第6話 過去の記憶

 海上保安官は日々訓練に明け暮れる。

特にマシンミュータントは最前線に立って魔物や不審船や海賊船のミュータントやテロリストが変身するモンスターとも戦わなければいけない。有事の際は自衛隊のミュータントと一緒に敵と戦うのだ。もうすでに俺は経験済みだ。尖閣、先島諸島の戦いで中国軍の艦船や中国海警局の海警船と戦った。それだけではなくビキニ環境の時空の穴事件で米軍の艦船のミュータントと戦い米軍基地に拉致されてかつて葛城茂長官と一緒にあの激戦の太平洋戦争を戦った大戦機のミュータントが第五福竜丸や自分達まで拉致した犯人だった。沿岸警備隊チームでは南シナ海の時空の門事件で自分の韋駄天走りは時空を歪められる力があるのを知った。そして横浜の時空の扉事件では引きこもり保安官貝原の音を操る能力を利用した作戦を実行して邪神クトゥルーを復活させようとしたテロリストを倒した。自分はその場にはいなくて東シナ海でも海警船の襲撃で李紫明、ペク、キム、李鵜、烏来と一緒に気がついたら修理ドックにいた。そして特殊部隊SSTから芥川明という女性保安官が仲間になる。彼女はオルビスと同じ「宇宙の漂流民」で五十年前に海保に拾われ保護されてある事情で更科教官の知人の家に預けられ暮らしてきたがこの間、ある事件に巻き込まれやもなく巡視船「しきしま」と融合した。

 考えてみれば慌しい一年八ヶ月だった。きっかけは二年前の東日本大震災で葛城翔太を助けに行った事だ。彼はあの時は十五歳だったがすでに先祖代々から時空武器を継承していた。

 俺は三神崇。巡視船「こうや」と融合している。自分の特技は韋駄天走りだ。韋駄天走りだけでなく自分には「レーダーヴィジョン」というイージス艦に似た能力がある。それの制御と韋駄天走りの制御に相模湾海上にある訓練所に来ていた。

