第31話:天地全面戦争2


 エントランスから離れた唯吹たちがまず向かったのは集会場近くの大型軍倉庫。鉄の扉が開かれたその先には大量に積まれたダンボールと木箱。中を開けば白兵武器とその補助具、射撃武器とその弾丸、そして戦闘食料が大量に積まれており、全体的な飽和状態で人が一人入るぐらいで精一杯だ。


「おぉ~すっごいじゃないか。一個や二個持ち出しても気づかれない」

「情報屋が変なことを言っているよ」

「何を言うイルハちゃん。これもまた情報集めの一環だからね! 手がかり一つや二つ、あるかもしれない」


 大きな倉庫を構えていて尚且つ取り出すの時間かかるぐらいの密集度から、相当の本気度が感じられる。唯吹、華琳、イルハは多少複雑な感情を抱きながらもダンボールや木箱を開けて手がかりとなるものを探ることに。その最中、唯吹はある何重も折りたたんだ紙を見つける。


「あれ、これは……。納品書?」


 思いっきりその紙を開いてみるとあまりにも長く、流しで内容を見るとギリシア神群からケルト神群までの聖地で購入できる武器やアイテムが全て余るぐらいに揃えている。RPGで例えるならショップのアイテム全てをカンストまで購入するぐらい。


「なんなのこれ……。確かにエントランスだけでも人が多いと分かるし、この兵装の量があれば……」


 野放しにすれば高天原を壊滅に追い込むのも目に見えている話だ。ならば……。と対抗するための策を考えながら木箱を漁ってみる。奥まで物を探っていると、あるものが出てきた。中華神群聖地で購入できる武器、連弩。

 龍吉公主の子として最初の戦闘、他の人の力を借りつつも対空攻撃を行ったときのことを思い出す。あれ以来、余計な手間かからずに対空攻撃ができて尚且つ防御にも回ることができる手段として連弩が欲しかったが、結局のところ今日のこの日まで聖地へは行けず。

 敵軍の武器を使うのも複雑な心境だが、先の見える大いなる怪物を前に他のことを考える暇が無いと、先程手にした納品書とともに連弩も持ち出した。


 倉庫入口前に戻ったときには既に集まっており、華琳の右手には少々使い古しの日本刀らしきもの持っていることが分かる。


「あ、みんな待ってくれていたんだ。収穫はどう?」

「私はこの通り、使い古しの銘刀を見つけたよ。何か役に立つと思ってね」

「僕は内緒だ。武器以外のアイテムでも面白そうなものを見つけたし」

「……あたしは特に何も。振り回すものがあれば何だって使う北欧神群にとって、重要性を見測ることができなかったのよ……」

「ど、どんまい、イルハさん。あ、探っている時に納品書というものが出てきたのだけど」


 そう言って納品書を広げて周りも軍の危険性を知ることになる。


「国津軍もやる気満々ってところか……。これも手がかりとして持っておこう」


 イルハが出された提案に全員が頷いた後、次は二階にある居住スペースへ向かう。


 階段を駆け上った先に見えたのが居住スペースだが、廊下と扉だけ見えてかなり殺風景そのもの。集会で出払ってしまったのか人の気配は感じられず、どの部屋が気にすることなく調べることができるのかが全く分からない。

 廊下を歩いていると、ある一室の扉が開いたままであることを気づく。


「開いているのか。……入ってみるか」


 華琳の呟きとともに部屋の中に入ると、ベッドと小さめの書斎とテーブルが置かれた質素な個室が広がっていた。それぞれバレない程度に手早く探っていると、ハルクリスはテーブルの上に置かれたあるものに目にする。


「おや、これは書記かな? ペンと一緒に置かれているね」


 どれどれ、とその書記を開いて中身を見てみるところを華琳も興味津々で見ている彼の姿を見て釣られてその本の中身を見る。そこにはこんなことが書かれていた。日付に関しては理由は分からないが消えている。


《 気がつけばあの場所に居た。それ以前までの記憶は覚えてはいるが、最後に見たのは……怪物との戦いの最中。同行していた相方が持つ武器の力による異常作用で飛ばされたことだけだ。どうすることもできない俺はさまよっていると少し古めの草薙剣似の刀を見つけてそれを触れてみた。その時にスサノオと出会い、飛ばされた相方を探すために神子となった。

(中略)

