第27話 夜会 2
「はじめまして、龍姫様」
「あっ、初めまして」
私は目の前に立った上流階級の貴族令嬢達集団へ挨拶をする。
「龍姫様は、いいですねえ」
「見た目のいい殿方達と結婚なされて」
「それも二人。それに後一人まだいると言うではありませんか」
「まあ、三人の相手なんて。よっぽど夜の試みがお好きなんでしょうねえ」
「でもタケルイ様って、お手が早いので、仕方ありませんわ、ほっほっほっほー」
令嬢達が扇を口元に当てて笑い出した。
「それにしても王子が龍騎士になるなんて」
「ええ、でもあの女が王太子妃になるよりは、よかったですわ」
「タケルイ様、本当に見る目がない」
「だからこんな容姿の龍姫様で満足されているのですわ」
「それにしても、あの女、あの男爵との結婚すぐ決まってしまいましたね。まあ同じ身分のところでよかったではありませんか。ほほほほ」
「仕方ありませんわ。傷物ですもの」
「傷物なんて言い過ぎですが事実ですしね」
「あんな男の所へ嫁ぎたくありませんわ」
「男爵と言っても自分の祖父くらいの男の所ですよ。夜の試みなんて出来ない
のでは?」
「それでよかったのではありませんか。わたくしだったら、あんな油の乗ったデブ。し、失礼。太った息の臭い人にキスなんてされたくありませんわ」
「そうですねえ。男爵って跡取りが欲しくて、若い女を探していたと言う噂ですわ?」
「確かに。これで四度目の結婚でしょう?」
「そうそう前の三人の妻に子供が出来なくて、事故に見せかけて殺したと言う噂ですわ」
「まあ怖い。私だったらいくら傷物になったと言ってもそんな男の所へ嫁ぎたくないわ」
「あの女の命は、跡取りが生まれしだいと言うことになりますねえ」
「三人の妻に子供が出来なかったと言うことは、男爵の方に問題があるのでは?」
「じゃああの女の命は持って三年ですねえ」
「なぜそんな男の所へ嫁ぐか信じられない」
「仕方ありません。彼女の父親はかなりギャンブルが好きで、家計が火の車らしいで
すし」
「王太子は婚姻をする時に、かなり援助をしたらしいですよ」
「有名な話ですよねえ。周りが反対しているのに、王太子様ったら、あの女に
騙されて」
「借金まみれなのに。あんな豪華なドレスを着て毎晩のように夜会やお茶会に出ては、金持ちの結婚相手を探しておりましたしねえ」
「王子のおかげで借金も返し終えたらしいけれど、またギャンブルで借金を作ったらしいわ」
「それに、男爵婦人のあの派手さ。お金を水のように使っておりますわ」
「結婚式のためと言って、自分用に恋織物でドレスを作ったと聞いておりますわ」
「まあ、あれは花嫁が着る織物なのに」
「一体、何を考えておるのかしら。恋織物は今は手に入らない貴重な物と聞きますわ」
「そうですわ。わたくしも恋織物を十年前から予約しておりました。今年手に入る予定でしたが、何でも恋織物を作っている村が滅びたと聞きました」
「確か龍姫様は織り手と聞いておりますわ」
「それは、素晴らしいわ。達がこうして、友人関係になったのも何かの縁です
ねえ」
ーー友人関係? この人達の名前知らない。
「そうですわ。ぜひ、今度わたくし目のために恋織物を織って下さい」
とても自分勝手な会話が続いている。私はこの人達と会話をすのが、イヤで逃げようとするけど、この令嬢達の壁は、固い。
「そんなにお金に苦しいのでしたら、あの男と結婚するのも納得ですわ」
「そうですわ。あの男、田舎で海の幸のおかげで金だけは持っていますしね
え」
「それであんな男と結婚されるのですねえ」
「王太子もあんな女と結婚されなくてよかったですわ。じゃなかったらこの国はあの女の父親のせいで財政困難になった所ですわ」
「ええ、そうですね。でも、よくもまあ、この舞踊会へ参加出来たものねえ」
「私だったら恥ずかしくて参加出来ません」
「見て下さい、あの油べっとりの男に触られて、気持ち悪いわあ」
「でも、ざまーみろですわ。先月まで『私、王太子妃になりますわ。頭を下げよ。私の方が身分が上よ』みたいな感じでしたもの」
「そっ、そうねえ。せっかくなので、ご挨拶をしましょう」
「そうですわ。ご婚約のお祝いの言葉を差し上げなければいけませんわ。では、参りましょうか?」
私抜きで話をしていたから、私の存在なんて忘れていると思っていたのに。どうして私まで引きずられてタケルイの元婚約者の所へ行かないと行けないの?
「私はダニーの所行かないといけないから」
と、私の腕に自分の腕を搦めている赤色の縦巻ロールのキツい令嬢に言ってみる。
「殿方は、殿方の大切な会話があうのですよ。邪魔をするのは、よくありませんわ」
と言われ、私がいくら抵抗しても無駄だった。
「私グラスを返さないといけないから……」
「貸してごらん」
と、グラスを取られた。もちろん令嬢はそのグラスをそこに立っている人に「龍姫様が飲んだグラスですわ」 と押し付けた。どうして、令嬢なのに、こんなに力が強いのだろう……。
「ご機嫌いかかがですか、メリエッシ様?」
私の腕をがっしりと腕を組んでいる赤毛が、にっこりと優雅に言った。
「はい、大変よろしいですわ。侯爵令嬢様」
メリエッシが、顔を引きつらせながら言った。
「ご結婚おめでとうございます。男爵様」
「あっ、ありがとうございます。えっへっ、王太子妃になられるお方をこうして妻に出来るなんてとても幸運です。これも龍姫様のおかげです。えっへっへっへー」
メリエッシの肩を抱いている男が言った。いやー、臭い。空気が臭い。この人が言葉を話す度に、臭さがー。息を止めよう。キモい。
「ええ、こちらの方が龍姫様ですわ」
赤毛がせっせと扇を仰いでいる。私の方へ仰ぐのは止めて。
ーーく、臭い。
臭さくて息ができない……。私も扇を持ってこればよかった。まさか扇とはこんな時に必要な物と知らなかった。クレイさんに勧められた時に受け取っておけばよかった。令嬢達が一斉に扇をパタパタと私のいる方向へ仰がないで下さい!
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