「三神。スピードを押さえて走れ」

 「こうや」の船内無線から更科教官の声が聞こえた。

 「了解」

 青い稲妻をともなった陽炎はスピードを落とした。三神は煙突に装着しているリング状の装置に精神を振り向けた。しかしスピードが思ったほど上がらない。

 「補聴器を外してみろ」

 更科教官の指示が聞こえた。

 三神は操舵室に接続していた補聴器を外す。

 とたんにレーダーやソナーの感度が上がりいろんな方向から音が聞こえてくる。

 その様子を見ている大型巡視船「やしま」沢本が変身している。

 船橋から四人の男女の保安官が身を乗り出した。朝倉、大浦、三島と教官の更科である。

 「補聴器を取ったらやばくない?」

 朝倉が心配する。

 「あの煙突の装置はアーランに造ってもらった制御装置だ。第五福竜丸の装置は増幅装置だが彼のは負荷もかけられて制御もできる」

 更科はデータを送信した。

 「すごいな」

 感心する沢本、朝倉、大浦、三島。

 アーランは深海の民だが人類よりも進んだ科学力を持っている。宇宙から地球に大昔にやってきたが宇宙船を建造できて恒星間移動できる技術力を保っている。

 三神のレーダーに不審船らしき物が映った。電波妨害を出しながら接近してくる。

 「不審船だ。東京湾に入られたらまずい」

 三神は動いた。その動きは更科達には見えなかった。気がついたら不審船はエンジンをえぐられ航行不能になっていた。でも甲板にあったのは人形だった。

 「ダミーかよ」

 三神がつぶやいた。

 更科はタブレットPCを操作した。

 三神の電子脳の脳裏にある映像が入ってくる。それは溺れている人だ。

 「助けなきゃ・・・」

 三神は動いた。エンジンの回転数が上がらずスピードが上がらない。

 「なんだこれ?重石かトラックが上に載っているみたいに重い・・・」

 とにかく重いトラックを担いでいるそんな感じで自転車の速度にまで落ちてやっとたどりついたらそれは人形だった。

 「ちくしょう・・・実際に人間だったら死んでいる」

 くやしがる三神。彼は船体から二対の鎖を出した。先端を鉤爪に変形させて煙突の制御装置をつかんだ。精神を集中して接続したが壁がいくつもあって侵入できない。

 「三神。その装置のコンピュータはアーランかオルビス、佐久間さんじゃないと無理だ」

 更科が注意する。

 「ハッキングは北の工作員や稲垣さん、自衛隊が得意としている」

 沢本が冷静に言う。

 「もう少しなんだよな。入れそうな気がするんだよ」

 三神は制御装置をつかみ力を入れる。でも簡単に外れなかった。それにコンピュータに侵入もできない。でもどこかに穴はある。

 三神は精神を装置に振り向ける。電子の信号をくぐりぬけ、壁の穴や隙間を抜けるがその奥の中心にあるホストコンピュータに入れなかった。

 ため息をつく三神。

 ふと電子脳の脳裏に何かがよぎった。どこの海上だろうか不審船を何隻も数珠つなぎに拿捕する映像や見知らぬ乗員達を縛り上げる映像だった。

 「・・・?」

 正気に戻る三神。

 いったいあれは何だったんだろう?

 「今日は訓練は終わりだ。レーダーヴィジョンを制御する事も覚えないとな」

 更科はタブレットPCを操作する。

 すると「こうや」の煙突に装着していた装置が外れた。

 沢本は二対の鎖を船体から出すとその装置を回収した。

 三神は補聴器を接続した。とたんにソナーやレーダーの感度がガクッと下がった。


同時刻。横浜赤レンガパーク

ベンチに座り貝原は海図に目印を書き込んでいた。

また信号が聞こえる。どこだろう?

貝原は耳を澄ませる。

「貝原さん」

翔太は声をかけた。

振り向く貝原。

「雑音が多くて君や椎野さん、稲垣さんの音が聞こえなかった」

貝原は地図に印をつけながら口を開く。

「近くでイベントやっているからね。君は調査チームに入っている。それに更科教官からも言われている」

翔太はお茶のペットボトルを渡す。

貝原は受け取るとお茶を飲む。

「また信号が聞こえるのね」

椎野が身を乗り出す。

うなづく貝原。

無線機を出してダイヤルを調整する稲垣。

「僕にはモスキート音や宇宙からの音も聞こえる。アーランから補聴器型の制御装置をもらった。でも外すと聞こえる」

貝原は補聴器をつけた。

「貝原さん正解かも。信号が海南島から聞こえる。いくつかの国や都市を経由しているけど暗号がきてる」

稲垣はヘッドホンを貝原に渡す。

真顔になる貝原。

「二種類ある。海保の指揮機能、拠点機能を持つ大型巡視船をバラバラにしろ。もう一つはどの言語にも属さなくて南シナ海から来ている」

貝原は困った顔で南シナ海のパラセル環礁を指さした。

「え?」

「東シナ海の掘削基地と韓国を経由して福岡市から発信されている。」

貝原は東シナ海や韓国からペンで線を引いて福岡に印をつける。

「三神さん達に聞いた方がいいしアニータやペクさんに言った方がいい。貝原さん説明をお願いできますか」

翔太は何か決心したように聞いた。

「え・・・その・・・」

目が泳ぐ貝原。

椎野は後ろから貝原に抱きつく。

ドキッとする貝原。

自分からなくなった体温や心音を感じる。皮膚センサーを介してそこにある。死んだ相棒の橘唯がそうだった。彼女は普通のミュータントだったがあの時は楽しかった。

「泣いているの?」

椎野が聞いた。

「いや泣いてない」

あわてて涙をぬぐう貝原。

「信号はまだ発信されている。米軍も気づいているだろうね」

少し考えながら稲垣は言った。


その頃、羽田空港。

羽生と田代は空港職員と一緒に手荷物カウンターにいた。目立たないように飾り屏風の裏からのぞいている。

ロビーにはエリックと和泉はタブレットPCで写真を出した。

羽生に近づく三人の男女。

「鮎沢さん、海老名さん、吹田さんもなんで?」

田代が聞いた。

「麻薬取締部と横浜税関、東京税関が何の用ですか?我々は捜査一課の手伝いで古書店店主殺害事件を追っている」

羽生は腰に手を当てる。

「古書店?」

海老名が聞いた。

「魔術書や魔術アイテム専門店を扱う古本屋が東京神田にあり、魔術書五冊と魔術アイテムが一つ盗まれた。店主の田宮は魔術師協会に協力する魔術師だったからエリックと和泉が一緒に来ている」