 あれから三ヶ月が経過した。現在では九龍城に住み、仕事を行う傍ら相方を探し続けた。しかし一向に情報が何一つも見つからない。普段はいつもの振る舞いを行っていた俺でも不安が日々積もる。本当に見つかるのだろうか。スサノオもそのことを知っているのだろうか。この世に居ないことを知っていたとしたら……俺は……。 》


 この書記に記された内容を見た華琳は思わずつばを飲んでしまった。


「これで全部だけど気になるかい?」

「ちょ、ちょっとね。この書記の記入者って分かる?」

「どこにあったっけなぁ。……これか」


 ペラペラとページをめくり、巻末に開いてみるとペンで書かれた痕跡を見つけるがその名前は擦り消されていた。そういえばと扉を見るもラベルには部屋番号だけ書かれていて個人名は書かれていない。この光景を見て華琳の中で胸騒ぎが現れ、倉庫で手に入れた銘刀を見つめる。

 一方でイルハは興味に導かれるままに書斎にある引き出しを見つける。


「何なのだろう」


 その書斎に近づき、引き出しのくぼみに指をかけて引いた。……が、その中には何一つも無かった。手がかりが無かったとはいえ、怖い予感はしていたために何もなく大きく深呼吸をして引き出しを閉じようとする。だが手が止まる。


「……っ!?」


 イルハの持つ霊力でも感じ取ってしまうぐらいに強い怪物の影が見えたような気がして咄嗟に押し閉じた。少し息を荒くしたイルハの姿を見て唯吹は気づいて心配そうに見つめられている。


「どうしたの? イルハさん」

「あ、あぁいえ。大丈夫! 何もなかったよ」

「そ、そう……?」


 よかった……この面々で一番霊力の高い唯吹に触れなくて。心のなかで大きくため息を吐きつつ書斎から離れていくのであった。


 この部屋の捜索も終え、気がつけば予定時間直前。予定通りに階段降りて集会場に足を運んでみる。扉が開いた先には行方不明になって国津軍の軍人になったと思われる神子と神がざわつきながら待機していた。


「わぁ……人が多い。あ、そろそろ時計の針が」


 不安に思いながら唯吹は呟いた後舞台の天井に配置された大きな時計の短い針が9、長い針が天辺に指して鐘の音が全体に広がって沈黙。そして……舞台に一人の大男らしき男神が飛び跳ねるように現れてマイク無しで声を上げた。


「ついにこの時が来た! 貴様らの士気は十分かああああああ!!!」

「おおおおおおおおおお!!」


 彼の声を呼応するように歓声が上がり、いるだけでも熱苦しく感じてしまうだろう。


「高天原に反逆を見せる時だ。これより三時間後、大きな針と小さな針が天辺に向いた時に狼煙を上げる。その時まで英気を養ってくれ!」

「いよっしゃあああああ」


 聞いているだけでも胃もたれしそうな気がしないでもない。舞台に気を取られる暇は無く、唯吹はきょろきょろと辺りを見回す。


「どうした? 唯吹」

「あぁ、ここなら……あの人がいると思って」

「あの人って……もしかして」


 気になって聞いてみた華琳も察したようで同じくあたりを見回してみる。すると唯吹の右肩が何者かの右手に触れられて思わず声を上げた。


「ひゃぁ!? だ、誰!?」

「やっぱりその声は唯吹」

「ボクを呼ぶの……まさか」


 後ろに振り向いてみると黒に近い濃い青色をベースにているなど普段とは異なる服装を身に纏っていて雰囲気は異なるが、その少女は確かに今回の運命共同体の全員が知っている人物であった。


「弥音さん!」

「こんなところにどうして」

「どうしてって……あっ……」


 やっと顔を合わせた唯吹はあることに気づいた。以前の弥音が異なってい部分は服装だけではない。彼女の目に光が無く、しかも右二の腕にオレンジ色の腕章がつけられている。この二点を見た瞬間笑顔が消えて複雑そうな表情に変わっていく。


「華琳やイルハ、ハルクリスさんまで……」

「弥音さん、実はボクたち」

「おーい貴様らー!! 不自然に私語を漏らして何のつもりだ!」


 自分たちの事情を伝えようとしたところで舞台にいる男神の怒号によりかき消されて沈黙する。視線の先は唯吹たちに向けられ、男性も彼女たちをまじまじと見て何かに気づいたようだ。


