第7話 非日常の入り口はすぐそこに
課題もそこそこに切り上げ、アスカと恭子は帰路についていた。まだ日も高く、汗を拭いつつ何気ない普段の会話をしながらあの公園の前にさしかかる。
「警察に…救急?」
「…なんかえらい物騒やな」
公園の入り口が規制線で張られ、物々しい雰囲気で心配そうに見ている人も多くいる。
「何があったんやろ」
「ね」
そう話していると野次馬の中にいた一人がアスカ達に気づき声をかける。同じ高等部の学生だった。
「何かあったのか分かる?」
「熱中症なんだけど…多くの人がいきなり倒れたってことで、今最後の人を搬送するとこみたい」
「熱中症かぁ」
「大人数だとちょっと怖いよね」
と談笑していたがアスカは何か違和感を感じていた。昨日の西牙との会話で得た知識なのか言葉に出来ない妙なものが残っているのだ。
「……ん?」
ふと何気なく周りを見ていたが、遠くてわかりにくいが、公園のポールに何か貼ってあるのに気づく。遠目で分かりにくいが短冊のようなものが少し見える。
(もしかして…)
恭子達との会話を続けながら視線を周囲に向ける。そしてアスカはあることに気づく。
集まった人の視線が全て入り口の方に向いていることに。
あの時西牙は結界を貼ると人は無意識にそこを避けると。
(多分、精神を一時的にでも入口に集中すれば張ってある結界が見えるってことだよね)
試すことも出来るが、この時アスカにある疑問が生まれる。
(見えなくても1度でも誰かの無意識を解いたら結界の意味はどうなる?)
これだけ多くの人がいるうえに、ある程度の知識を得たアスカだからこその疑問である。なにも起こらないとは考えにくい。
最悪パニックになったり誰か偶然結界に触れてしまったらどうなるのか。いくつもの疑問が生まれていく。
(試すのは避けた方が良いわよね)
そう割り切ったとき、アスカのスマホからの着信音に意識が引き戻される。
「あ、ちょっとごめん。もしもし……今?通りの公園前」
電話の相手は母親からだった。母は警察官でいわゆる私服警官として忙しく仕事をしている。
「今友達から現場の状況は聞いたよ」
それを受けて母は部署内の人員がこの熱中症によって倒れた人たちに消防側と連携して聞き取り調査に入るためにかり出されてしまい、抱えている案件の対応が滞るため解消の目処が立たないと話している。
「じゃあ今日は定時に上がれないってことね。うん、父さん達にも伝えておく」
気をつけてねとねぎらいの言葉をかけ、アスカは通話を終了する。
実際祖母が亡くなるまでは少しずつ家事を教わっていたため、簡単な夕食などは出来るようになっていた。
アスカは現在設計技師である父と警察官の母、そして中学2年になる弟との4人で暮らしている。
そのため基本的な買い物は母か父が時間のあるときにまとめて行っているため、今日みたいなアスカや弟が代わりに夕飯を作れるようレトルトを含めた最低限の食料は必ず用意されている。
「おばさんから?」
「うん、あたし一応警察官の子だからある程度は今日みたいなのでどうなるかは分かっちゃうけどね」
「アスカのお母さん守秘義務があるけど、ある程度察せるアスカもすごいと思うよ?」
「まぁ、それが我が家では普通のことだからね。と」
話ながら父にメールで母の伝言を送信すると、二人に向き直る。
「そういうわけだから先に行くね」
「ああ、ほな」
そう言ってアスカは恭子達のいる野次馬の集団を離れる。そして丁度野次馬と公園入口の死角に入ると軽く周囲を見回し、武道の鍛錬の時のように目を伏せ心を落ち着かせ精神を集中させる。
そしてゆっくりと目を開け、公園の方を見ると――
(……これが、結界……)
公園内部を覆うほど大きなドーム状の白い塊と、柵伝いにいくつもの太い柱が公園に広がっていた。
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