第2話 酔い覚めの泡、値万両

酔い覚めの水、値は千両と決まりけり


なんて台詞の意味は、お酒を飲まないキッズや今のヤング達にはとうてい理解できないだろう。


いやむしろ、したくないと言ったところか。というか理解する必要はない。生きていく上で不必要な知識であると断言する。


とある飲み会の夜。


ベロベロ、したたかに酔って着の身着のまま寝てしまった。次の日の昼過ぎ。足元のおぼつかないまま先ずはお手洗いへ。


スッキリした後にくる猛烈な喉の渇き。


冷蔵庫にてキンキンに冷えたお水を


ゴクリ


また


ゴクリ


「パーッ!」


こめかみにじんじんくるあの感じ。喉を通って身体中に伝わる潤いそしてまた潤い。その快感たるや、まさに値千両も惜しくない。と言ったところか。


ここまで書いておいてなんだが、私は下戸である。いけない口だ。


しかし大人になるにつれ酒を飲む機会が否応なしに増えた。気が付けばかつてカシスオレンジしか飲めなかった小僧が「とりあえず瓶ビールでいいですか?」などと生意気に口にするようになっていた。


酒というのは、嗜好品であるとともに社交する手段でもある。これは先輩の受け売りだが、あながち的を得ていると思う。


さて、酒を飲めない私だが最近はかなりの頻度で社交場に駆り出されている。単純に年齢的なものだろうが、飲めない人間にとっては結構しんどい。しかしいい大人なのでよほどの理由が無ければ断らない。


だがただ付き合っているわけではない。小狡い私には相応の下心が控えている。


一次会二次会と杯を重ね、夜もとっぷり更けた頃。私は頃合いをみて切り出す。


「先輩。しこたま飲みましたね」


「そうだな」


「しかしなんですな。腹が空きました」


「おお。そう言えば‥」


「いきませんか?」


「ラーメンか?」


中年に差し掛かった男二人のこの会話。そしてその最中に浮かべている笑顔。醜いことこの上ない。一人で深夜のラーメン屋に行く度胸の無い私は問答無用で道連れになってくれるこの優しい先輩を重宝している。


しからばと、一路。深夜営業のラーメン屋へ。


ここのラーメンがまた美味いの美味くないの。ぶっちゃけかなりふつうの味だ。


酔っていなければ美味いと思えない。


しかし行ってしまう。おまけに味が濃い。かなりの確率で夜中に目が醒める。だが、それが狙いなのだ。


先輩と別れて帰路の途中。私はコンビニで買い物をする。


炭酸ミネラルウォーターを一本。


コレを寝る前に自宅の冷蔵庫にてキンッキンに冷やしておく。そして寝る。着の身着のまま。


数時間後、ハッと目が覚める。喉に猛烈な渇きを感じゾンビの様にフラフラと立ち上がる。壁や柱に頭をブツけながら冷蔵庫を目指して。


そして力なく開ける冷蔵庫のドア。ブーンという電子音。顔にかかる冷気。


手に取る炭酸ミネラルウォーター。蓋を開けると気持ちの良い発泡音。


プシュ!


間髪入れず一気に喉へ流し込む!


ゴクリッ


ゴクリッ


ゴクリッ


「ぱあああああっ」


私はこの瞬間の為だけに酒を飲む。


酔い覚めの泡、値は万両と決まりけり


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