第28話 悪魔吊り③ボックス
「ふざけんな、何がキングだ! 誰がてめえの言いなりになるか!」
男――浦島太助の宣言に対し、すぐに近くにいた男が胸ぐらを掴む。
「おい、やめておけよ。そんなことをしたら一回目の投票、お前に決定するぞ」
「あ、なに言ってやがる。てめえ」
「分からないのか? オレはこの地獄を攻略するために五十人近いグループを形成した。で、だ。その五十人のグループがこのシェルター内にいるんだよ。これの意味するところがわかるよな?」
「なっ!?」
浦島の発言に掴みかかっていた男が怯えるように下がる。
それはそうだろう。
今、あの浦島という男が言ったことが事実なら、彼はすでにこの場における過半数の票を自在に操れるということ。
つまり、この場におけるゲームの主導権を完全に握っているということ。
彼が言うとおり、それは文字通り王(キング)ということだ。
「分かったか? 今からお前ら有象無象が誰に投票しようと、これからここで起きる投票は全てオレの一存で決まる。だから、殺されたくなかったらせいぜいオレに嫌われないことだ」
「ぐっ……」
浦島の宣言に周囲の連中は黙り込み、その顔に明らかな殺意を宿す。
それを見た浦島が先ほど自分に掴みかかった男を睨む。
「あ、なんだ。てめえ? まだオレに何か文句があるのか?」
「……ッ、ね、ねえよ……」
「だったら、それらしくもっと反省した態度しろやぁ!」
そう叫ぶと同時に浦島の背後に控えていた顔に包帯を巻いた大柄な男が前に出る。
「ううっー!!」
「なっ! がっ! ごはっ!」
唸り声を上げると同時に先ほど浦島を掴んだ男を包帯の男はボコボコに殴る。
その様子を楽しそうに眺めている浦島であったが、その腕を隣にいた少女が捕まる。
「ね、ねえ、浦島ちゃん。も、もう、そのあたりにしたら……」
「あ?」
少女のその発言に男を殴っていた包帯の男の手が止まる。
そして、浦島と目線を合わせると何かに頷くように包帯の男が少女の元に近づき、その顔面に向け遠慮のないパンチをお見舞いする。
「――がはっ!」
「おい、てめえ乙姫。誰に指図するほどてめえはえらくなったんだ?」
拳が顔面に入り、鼻血を出して倒れる少女。
その痛みに思わずうずくまる少女であったが、包帯の男はそれだけでは許さず、少女の顔や脇腹、腕、足など、様々な場所に遠慮のないパンチを続ける。
「うっー! ううーっ!! ううっー!!」
「がはっ、ごはっ! うぎぃ! ぎぃ! あがぁあっ!!」
殴るたび男の手につく返り血、地面に散らばる血。
あまりに目を覆いたくなるようなその惨状に対し、しかし浦島はまるで動じた様子がなく、むしろ女がいたぶられることに喜びを見出しているかのような表情を浮かべる。
「おい、もうそのへんでやめていいぞ。デク」
「ううー……ううー……」
「あ、あが……あぐあぁ……」
顔を潰され、見るも無残な血まみれの姿となりながらも、かろうじて息をしている少女を見ながら浦島は悪びれた素振りもなく続ける。
「これで分かったか? 乙姫。てめえのような奴がオレに指図するんじゃねえ。てめえはオレの言いなりになって、そうやって跪いてればいいんだよ」
「あ、がぁ……」
浦島の発言に頷いているのか、それともただ痛みで声を漏らしただけなのか。
どちらかはわからないが、そのやり取りを見ていたこの場の全員が彼に対して後ずさりしていたのは言うまでもない。
桃山、犬崎、雉姫、猿渡達にしろ、ああした暴力行為に加担したことはあったが、あそこまで徹底したことはなかった。ましてや相手は女。
その顔を自分の舎弟に対し、思いっきり殴らせるなど、いくらなんでも一線を超えている。
そう思えるほど、それを平然とやらせた浦島の異常性は際立っていた。
唯一、そんな浦島の行為に対し、眉一つ動かさなかった者がいるとすれば、それは他ならぬ紅刃お嬢様だけであろう。
「さてと、話を続けるぜ。すでに投票に関してはオレの命令で誰に投じるか決定できる。が、ここで肝心なのはその投票先だ。さっき悪魔が言ったとおり、この中に『三名』人外が混じってるそうじゃねえか。なら、まずはそれを見つけ出すのが先決。そうじゃねえか?」
浦島の発言に再び周囲はざわめき出すが、誰ひとりとしてそれに反対意見を述べなかった。
確かに浦島の言うとおり、まずはこの中に紛れ込んだ人外――悪魔を見つけるのが先決。