「ほぉ~。『アレ』身につけていないのか。面白い侵入者がいるものだな。おい貴様ら! 本当ならすぐに牢獄入りのところだが多めに見てやる。その代わりオレと戦え!」


 男性から放つ威圧感と殺気によりそれぞれが無意識に武器を出して構える。


「あとだな、紺色の巫女もオレのために戦え!!」

「えっ……」


 うつむく弥音の手には御札があり、そこから両刃斧に変化して両手で構えてきた。徐々に唯吹たちの周辺の人々は流れるように中心を開き、そこに男神の地響きとともに降り立った。


「ヤマト神群なら知っているだろう。名はタケミナカタ。国津軍幹部のオレが力比べしてやる!」

「タケミナカタとは……随分有名な神様が敵に回ったものだね」

「さぁ、いくぞ!」


 右手から木で出来た丸太、御柱を手に襲い掛かってきた。しかも大柄なのにもかかわらず素早く動けているのは足を水の力をまといつけているのだろう。


「そうはさせないよ! 二龍剣!」


 このままではあたり一帯が水まみれに。その前に唯吹が前に出て二龍剣を取り出し、水面になり始めている地面に突き刺して結界解除させる。おかげで地上に戻り、タケミナカタの足に纏う水の力が失う。


「水中状態でなければスピードは劣るといったな! オレの肉体を舐めんなよ!」


 しかし彼の足を止める気配もなく全力疾走をしていく姿を見て思わず言葉が失ってしまう。


「えぇ!?」

「今度はあたしが相手よ!」

「好き勝手にさせぬ!」


 迎え撃つイルハの動きを止めるべく御柱を持つ右手ではなく左手から藤蔓ふじつるを大量に出して止めようとする。だがその一瞬でツルが全て切り裂かれていた。それをやった元凶が……機関銃を持ったハルクリスだ。


「油断大敵だよ? 唯吹ちゃんのおかげで気兼ねなく撃てちゃうね!」

「くっそ……。だが、貴様らも油断だらけだぞ」

「なんだって。唯吹ちゃん危ない!」

「え、み、弥音さん!?」


 突然の攻撃の気配を感じ、その方向を見ると弥音が唯吹に向けて両刃斧の刃を振り下ろした。二龍剣で受け止めるもののその力は強く、彼女から滅びの瘴気……または封印されし力に似た禍々しい霊力を感じる。


「ボクであることを分かっているの!?」

「許して……許して……」

「あぁ……」


 最初は距離があったから分からなかったが目と鼻の先だからこそ分かる。見つめられている弥音の目……全く光の届かない目は深海そのもの。彼女の心の中の状況を知り、必死に止めようとする唯吹の口を止めた。そして防ぎきったところで弥音は再び唯吹との距離をとって構える。


「さぁ、参るよ!」

「やってみろ! はっ!」


 場所は戻り、タケミナカタは左手から、今度は鉄輪を出してイルハに向けて投げつける。そんな大きな鉄輪を地上から出てきた死せる戦士たち《エインヘリヤル》によって受け止めてイルハが前に出る。


「しもべを盾にするだと!」

「さぁ、一閃をくらえ!」


 両手で持つ直剣を振り下ろして切りつけようとするところを御柱と激突する。


「なかなかやるものだな」

「伊達に剣術を学んでいるわけじゃないからね」

「この隙があれば!」


 激突中の間を華琳が謳う魔剣オルナを持って迎え撃つ。同時の対処を難しいと感じたタケミナカタは御柱で強引にイルハを振り払い、その勢いのまま華琳を振るおうとするが華麗にしゃがみながら避けてこちらから振るう。


「今だ!」


 御柱の持つ右手を切りつけて落とさせることに成功。一時ではあるが彼にとっては致命的である。余裕の表情を見せる華琳ではあるが腕に激痛が走る。


「ククククク……」

「何をした……蛇?」

「戦闘に出ているのはオレと紺色の巫女だけかと思ったか? 馬鹿め、中型のミシャグジだっているぞ!」


 痛みの先である右手の腕には中型の白い蛇が牙が骨にも食い込んでいるかもしれないぐらいに噛みつかれていることに気づき振り払わせようとするも離れようともしない。むしろどんどん蛇の毒によって侵されていく感覚が現れてくる。さっさと対処するべくハルクリスに声をかけた。


「クリスさん!」

「おや、なんだい?」

「その機関銃で噛み付いている蛇を殺して!」

「ほぉ、いいとも。巻き込んだらごめんよ!」


 再び機関銃を取り出して華琳に噛み付くミシャグジを的確に撃ち抜いて消滅していった。これには倒しきれるか不安だったハルクリスにも驚きの顔が。


「おぉ、クリーンヒットだ。後は任せたよ、唯吹ちゃん!」

「はい! 二龍剣!」


 タケミナカタに向けて二龍剣を投げて水の龍と化して動きを惑わせる。はたき落とそうと左手で御柱を持ち上げて振り回すも当たらず、唯吹は彼に近づいたところで二龍剣は剣モードに戻して力強く切り裂いた。


「ぐはっ!」

「よ、よし! これで……」


 致命傷は与えたはずだから怪物であるタケミナカタはこれで消滅するはずだ。……と唯吹を始めまわりは思っていたが彼は一向に消滅せず、膝が地についていてすぐに立ち上がった。流れていく血の止まらぬ胴体と右手の傷を抱えながら。


「き、消えない……?」

「ちぃ……。神子も侮れないな。これは父上であるオオクニヌシ様に報告せねばならない」

「オオクニヌシ!? 大神級の神が今回の黒幕だと言うの?」


 上位の神を勝利する唯吹たちを見た人々が「あの中将の神を追い込める神子なんているのか……?」などとざわついているせいで思わず上げたイルハの声がかき消されてしまう。


「貴様らのことは見逃してやる。だがな、これで部外者とみなされ、居続けることはできないであろう。軍民は『天之門』への準備へ戻れ。今度は……容赦はしない」

「ちょっと待ちなさい! 今天之門って……」


 呼び止めようとするも聞き返すことなく一方的にタケミナカタは再び飛んで姿を消し、ざわつく神子や神が集会場から立ち去っていく。そして暫くして残るのは……唯吹も含めた運命共同体と両刃斧を御札に戻した弥音だけになった。静寂に戻っていく中で華琳は突然うつ伏せになって倒れ、その音に気づいたイルハが華琳の元に駆け寄る。


「華琳!? しっかりしなさいよ!」

「これはやばいな。ミシャグジ様の毒は思った以上に回っているようだ」

「なに呑気に冷静に判断しているのよ! あんた情報屋でしょ? 解毒の方法教えなさいよ!」

「すまない。解毒手段知っても肝心なアイテム持ち合わせていないのでね」

「そ、そんな……」


 脱水状態一歩手前の多汗状態な上に息が荒い。緊迫した状況の中で唯吹は手段を考えるも、結局のところ何もなく頭が真っ白になるぐらいに目を見開く唯吹。この空気の中、弥音が唯吹の横を通り過ぎ、華琳の方に歩み寄ってきた。


「弥音?」


 近づいたところで座り込み、懐からある薬を取り出して華琳に飲ませる。小一時間が経つと呼吸に落ち着きを取り戻し、汗もでなくなっていき、やっと目を開いて目の前にいる彼女を見て小さく呟く。


「……弥音さん」

「与えた薬は特効薬です。少し休めばいつも通り動けるはずで……」


 表情変えぬまま説明する弥音の顔に突然歪ませる。イルハからは急な激痛に苦しんでいるように見えるのだろう。


「ちょ、弥音大丈夫!?」

「大丈夫です。これでやることは終えたので、私もこれで失礼します」

「待ってよ弥音さん!」


 深呼吸をした後ゆっくりと立ち上がって歩こうとするところを唯吹が呼び止めた。このまま行ってしまえばもう会えないと心の奥底で恐怖を感じ取ったのだろうか。唯吹の顔には真剣そのもので逃したくないと分かるぐらいの意志が込められていた。


「神子連続行方不明事件の調査任務で何が起きたの? どうして弥音さんが国津軍に所属しているの?」

「…………」


 全然答えようともしない。ここまでの流れを見るに彼女の目には光は失っているがどこも洗脳された証拠が見当たらない。事実、華琳に特効薬を与えている時点で先程の戦闘は命令されたから攻撃しただけである。この状況からどうしても引き出したい。……と考えていたところをハルクリスが切り出した。


「やっぱりこの状況では話しづらいかな? まぁ、丁度いいし僕は離れた場所で瞑想してくるよ」

「情報自分から聞き出さなくてもいいの?」

「聞き出すことは大事さ。でも、状況を選ぶのも大事だ。何より……」


 一瞬弥音とハルクリスの目線を合わせた。


「ここは僕が出る幕ではなさそうだ。では失礼するね」


 そう言ってハルクリスは彼女たちから距離を作って一人で瞑想を始めていた。この状況で弥音から聞き出すことができるのだろうか……。先にイルハが立ち上がり、弥音と目線を合わせてきた。


「唯吹が言っているのよ? 答えなさい。あの調査任務と国津軍に入っている理由を」

「……調査任務と国津軍の入軍に関しては完全に私の落ち度です。オオクニヌシ様に抗ってはいましたが、結局太刀打ち出来ずにこのザマです」

「やはり今回の黒幕はオオクニヌシだったのね。今自分の状況わかる? 私が見た未来の光景の出来事で全て分かっているのだから」

「分かっていますとも。その未来の光景とは?」

「弥音、あんたは天之門の鍵となってその扉が開かれる。その瞬間高天原に国津軍が押し寄せてきて親神のアマテラス様が殺されるかもしれないのよ」

「……そのことは知っています」

「なら止めなさいよ!」


 段々会話のドッチボールになっているのか、いつのまにかイルハは感情が強く口調として露わにしてしまった。弥音は淡々と無表情に返すだけだが。


「……善処しましょう」


 それなりの回答に見えるが、何も変化が見ない辺り通じているのかイルハの表情に曇りが見える。次に華琳がゆっくりと起き上がってから立ち上がって話しかけてみた。


「弥音さん、助けてくれてありがとう。私たちに言っておきたいこととかある?」

「それはただ一つ。この問題は私の問題。さっさと撤収することです」

「いやいや、やってほしいこととか悩んでいることがあれば……」

「それはありません」


 受け流すような回答をするあたり、張られた鋼鉄の壁が思ったよりも固い。彼女の心を少しでも開きたい一心で手探っていく。


「……それじゃ、私たちのことを信じないのか。今この時間だと影の双子は夢を通じて君を見ている。こんな君の姿を見たらどう思っているのだろうな」

「それは……」

「少しでも信じているなら話してよ、今弥音さんが抱えていることを! 私は君を救いたい。それはイルハさんや唯吹さん、ハルクリスさんだって思っているはずだ!」


 ダメ元の気持ちで言いたいことを言った。全て聞いた弥音の表情にはほんの少し目が動いたようにも気がしたが……


「……聞いてどうするのですか」


 と何も変わらない口調で返された。だが懐からある一枚の御札を出し、華琳に投げて動ける左手で受け止めた。


「そこまで気になるなら渡します。次会った時は容赦なく殺しにいきます。なのでさっさと万神殿に帰ってください」

「そんなことは……出来ないよ!」


 立ち去ろうとする弥音を再び唯吹が呼び止める。流石に呼び止めすぎたせいかわからないが、弥音からの目線が殺意に変わりつつあるような感覚を覚える。


「弥音さん。実は僕……弥音さんのことが……。いいえ、一つだけ言わせて! ボクたちがこの戦争を終わらせ、行方不明になった神子たちや弥音さんを解放させる方法見つけるから!」

「…………」


 唯吹の必死の言葉を彼女に受け止めたかは定かではなく、リアクションをとることもなく御札一枚取り出して術式でこの場から姿を消した。


「ボクたち……言いたいこと全部、言ったよね」

「言ったわよ。後はあたしたちができることを尽くすだけ。華琳が手にしたその御札って?」

「うーん、なんだろう」

「やっと終わったみたいだね」

「あ、クリスさん!」

「今瞑想終えてきたよ。何かいい情報を手に入れた?」

「弥音さんから御札一枚貰っただけ。色々と話してくれたけど、結局固くて……」

「なるほど。でもそれはどうだろうね」


 ハルクリスの一言により思わず顔を上げ、全ての目線は華琳の持つ御札に向けられる。


「頑なに反応が無かったら御札なんて渡すわけがないと僕は思うがね。気になるなら開いてみてはどう?」


 言われてみたらそうだ。きっと御札の中に彼女が伝えたいことが込められているかもしれない。一つ頷き、華琳は御札をかざして強い光が周辺に包まれた。


                  ●


「どうして……どうしてアマテラス様はこの私を生かせたのですか……。あの時、魔人になった私を……」


 真っ黒な空間の中。何度、何度も問いても届かぬ声。私の脳裏にはアマテラス様の声が聞こえない。ただただ、牙を向いてくる内に秘めた己の力に身体を縮こませることしかできない。


「私は……一体何者……?」

『──私は遠き未来にて神に昇華する者』


 深く深く深層心理の奥底で己の物語を紐解いた時に視えた1つ目の神の影──それが己自身が持つ神の力だ。意識に集中できれば感じとれるとはいえ今はまだ『種』の段階であり、親神の力を借りながら人間としての過程を歩んだ末に神に昇華することが、本来持っていた『最初の予言』。なのに──


