3-3. ちょっとした気付きが仕事の効率を上げる

「――はッ!?」


 がばりと身を起こす。疲れのあまりいつの間にか寝入ってしまったようだった。

 枕元にはすりつぶした薬草を湯で溶いたと思しき黄色い汁。俺の口元にも同じものが付着している。

 天幕の外は既に明るい。すっかり朝になっていた。


「レオにいちゃん!」


 山盛りの薬草をほっぽって飛びついてくるリリを適当にあしらいながら、昨日の事を思い出す。

 ……ああ、そうか。帰ってくるなり気絶してしまったんだった。

 覚めない悪夢でも見ていた気分だ。いや、いっそ夢であってくれ。


「薬草取ってきてくれたのか」

「うん! 元気になった? 元気になったよね?」

「あー……なったなった。ありがとう」

「うぇへへへ」


 頭を撫でてやると、実にくすぐったそうに喉を鳴らす。人の苦労も知らずに良い気なもんだ。

 ふとリリが何かを思い出したかのように立ち上がり、何かを落書きした羊皮紙を持ってくる。


「それでね、昨日お出かけした時に、あたし思いついたんだけど」

「何だよ」

「……お仕事、こういうふうにやってみちゃダメかなあ?」

「ああ?」


 紙に描かれた内容を確認し――俺は半日ぶりの絶句を味わった。

 良い意味で。


 そこに描かれているのは、まさに俺が試練を通じてリリに気づいてほしかった事ばかりだった。

 巨人族ジャイアントが重い物を運び、巨鳥族ロックが空を飛んで離れた島へ物資を回収しに行き、魔犬族ハウンドの牽くソリに交渉役のゴブリン達が乗り、それらをリリと黒騎士オニキス――俺が指揮する。

 ドヘタな絵ではあったが、リリがやりたい事はハッキリと伝わってきた。


「お前……お前、これ、なんだ?」

「だめかな?」

「ダメじゃない。自分で思いついたのか?」

「ううん!」


 ぶんぶんと首を横に振る。


「あのね、途中で会ったゴッドハートさんがおしえてくれたの。ひとりでやるよりも皆でやるほうがずっと楽だよーって」

「……」

「あたしバカだから! そういうの、教えてもらわなきゃ、全然気づかなくて!」


 頭をぽりぽりと掻き、照れくさそうに説明しだす。


 どうもリリ自身、自分の仕事のやり方が間違っている事はうすうす感づいていたらしい。

 さりとて誰かが正しいやり方を教えてくれるわけでもない。他の四天王は忙しそうで、とても質問できる状況ではない。

 俺に質問しようとしたら、タイミング悪く毒蛇に噛まれてダウンしてしまった。


 ようやく貰えたまともなアドヴァイスが、薬草を取りに行った際の道中で出会ったゴッドハートさんの言葉だったというわけだ。


 そして昨晩。リリはブッ倒れた俺をつきっきりで看病しながらゴッドハートの言葉を思い出し、“こういう風にしたら仕事が楽になるんじゃないか”――という案を寝ないで紙に書き留めたのだった。


「どう? どう? ちょっとはお仕事、楽になるかな?」

「あー……」

「楽にならないかな?」

「あー…………」


 唸りながら、俺は心底反省した。


 心のどこかで、このバカには何を言っても無駄だと考えていた。

 正攻法では到底無理だろうと見くびっていた。


 策士策に溺れる。バカは俺だった。

 何のことはない、ただひとこと「こうすればいいんだよ」と言ってやればよかったんじゃないか。

 俺は降参したように両手を挙げると、リリに心の底からの笑顔を向けた。


「絶対ラクになる。偉い、偉い」

「ほんとー!」


 羊皮紙を俺とリリの間に置かせる。

 俺は羽根ペンにインクをつけ、羊皮紙に追記していく。

 リリがキラキラとした目でそれを覗き込む。


「いいか? 現地の人に迷惑をかけないようにするのも重要だ」

「うん!」

「まずは正式な移動ルートを定めてだな……」



 この日を境に、兵站部隊の業務効率は劇的に改善された。

 ちょっとオトナになった獣将軍は、実に頼れる存在だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る