彼のやり方はともかく、その意見は正論であり、頷くしかなかった。
いや、あるいは彼は先ほどの暴力行為を“あえて”この場で行った可能性が高い。
あのような暴力行為を目の前で見せれれれば、誰もがそうなりたくはないと萎縮する。
しかも相手は女であり、それにすら一切の容赦がなかった。普通の人間でなくともビビってあたり前。
そうして先に恐怖心を与えることで、この場における主導権を握る。
なるほど、古臭いやり方ではあるが主導者になるための手段としては悪くはない。
昔から人を言い聞かせる手段の一つに『暴力』というものは確かに存在するのだから。
「でだ。最初に入る五人だが、それはこのシェルターに最後に入ってきた五人からってことにしようぜ」
しかし、続く浦島の発言に周囲の者達は再びざわめき出す。
が、それを見越してか浦島は続ける。
「理由は簡単だ。さっきも言ったとおり、オレ達は五十人で行動していた。で、このシェルターに逃げる際も全員が避難をした。その後でドンドンお前らが来たってわけだ。で、先に言っておくぜ。オレ達五十人の中に悪魔はいねえ」
「な、なんでそう言い切れるんだ?」
「バカかてめえ? 悪魔ってのはオレ達を殺すために紛れてるんだろう。このゲームが始まってから二時間。オレ達はグループでまとまって行動していたが、その間、オレ達のグループで誰かが殺されたことはねえ。そうしたチャンスはいくらでもあったのに、だ。なら、悪魔はオレ達の中には紛れてねえと考えるべきであとから入ってきた連中の方がその可能性は高いだろう。だから、最後にこの館に入ってきた順からボックスに入れていく方が効率的だろう」
「ぐっ……」
確かに浦島の言うとおり、悪魔が紛れているのなら、そのグループ内で殺人が起きた方が自然だ。
事実、お嬢様達が最初に逃げたシェルター内では、そうした悪魔が潜んでいたようであり、参加者のひとりが殺され、海が疑われることが起きた。
……はて。そういえばあの件はどうなったのだろうか?
その後、色々あってうやむやになってしまったが、あのシェルターに潜んでいた悪魔はどこかに行ってしまったのだろうか。それとも――
「というわけで、そこの頭の上に96から100まで出してるお前ら、早くボックスの中に入れ。幸いというべきかオレらの頭の上にあるこの数字は館の中に入った順に番号付けされてるみたいだからな」
浦島の言うとおり、この場にいる人間の頭の上にある数字はこの館の中に入った順による数字となっていた。
即ち、浦島が指した96から100の数字の中にはお嬢様達が含まれていた。
それぞれの番号はお嬢様が『100』、陸は『99』、海は『98』、桃山は『97』、あとひとり見知らぬ男の番号が『96』であった。
「……どうする、紅刃?」
「入るしかないじゃない。あいつの言うことはあながち間違ってないわよ」
そう言ってお嬢様にしては珍しく他人の言うことに素直になり、海や陸を連れてボックスの方へと移動する。
また桃山も気まずそうな表情のまま陸の隣へ移動しボックスへと近づく。
「よし、それじゃあ、さっさと入れ。あとは扉を閉めれば、中にいるお前らの中に人外がいるかこの箱が表示してくれるってわけだ」
「はいはい、分かりましたわよ。王様ー」
そう言ってあしらうようにお嬢様は中に入り、それに続くよう陸達も中に入る。
五人が中に入ったところでボックスが閉じられ、しばらくすると再びボックスが開かれる。
それと同時にボックスの天井部分にホログラムのような数字が現れる。
だが、それを見た瞬間、ボックスの周囲にいた者達がざわめき始める。
「はいはーい。終わったわよー。で、どうだったの? アタシ達の中に悪魔でもい――」
「動くんじゃねえぇッ!!」
紅刃お嬢様含む五人がボックスから出ると同時に、その前に立っていた浦島が鬼のような形相で叫ぶ。
見ると周囲の人間達も同様の表情――あるいは怯え、恐怖と言った様々な表情を浮かべ、お嬢様達を見つめていた。
「なによ一体ー?」
わけがわからないといった様子でボックスの方を振り向くお嬢様。
だが、そこに映った数字を見て、お嬢様の表情が変わる。
「……なるほど」
そう、そこに映った数字は――『人間:4』『人外:1』。
即ち、お嬢様含む五人の中に悪魔が混じっているということであった。
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