襲われる。あの後も瑞希も慌ただしく動いていたため、早い段階で気づくことは出来なかったのだろう。
「ともかく、うちの人間全員外にいて良かったわ」
『聞こえるか、不知火』
連絡をしていた可奈が西牙の指示でスピーカーモードにする。
「聞こえてるわよ」
『可奈の話だと土蜘蛛だろうな。ともかく俺も準備が出来たらすぐに行く。住所聞いて良いか?』
その言葉にアスカは家の住所を告げる。
『それからそっちから室長に連絡を取ってほしい。この内容を伝えて道具の許可がほしいと伝えてくれれば分かる』
「了解」
そう会話をして通話を終える。
「ツキのないのはあの日だけじゃなかったかぁ」
軽く頭を抱えながらもアスカはすぐに瑞希への連絡を始める。
前回の事故のこともあり、アスカとレイジにはもう一つの顔として使っている仕事用の携帯番号をもう一つの緊急連絡先として教えていた。
さすがに早速使う事態になるとはアスカも思ってはいなかったが、家族の危機になる以上やむを得ないだろう。
やはり、連絡を受けて知った瑞希も同じような感覚だったらしくアスカの話を聞いた途端立ちくらみに似たよろめきに周囲の心配する声が通話越しに聞こえる。
『分かった。そういうことなら仕方ないわね。その件は了承させるから無理はしないようにね。検査結果は大丈夫でも一応怪我人だったんだから』
「分かってる」
『こっちも万が一に備えておくわ』
「うん」
その後簡単なやりとりを聞いてアスカは瑞希との通話を終える。
「面倒なことになっちゃったなぁ」
そんな言葉を漏らしながら、周囲の目から不審に思われないようアスカは可奈を連れて西牙の家の方に一度歩き出す。
「土蜘蛛って言ってたし、まさか妖怪とも戦うことになるなんて」
「しかも結構面倒くさいんですよ」
「経験者は語る、ね」
「お兄ちゃんが来るまで私が分かることだけでも共有しませんか?」
「そうね、それ以前にこっちは用意するものが家の中だしね」
情報を共有しながら2人は西牙の到着を待つのであった。
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