墓と少女

文乃漆

プロローグ 屋敷の中で

 私は墓を守る。

 それはあるじに命じられたからではない。それが私の主にできる最大限の感謝だからだ。


 主が死んでどれくらいの時が経つだろうか。

 ここは森の深くにある大きな屋敷。人が立ち入ることなどほとんどない。

 その中で聞こえるのは夜に鳴き出す虫の声と、屋敷で働いている数名の足音。それだけだ。

 長い間主に仕えているが、未だ危険はない。

 仮に屋敷に危険があろうとも、この部屋には辿り着けないだろう。

 ここでは私よりも強い者がたくさん働いている。ベテランの凄腕兵士、魔法とも思えるマジックを生業とする者、かつて剣豪として恐れられた男、本当に様々だ。

 そんな安心感からか、ふと外に目をやると粉雪が舞っていた。

 そんな中で私は主を思い出す。主と出会ったあの日も、底冷えする寒さの中、雪が舞っていた。


 最初は、私と主の出会いのお話。

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