物語を紡ぐ神子たち
白真滝 雷風
プロローグ
私はある夢を見る。過去、現在、未来、いつの出来事かは分からない。
場所は日本のとある山間部。さらに言うならその山の中にある洞窟。全面豆電球だけで薄暗く、先を見渡しても真っ暗な洞窟の中で駆け出す音が二つ。一つは手負いの四本足の怪物。もう一つは紺色の和装服を着た背が少し小さめの少女。
「ちぃ……。待ってください!」
息を切らしながら不安定な地板を正確に踏んで走っていく。このまま追い詰めることができると思っていたところを、目の前に大量の泥人形が現れて少女に襲い掛かってきて足を止める。
「こんな時に……!」
苦い顔を浮かべながら一枚のお札を出して対処しようとしたとき、背後から数本の光が複数の泥人形に貫き、崩れ去っていく。少女はこの光の正体を知っていた。後ろを振り向くと、もう一人のラフな服装をした少女と足の生えた丸っこい物体の姿。
「みいいいいいいおちゃあああああん! あとはわたしが任せるから、先に行って!」
「愛里……。分かりました。恩に着ます!」
ほとんどの泥人形が崩れ去ったすきに紺色の和装服を着た少女、
「メジェドさん、引き続きお願い……っておわっ!」
使い魔らしきメジェドに次の指示を送ろうとした時、新たに現れた大量の土人形が愛里を押しつぶしてきた。だが、すぐに跳ね返された。先程とは姿が代わり、頭には猫耳が生えるなど、まさに小さな獅子のようなもの。
「にゃー! ここまで怒った以上、容赦なく行くよ! メジェドさん!」
通常よりも何倍以上の光が放たれ、一瞬にして崩れ去るような光景を遠くに居る弥音でもはっきり分かるぐらいだ。
「愛里は怒らせるとおっかないですからね……。さて」
再び視線を前に向き直して怪物を追う。次も土人形……ではなく、土で形成されたミノタウロスの群れが現れた。右手には土とはいえ、立派な斧を構えている。足止めをくらい、今度こそ対処……の前に
「弥音! ちょっと頭を下げて!」
メジェドを使う少女とは違う少女の声が聞こえてきた。言われるがまま頭を下げると、一体のミノタウロスの前に一人の男が現れ、右拳で殴り飛ばした。普通の男性兵士にしては多少いびつな姿をしており、まさに『死せる戦士』とも言うのだろう。後からたどり着いたのが弥音よりも少し高めの背をし、赤と黒のコートを着たポニーテールの少女の姿があった。
「こんな的、あたしとエインヘリヤルが居ればなんとかなる。見失って破滅の未来にならないうちに!」
「ありがとうございます、イルハ。お先に失礼します!」
空けられた一体の隙間をすばやく入り、引き続き怪物を追いかける。他のミノタウロスが弥音を追いかけようとしているところを男性兵士ことエインヘリヤルが阻止、気がつけば大軍が作り上げていた。その表情からは余裕さが見える。
「いくらでも出てきなさい。あたしたちの軍勢が尽きるか先か、相手の再生能力が失うのが先か、勝負といったところね!」
ミノタウロスの群れ相手ならイルハにまかせてもいいのだろう。全力疾走で走り続け、時折大きな段差もあるが軽々と乗り越えていく。やっと怪物に追いついてきたところで大きな地響きが聞こえて足を止める。
「全く懲りない怪物ですね……次は一体何なのですか」
地面の土が隆起し、現れたのは弥音よりも一回り大きなゴーレムだ。一体だけだが、見る限りすり抜ける隙が無い。ここは力を使って切り抜けるしかないと、一枚のお札を出すが、そこにもう一人駆け抜ける音と一瞬の金属音が洞窟中に響き渡る。弥音の横に通り過ぎたのは白と黒がメインのジャケットを着た薄茶色の髪の女性の姿だ。
「謳え! 我が剣よ。その刃で目の前のゴーレムを切り裂け!」
右手に持っている大きな剣を両手で振り回し、ゴーレムを真っ二つにして崩壊させた。一瞬の出来事で呆然としていた弥音だったが、少女のある状況に気づいて声をあげる。少女は上着も含め、所々に傷が出来ていたのだ。他の二人と比べると相当ダメージを受けている。
「……華琳! どうしたのですかその傷は。怪物が逃走した時に何かが起きたと思ったら、こういう……」
