『空っぽな花束』

理佐ちゃん

第1話

どうして私を愛してくれないの?


真っ赤な林檎をひと齧り

白雪姫になれない私

王子様は助けに来ない

一人で睡眠薬飲んで倒れ込む

居るのはただの小人だけ


どうして愛されたいの?


小人は私に問いかける

真っ黒なおめめを輝かせ

私よりも純粋な瞳が羨ましい

嫉妬心が渦巻いて


どうしてあなたは愛されたくないの?


つい意地悪言っちゃうの

私は姫になれない継母ね

王子様は私の元へやって来ない

小人は悩んで私の方を向き


だってもう充分愛されたから


にっこりと素敵な笑み浮かばせる

笑みは私にだけ向けられた

胸ん中が真っ黒になっていく

雲行き怪しく変わってく


ならもっと愛してあげる


私は彼女に林檎をあげる

真っ赤な唇が林檎に当たる

チュッと口付けひと齧り

そうして小人は倒れ込む


夢の中にでも愛されなさい


呟く人は誰かしら?

きっと乙女の姫にもなれない

意地悪な継母にもなれない

憎悪の塊の魔女ですの

それは私の事?


私はただ愛されたかっただけなのに


私は狂い鳴き始める

涙が雨のように落ちていく

私が闇に堕ちていく

重力に逆らえぬままおちていく


誰か助けて、愛して


王子様はこっちへ向かってくる

私の元へ?

違う 私じゃない

雪のような肌の元へ

薔薇のような唇の元へ

黒炭のような髪の元へ


美しいお嬢さん、私と城に


王子様は彼女を抱きかかえ消え去った

私が抱かれるはずなのに

私が彼女の所にいるはずなのに

何を間違えた 何処で間違えた?

林檎を先に食べたのは私だったのに


私が愛されるはずだった


彼女はただの小人のはずなのに

私が姫になるはずなのに

私がお妃になるはずなのに

私が王子様と恋に落ちるはずだったのに

王子様は私を一目も見ずに消え去った

幻想ごとくいなくなった

私を置いて?そんな嘘が


私は愛されない?


涙と欠伸が何故か出てきてしまって

私の瞼が重くなる

これはきっと悪い夢なんだ

そう思って眠りにおちる

闇へ引きずり込まれる


王子様に愛されるのは、私


私は忘れた 睡眠薬のこと

彼女が本当の白雪姫だってことを

私はただの引き立て役の魔女の役

カーテン閉まり 拍手なる

私には誰も薔薇をくれない


何処の世界でも愛されない


白雪姫だけが薔薇を持っている

名演技をした彼女だけ

彼女は感動で涙を流す

王子様は彼女を肩をさする


私がいないと愛されない癖に


彼女は両手一杯の花束を

私は空っぽな心束のみ

私は空席の客席のみ

エンドロールで隠される

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『空っぽな花束』 理佐ちゃん @Risa-chan

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