タイトル未定

樹燐。

#0


床とチョークの擦れる音。

雨音。静寂。


薄暗い部屋で一人、怪しげな魔法陣を二つえがく。


「ふふふふふ、今日のはいーい出来だぁ.......」


しかも今日の術はひと味違う。

普段ならひとつ描いたら術を始めるところ。しかし、一向に成功しない黒魔術に沸を切らした僕は、たまには現代の叡智であるネットに頼ることにした。偶然見つけたサイトには、召喚術式では本来魔法陣を二つ書くのが正しいと書いてあった。

今日こそ悪魔をよんでみせる!

えーと、呪文ののってるページは......ここだ。


「えっと......我招かれる踏まれざる門......」


次の文言を発しようとページを横目で見る。

あれ、呪文、間違えたな。

そう思った瞬間だった。


ーーinspiramus.


その声と共に、目の前が真っ暗になる。

浮遊感の次に落ちる感覚。言葉にならない絶叫とともに、意識が薄れていく気がした。



今日は悲しい日。思い出したくない日。

やめて、思い出したくない。

目の前で死んでしまった彼の顔が。

目の前で赤に染まった金が。

夕焼け色に染まった瞳から光が消えたあの時を。

思い出したくない。忘れていたのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る