「この洞窟に少し手こずってしまったけど大丈夫。ここで力を使わせるのも勿体無いからね」
「華琳……」
「さぁ、ゴーレムが修復する前に行って。時間稼ぎぐらいは私にでもできるから」
「……分かりました。あんまり無茶はしないでください」
崩れ去ったゴーレムが再生しようとしている。道を塞ぐ前に弥音はこの場を切り抜けて走り去った。瞬く間にバラバラの破片がゴーレムに姿を変えたところを確認して華琳は再び剣を構える。
「やっぱり一筋縄ではいかなそうだね。大丈夫、無理はしない」
そう自分に言い聞かせながらゴーレムに立ち向かった。
状況は弥音に戻り、ずっと走り続けていると大きな空間があることを見つけて入る。周辺は岩肌だけが見えて質素な雰囲気が広がっていて、四本足でサルのような顔をした手負いの怪物鵺もそこにいた。
「鵺! ここまでです。観念して宿主を返してください!」
「観念だと? 何バカなことを。折角魔力に満ちたこの洞窟を逃すわけにはいかないだろう。この宿主が知る『魔力の秘宝』さえ手に入れば、貴様のようなアマデウスも一瞬にして倒すことができるのだからな!」
「なるほど。尚更、君を止めなければいけませんね。絶対渡しはしません」
一枚のお札を出し、そのお札から槍に変化させる。鵺からもゆっくりと探す暇を与えさせないと察してくれたのか構えを見せる。
「探させてくれないか。いいだろう。ここで倒すのみ!」
そして四本足の勢いで弥音に向けて駆け出した。この速さでは回避しても致命傷になる可能性が高い。と察し、一枚の御札を出して使い魔一体呼び出した。
「八咫烏!」
「よしきたー!」
「ここで止めても無駄だ!」
三本足のカラス、八咫烏を呼び出して鵺の動きを止めようとした。だが、気がつけば鵺は弥音との距離が思った以上に近く止めたことでついていた蛇の尻尾が弥音の腕に深く噛み付いた。
「くっ……」
「あるじぃー!!!」
「ヌッフッフッフ。……ぬ? なっ!?」
ところが、尻尾の蛇の牙はどんどん砕け散って、噛んだ意味が無かった。弥音は思う。秘宝を持った状態で攻撃して当たりどころが悪かったら、無事では済まなかったのだろう。と。
「お、おれの蛇の牙がああああああああ!」
「もう、ここまでのようですね」
気がつけば鵺は宙に浮かされ、身動き取れない状態になっていた。弥音はやり投げの構えを見せ、八咫烏は鵺を見て何か調べているようだ。
「霊脈観測、急所特定! 主、討滅するなら今だぜ!」
「特定感謝します。見敵必殺! さぁ、貫け!」
見た目投げるためだけの槍に光が纏い、鵺に向けて投げつける。鵺は何も出来ないので、このまま貫かれ、断末魔とともに光となって消滅していく。そして鵺の中から中年の男性が出てきて地べたに倒れた。状態からして少し服のもつれもあるが、無事のようだ。
「怪物の消滅を確認。絶界もそろそろ消滅するはずです」
「いやぁ~、ヒヤヒヤしたぜ。主が猛毒に冒されたと思うとどうなっていたことか。さっ、あの中年ジジィだけしか知らない『魔力の秘宝』とやらを探そう」
「はい。他の怪物の手に渡る前に見つけましょう。とはいえ……この洞窟全体に強い霊力や魔力反応はあるのですが、本当にあるのでしょうか」
少し疑いつつ、あたりを見回して秘宝を探る。暫くしているうちに眷属を倒していた愛里とメジェド、イルハ、華琳もここに訪れた。
「あ、弥音見つけた! 怪物は倒したのね」
「後は『魔力の秘宝』を探すだけです」
「あれ? メジェドさん、何か見つけたの?」
この空間に入ってからのメジェドは少しながら様子が変わり、何かを見つけたようではね続けているようだ。そのメジェドの行動に気づいて先に動いたのが華琳だ。
「もしかしてそこに秘宝があるのだろうか」
と周辺も近づいていると、メジェドが跳ねた付近の岩肌が剥がれ、隙間から光が差し込んできた。
この光は一体何なのか。それを知ろうと思った頃には私が見ている視界が真っ白になり、知ることは無かったのであった。
――再び、視界が取り戻した時には、目の前に石畳が見え、すぐに真っ暗になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます