第24話 ミアの強さの根源は

 その後の話し合いの結果。


 俺達はこれから二週間この屋敷に籠り、ミアの指導の元、集中合宿をする事になった。

 内容はこの国における知識と常識の学習と、体力づくりと魔法の習得だ。


 朝から昼まではミアと共に体力づくり、昼から夕方までは俺と奏だけで魔法の特訓、そして夜になったら勉強と、二週間はこのルーチンを繰り返す。

 なお、他者との関わりは厄介事になりかねない為、この二週間は外出する事を基本的に禁止とする事にした。


 二週間後どうなっているか分からないが、この集中合宿で、俺と奏のこの国に対する認識が大きく変わるのは間違いないだろう。


 俺達は、この世界に順応する為に動き出した。




 所変わって屋敷の庭の隅。


 ミア流体術指南を受けていた俺だが、ミアの熾烈な訓練についていけず、俺は情けなく地面にひれ伏していた。

 滝のように汗が流れている俺に対し、ミアは汗をかく様子すらなく、涼しい顔でひれ伏す俺を見守っている。

 奏は体力づくりのため庭の周りを走り回っており、俺の視界に奏を確認する事は出来ない。


「はぁ……はぁ……。ミア、お前、強すぎるだろう……。もう少し、手加減してくれ……」

「強くあらねば主を守る事は出来ません。それに、これ以上手加減をすると雑になり過ぎてしまい、渉様の為になりません。二週間で、現段階の私についていける程度を目標にしましょう」

「本当に、たった二週間で……ついていけるぐらいに……動けるように、なるのか」

「本気でやれば出来るでしょう。歩様は天才といかないまでも、筋は良さそうですから。後は訓練あるのみですね」

「そうか……」


 天才ではないとは分かっていたが、筋が良さそう、か。

 筋が良いわけではない所に引っ掛かりを覚えてしまうが、前向きに受け取っておこう。


「ですが無理やり詰め込み過ぎても後に響くだけです。ここで少し休憩を取りましょうか」

「助かる」


 俺は身体を回転させ、仰向けになり大きく息を吐いた。

 休憩に入ったことを奏に知らせるミアの声が辺りに響き、しばらくすると息を切らした奏が隣に現れる。


「ボロボロですね、兄さん」

「情けないだろう、これがお前の兄だ」


 空は雲ひとつなく晴れ渡っており、冷たく吹き付ける風が汗と共に、火照った身体をゆっくりと冷やしていく。


 ミアの実力は分かっていたが、実際に相手にされると非常に恐ろしい。


 素人目に見ても、明らかに洗礼された身体運び。

 相対した際の、圧倒的な威圧感。


 ひとたび攻撃を受ければ身体が悲鳴を上げ、俺は反撃をすることすらできなかった。


「ミア、お前はどうしてメイドになったんだ?それだけの実力があるのなら、メイドなんかやらなくても生きていけるだろう」


 俺は、疑問に思っていた事をミアにぶつける。


 ミア程の実力があるなら、結構自由に職を選択できるような気がする。

 冒険者になるという選択肢もあるだろうし、ボディーガードや軍属となる事も出来るだろう。


 わざわざ、奴隷と同じだというメイドになる必要性が見つからないのだ。


「そうですね、私も気になります」

「大旦那様から、私の事についてのお話は無かったのですか?」

「あったら良かったんだけどな……」

「全くの情報もなくここに連れてこられましたからね……」


 俺と奏は、何をしているか分からない父に対してため息をつく。


 ある程度情報を渡されていれば、ここにきてからの立ちまわり方も変わっただろう。

 しかし、父はまるで試すかのように俺達に情報を与えなかった。


 一体何を企んでいるのか、全く分からない。


「そうだったのですね。私の事はお話しされている物とばかり思っていましたから、少し驚きました。とはいっても、私の過去話に面白い事なんてありませんよ?」

「別に面白さなんて求めてないさ。ミアの事だから気になるんだ」


 俺達とは住む世界が違うので、ミアがどのような人生を歩んできたのかには興味が湧く。

 メイドになるぐらいの人生だから、もしかしたら悲惨なのかもしれないが、それもミアの歩んだ人生だ。

 ミアの主として、受け止めなければいけない。


「分かりました。では、何故私がメイドになったのか、お話させていただきましょう」


 ミアは、自らの過去を、ゆっくりと語り出した。

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