『──貴様は我が血を受けし魔人。世界の変革を起こす柱となるのだ』


 その1つ目の神の影を食いつぶすように現れる2つ目の神の影──それがオオクニヌシの血だ。

 光景を客観的に振り返ると──6年前のあの出来事、身を挺して守っていたところを怪物が襲いかかってきたことによる胴体に激しい痛みで意識が暗転したのまでははっきりと覚えていた。問題はその後で、脳裏からある声が聞こえた。


『守りたいか。守りたければくれてやろう』


 身体の奥底から疼き出すアマテラス様の血とは異なった神の血の力、だがそれは力を抑えきれなくなるほどの拒絶反応と秘めし神の力を汚染されてしまった事による強制覚醒の暴走。おそらく起き上がって目の前の怪物を滅多打ちしたと思われ、ここの出来事に関しては頭の整理ができていない。


 その後意識は再び反転し、朦朧とした意識の中でアマテラス様の戸惑いの声が聞こえてくる。


『ああ、なんてことを……何とかしてあげないと……』


 おそらく、早急の措置によりオオクニヌシの血の力は封印され、汚染された己の神の力に制限を掛けられた──それが絶望の闇が深まることで発現する災厄の力の元になった。


 ただ、ここで2点疑問が残る。


 1点目はオオクニヌシについて。あの時、私の前に現れたオオクニヌシは、本当にオオクニヌシだったのだろうか。霊力の質や己の今の状況を考えても、本物とは思い難いものがある。


 2点目はアマテラス様が取った措置について。何故汚染された力を一部引き出せる形で制限をかけたのか。過去にいくらでも聞ける機会はあったはずなのに……おそらくあの出来事のショックが大きすぎたのと己の力の正体に目を向ける暇が無く、無意識にも頭の片隅に追いやってしまったかもしれない。


 ──とにかく、封印されていたオオクニヌシの血の力が当の神の手によって封印は解かれ、今でも蝕まれる感覚に飲まれようとしてる。この感覚は今まで以上の形容しがたいものだ。


「…………っ! はぁ……」


 あのオオクニヌシをどうにかしようと思うだけで全身に響き渡る息苦しさと痛み。時折咳をして血痰が出てくるぐらいに追い込まれている。

 人として、神としての自分を失って手遅れになる前に……あのオオクニヌシを葬らなければ。


 どうか、この事実を、この気持ちを札にして誰かに渡さないと────


                  ●


 まばゆい光が無くなり、閑散とした集会場に戻った運命共同体であるが興味深く頷くハルクリスを除いて複雑な表情をしていた。


「と、ということは弥音さんって……元々神様だったの?」

「ざっくり言うならそうだね。日本で言うなら『現人神』が丁度いいだろう。まぁ、神子の大半は半神だからね!」


 そこを言ったら面倒だろう……。なんて思いつつもイルハは深呼吸をして気持ちを切り替えて前に出た。


「弥音の人生を狂わせたのはオオクニヌシであることは分かったことだし、天之門へ行きましょ」

「イルハさん!?」

「確かに。ここを長居していると、いつ狙われるか分かったものではない」

「華琳さんも……た、確かに」


 現在静寂を保つことができるのは、あくまでタケミナカタを打ち勝ったことによって見逃してもらっているだけ。話したいことは山々な唯吹でも外周から漂う異様な気配で話そうと思うことは出来ない。


「分かった。次の場所に行こう。華琳さんも回復させなきゃ」


 ひとまずこの場から立ち去るべく早急にこの基地から脱出し、たまたま見つけたワープホールを潜り抜けた。

 次に訪れた場所は再び周辺が草木に覆われて暗い場所にたどり着いたようだ。華琳が左手で懐中電灯を取り出して看板を確認すると『登山口』と書かれているあたり、山の中に居るようだ。入り口というのもあり、テントを敷くには丁度いい広さとベンチも置かれている。ここでは誰もいないとわかり、ハルクリスが先にベンチに座った。


「ふぅ~。やっと一息できる」

「あんたが先に座ってどうするのよ。みっともない」

「ハードワークは久々なものでね。あ、そうだ。君たちに一つ伝えなきゃいけないことがある」

「急にどうしたの? クリスさん」

「伝えたいことって……それは……」


 彼のポケットから取り出されたのは……先程まで居た基地に属する神子と神たち、そして弥音も身につけていたオレンジ色の腕章。


「僕も実は……国津軍に属していたんだ」

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