ドラゴNEET!~えっ俺竜族だったってこと!?~
@sengoku4902
プロローグ タッチのタッチ
右鎖骨に顎をつけたまま左の乳首を見ようとして欲しい。
そう、その顔その顔。
その顔で隣の潰れた女子の胸元を見ているのが、俺の友達。
遠い、大学サークル新歓コンパの日のことで、まだ俺たちが人間だったときの話だ。
「おまっ なんつー顔して見てんだよ!」
「きんもー! なになになに勃ってんの? 勃っちゃてんの?」
「な、は!?勃っちしてねぇっすよ!!」
「「タッチwwwwwwwwwwww」」
以来彼はタッチと呼ばれることになった。
バンプオ○チキンが好きという一枚看板引っ提げて軽音楽サークルに入会、大学デビューの夢はすぐさま砕けた。その時辞めれば良かったものを、望みを捨てずに居座りを続けた結果、先輩根明集団に囲まれイジられ、コミュ障は拍車を掛けて重症化していった。
「何故弊社を志望されたのですか」
「お、あ、いや、自分、他にやりたいこともなくて、調べてたらここがあったので」
「それは、本当は仕事をしたくなかったということですか?」
「そ、そういうわけじゃないっすけど」
「結構です」
岩井辰彦、就活を断念以来NEET、長身のデブでコミュ障童貞、そして
――現在―――
「あああぁああもう、ふっざっけんなよッ!!」
岩龍のタッチがブチ切れた。伸びきったTシャツのような岩肌を震わせる。
「もういいよ、やればいいんだろ!うんざりだ、くっそおおおおぉおおおお!!!」
「おい、落ち着けタッチ…… 見ろよあの光景を!」
俺は目の前に広がった惨状を千切れるほど腕を振りながら指さす。
巨大な炎の弾やら氷の弾が無数に空を飛び交い、所々で地割れや竜巻も起きている。
一面、空も地上も動体に埋め尽くされていた。あっちではゴブリンの大群が巨大な昆虫群に凄まじい勢いで捕食されながらも物量で襲い掛かるのをやめず、こっちでは巨人が無数の首を持つ蛇竜に締め上げられながらも頭を一つ一つ噛み千切っている。
向こうの山を勢いよく駆け下りてきたケンタウロスの軍勢がエルフの弓の掃射を受け瓦解した上を大小無数の青黒い蛸の群れが蹂躙し、そこに朧車や餓者髑髏にぬっへほふなどの夥しい日本の妖怪たちが突撃をかましたかと思うと空から馬鹿でかい雪だるまが落ちてきてそれらを圧し潰す。
その雪だるまにワイバーンやグリフォンなどの天空覇者達がサクサク突き刺さり、すぐさま崩壊するとそこは雪原の戦場に成り代わった。
その遥か手前の山の麓の川のほとりでは河童の子供とホビット達が相撲を取って遊んでいる。
越後平野は地獄と化していた。
「な、タッチ、落ち着こう?」
「うおおおおおぉおおぉおおお!!!」
俺の静止も聞かずタッチは唸りと地鳴りを上げて走り始めた。なぜか女子にカラオケを歌うようデンモク促され続けて、勝手に切れた挙句、アニソン歌って爆死した奴の光景と重なった。
止むを得ず、俺とマサヒコはタッチを追うが、竜族でも相当の巨体を誇るタッチは周囲の木や岩を安々と粉砕し、敵を踏みつぶし、有象無象を踏みつぶし、友好種族をも踏みつぶしながらポセイドンらしい巨人をぶっ飛ばして戦場を一閃すると、また遠くの岩山もボーリングのピンの如く粉砕しながらどこかに走り去った。
(はへー、すっごい強いじゃん……)
「タッチ、最初っからやったら良かったのに」
マサヒコが呟く。その通り。あの時は場を間違えていただけでタッチの歌は結構上手かったと思う。
皆、痛い思いをしたくない一心で全力撤退一辺倒であったのだが、あれだけの攻撃に晒されてこれまで我々から犠牲者が出ていないということも、よほど竜族は戦闘的には恵まれているということなのだろう。
他の奴らも後から続いてそれを見ていたようで、「なんか俺らでもやれんじゃん?」的なムードになっている。こいつらニートのくせに何言ってんの?羽と牙ついたくらいで調子乗っちゃった?
(はぁ~やれやれぇ)
俺はため息をついたぜ。
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