羽生は資料を見せた。

「犯人は逃げ回りながら羽田空港に来ているのが監視カメラにヒットした。取引相手が空港に来るから待ち合わせ場所に現われた。犯人は変装の達人ね。検問や職質も逃れた」

田代はある男の写真を見せた。

「こいつは私も追っている。新見昇。コピー能力を持つミュータントで運び屋。魔術アイテムも古代遺物も薬物も運ぶ」

鮎沢は写真を指さした。

「東京税関と横浜税関はM16とモサドからの情報で「無名祭祀書」が大英博物館から盗まれ日本に持ち込もうとしている女がいるというのを聞いてここに来た」

海老名は写真を出した。

「そうすると俺達は偶然にも同じ犯人を追っていた」

羽生が納得する。

資料で見たが無名祭祀書はいろんな民間伝承を集めた書物で中には魔物や時空の扉を出現させる魔術や呪術があるのだという。

「こちらエリック。荷物が流れてきた」

エリックは耳にかけている無線ごしに報告した。

ロビーから手荷物を受け取るベルトコンベアーに近づくスキンヘッドの男。

「あいつね。前はドレッドヘアーだけどまた別人をコピーしたみたい」

鮎沢が指摘する。

「すごいコピー能力だ」

感心する海老名、吹田。

「赤色のキャリーバックを取りに来れば正解だ。受取人はこいつだ」

女の写真を見せる羽生。

「女はブラジル人。ミル・スコッチ。日本に観光で来ている」

海老名が写真を見せた。

「そんだけわかれば。あとは捕まえるだけ」

羽生は目をこらした。

しばらくすると赤い服の浅黒い肌の女が近づいてきた。周囲には荷物を受け取りに来た観光客や家族連れ、空港職員がいる。

女は赤い旅行バックを取り、スキンヘッドの男は緑色のリュックを取ると女に近づいた。

「警視庁です」

「魔術師協会です」

羽生と田代は警察手帳を見せた。

エリック、和泉は資格証を見せた。

「なんでしょうか?」

スキンヘッドの男と赤い服の女は振り向く。

「新見昇だな。神田にある古書店店主殺害で逮捕する」

羽生は田宮の写真を出した。

「ミル・スコッチ。来てもらえますか?」

エリックは逮捕状を見せた。

「私は新見ではありません」

パスポートを見せるスキンヘッドの男。パスポートには浅見実と書いてあった。

「あらあら。でも同じ能力者はわかるのよ。新見昇。お酒おいしかった?」

鮎沢は笑みを浮かべた。

「おまえ、キャバ嬢じゃなくてマトリだったんだ」

ひどく驚く新見。そのせつな元のドレッドヘアーの髪型と丸顔に戻った。

「すげえ・・・ちがう」

驚きの声を上げる羽生と田代。

どうやら痩せていた時の写真だったようだ。

「東京税関です」

「横浜税関です」

海老名と吹田はミルに近づいてバックを取り上げた。

ミルは長剣を抜いた。

新見はリュックから壺を出して蓋を取った。

そこから六本足のクマや狼が飛び出した。

悲鳴を上げて逃げ出す観光客達。

警報が鳴り響いた。

新見とミルは弾かれたように逃げた。

「羽生さんと田代さん、鮎沢さんはあの二人を追って」

和泉は指示を出した。

「わかった」

羽生、田代、鮎沢は駆け出す。

新見とミルは出国カウンターを飛び出しエントランスに飛び込む。

新見は斧を出すと振り下ろす。

羽生はすんでの所でかわした。

新見は斧をなぎ払いする。

田代は短剣を抜いて何度も弾いた。

新見は振り上げた。せつな羽生のドロップキックを受けて地面に転がった。

田代は斧を蹴って腕をねじあげ手錠をかけた。

ミルは長剣を連続で突き入れた。

鮎沢は間隙を縫うようにかわすとその腕をつかみ上げ、足払いをかけて転ばせ、長剣を持っている手を蹴った。

長剣を落とすミル。

鮎沢はその腕をつかみ手錠をかけた。

「こちらエリック。魔物は片付けて壺も盗まれた魔術書も回収した」

無線ごしにエリックの声が聞こえ三人は顔を見合わせた。


一時間後。横浜防災基地会議室

「信号?どこから?」

沢本と三神は声をそろえる。

「南シナ海のパラセル環礁から出ている。その信号は海南島から発信されている。そしていくつか国を経由して偽装しているけど最終的に韓国を経由して福岡市で止まっている」

