徒花の館・地獄篇

雪月花

第1話 お嬢様は殺人鬼

「翠ー、翠ー」


「はい、なんでしょうか。お嬢様」


「服汚れちゃったから、これ洗濯しておいてー」


 帰宅するなり早々、お嬢様は着ていた服を脱ぎ、それを僕に渡す。

 どうでもいいですが自分の家とはいえキャミソール一枚でうろつくのはどうかと思いますよ、お嬢様。


「かしこまりました」


 あえて突っ込むのも面倒なので受け取った服をそのまま洗濯機へと放り込む。

 しかし、随分汚れてますね。これ落ちるのでしょうか?


「翠ー、着替え持ってきてねー。あと紅茶もお願いするわねー」


 そんなこちらの愚痴などお構いなしにお嬢様はソファに寝転がり、足をプラプラと遊ばせる。

 いつもの光景に呆れながらも、衣装部屋から持ってきた服をお嬢様へと投げつけた後、キッチンにある紅茶を淹れる。


 ちなみに服を投げつけられた際「わふっ!」とかお嬢様の叫び声が聞こえましたが、あえてスルーしてます。


 仕上がった紅茶をティーカップへと注ぎ、それをお嬢様のもとへ運ぶ頃には、すでに着替えも済ませており、相変わらずのロリータ衣装を着ていた。


「アンタねー、たまに執事にあるまじきその行動なんとかしなさいよー」


「お褒めのお言葉恐縮です」


 「褒めてないわよ」というツッコミを無視し、ティーカップに注いだ紅茶をお嬢様へとお渡しする。


「ん~、やっぱり帰ってからの一服はこれに限るわね~」


「それでお嬢様、今日はなんの御用でお出かけをしていたのですか?」


 僕の問いかけにお嬢様は飲んでいたティーカップを置き、いつの間にか握っていた血まみれのナイフを僕の方へ差し出す。


「決まってるでしょう、殺しよ。だってアタシ、シリアルキラーのサイコパスだから」


「左様ですか」


 あまりにも当然過ぎる返答になんの感慨もなく頷く僕。


 そう、僕の今の主人であるお嬢様はシリアルキラーのサイコパス。

 いわゆる殺人鬼であった。

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