第8話 非日常へ飛び込む決意
一日が終わりを告げ自室に戻ったアスカは一人ベッドに横たわり天井を見ていた。
非日常を知った今、一応対応手段は手にしている。
元々の武術に加え、形見の腕輪を変化させた太刀。
(腕輪がなくてもああいったものは無視すれば良い…そうは言っても)
無視できるわけはない。
無視すればどうなるか、昨日の出来事を思い返しそれはだめなことだと頭の片隅で理解している。
「……やるしか、ない」
決めてからの行動は早かった。入念に腕輪の状態を確認し、もう一度太刀に変化させる。
摸造刀で慣れた刀特有のずしりとした重さとのわずかな違いを狭い部屋で体に覚え込ませる。
抜いたときの重心移動の違い、帯刀・納刀時の取り扱いしやすい位置。
それら基本動作の差を出来る範囲で確認していく。
「良し…あとは……」
変化させた太刀をどうやって元に戻すのか。
それだけはなんとなくイメージできた。
最初と同じ動作かその動作を反対からすれば成立するのではないかというものだ。
そしてほぼ予想通り、最初の動作と同じことをすることで太刀は腕輪へと戻る。予想と違ったのは五芒星を描いた後の動作だった。
太刀にするときは手前に、戻すときは反対に奥へ動かすことで変化することが分かった。
それらの確認が終わると、動きやすい服に着替え玄関へ向かう。そこへ運悪く父と遭遇する。
「なにやってるんだ、こんな時間に」
「ちょっと課題してたけど詰まっちゃって…」
一応もっともらしい言い訳をする。実際にどうも集中力が途切れそうなときは体を動かしに外へ出ることもある。しかし――
「こんな真夜中にか?」
そう、もう日付が変わった時間である。
「気晴らしに少し散歩してくるだけなんだけど…まずいかな?」
仮にも警察官の娘である以上そういった深夜行動は問題だろう。
「……どこまで行くつもりだ?」
「大通りの公園、そこまで」
そこまで話して少し考える父。
「多分、そろそろ帰ってくるから気をつけるように」
「分かってる」
一応の理解をしてくれた父に感謝し、足早にあの公園へと向かう。
改めて公園の入口に立ち、昼間の時と違い人の姿はない。1度深呼吸して感覚を研ぎ澄ませると結界は張られたままになっていた。
まだあの中に何かがいる、そう結論づけるのには十分だった。
「さて、と」
腕輪に目線を移し、西牙の言葉を思い返す。これ自体が結界を通るパスだと言うこと。
それを信じゆっくりと歩みを進める。すると少しずつ結界に人一人通れるような空間が広がっていく。
「多分、アレよりヤバいんだろうけど…もう後には引けないしね」
ここまで来た以上引き返すという選択肢はもうアスカにはなかった。自らの意思で非日常の世界へ飛び込むことに。
その決意に応えるかのように、腕輪の宝石が淡い光を放っていた。
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