貝原はホワイトボードに地図を描いて印や線を描きながら説明する。

「東シナ海の基地は台湾に近いわね」

大浦は腕を組む。

「台湾政府に通告しないといけない」

三島がうなづく。

「福岡市に何が?」

翔太が指摘する。

「警視庁の羽生さん田代さんも呼ばないといけないよ。エリックさんや和泉さんも

稲垣は地図をのぞく。

「これだけ信号が出続ければ米軍だって気づいている。結局、見ているだけか」

三神は窓の外を見る。

ジョコンダだって気づいているだろうし、サラトガ達も気づいているだろう。それに大統領選挙も近い。暴言王の大富豪が大統領になればメキシコに万里の長城を建ててミュータント隔離政策をするだろう。元国務長官もメール問題や健康問題で揺れている。

「福岡市に行ってみる?」

それを言ったのは椎野である。

「俺達は福岡海上保安部に行く。翔太達は羽生さん達と福岡中央署だ。貝原。一緒に来てくれないか?」

三神は声を低めた。

「え?僕が」

驚く貝原。

「当たり前でしょ。あなたが言いだしっぺなのよ」

目を吊り上げる三島。

「何を逃げようとしているのよ」

大浦が詰め寄る。

「黙れよ」

しれっと言う貝原。

「何よ。また逃げるの?」

三島と大浦は声をそろえる。

「やめろ!!俺達はケンカに来たんじゃない。福岡に貝原を連れて出発だ」

沢本は一喝した。


 

同時刻。九十九里浜沖。

大型漁船に接近するヘリコプター。

「付近の漁船から漂流している漁船の通報が入ってそこに向かっているのね」

芥川は窓の外をのぞく。

「怪物兵が甲板にいるのを目撃しています」

高津が報告する。

「一〇〇〇トンの漁船で全長は七十メートル。乗員は怪物兵か。多くなりそうね」

朝比奈がつぶやく。

「魔物や怪物兵を入れたら横浜の時空の扉事件のようになるから阻止するの」

氷見はアサルトライフルの安全装置を外す。

ヘリがスピードを落として大型漁船の上空を通り過ぎる。

四人は飛び降り甲板に着地して芥川は斧に変形させた腕でそこにいた怪物兵を真っ二つに切り裂き、振り向いた怪物兵を袈裟懸けに斬りおとす。

扉をこじ開ける氷見。

甲板を通り抜け上甲板に着地する朝比奈。

テレポートする高津。

二人はアサルトライフルを連射しながら走った。

近づいてきた怪物兵や足が六本ある魔犬を打ち抜いて船倉に入った。

同じく船倉に入ってくる芥川と氷見。

そこには金属の箱が置いてある。デジタル時計がカウントしている。

「ワナだ。私の腕をつかんで。通り抜けるから」

朝比奈は高津の腕をつかむ。

芥川や氷見も手をつなぎ、数珠つなぎに駆け出す。いくつかの壁を通り抜け、船外に飛び出した。

ドドーン!!ドゴーン!!」

漁船が火柱がいくつも出て木端微塵に吹き飛んだ。


その頃。警視庁

魔物対策課に帰ってくる羽生、田代、エリック、和泉。

「手柄は捜査一課が持っていったな」

つまらなさそうに言う羽生。

「そこが捜査一課にいた頃とはちがうわね」

田代は人数分の珈琲を入れて近づく。

「帰ってきたんだ」

初老の刑事が顔を上げた。

「課長」

四人は振り向いた。

「埼玉にある新見の実家とアパートをガサ入れしたら福岡市の地図と博多港の図面が出てきたそうだ」

課長は資料を出した。

「すごいな。どこに灯台があってどの灯台が結界灯台で航路も載っている」

羽生、田代、エリック、和泉は驚く。

地図には防波堤や突堤、無人島の灯台からどの埠頭にどいうものを取り扱っているのかが詳細が記入され、巡視船の船名やどのミュータントがどの保安署にいるのかも書いてあるのだ。

「これは海上保安庁に言った方がいいわ」

和泉が嫌な顔をする。

「なんか俺も不安を感じる」

つぶやく羽生。

「それとミルのバックには違法薬物も隠し持っていた。ニトロドラックだ」

課長は写真を見せた。

「ニトロドラッグってマシンミュータント用の禁止薬物ですね」

あっと思い出す羽生と田代。

「覚せい剤や危険ドラックと同じだ」

課長の顔から笑みが消えた。

「配合を変えればゾンビや怪物兵にだってできる」

和泉は声を低める。

「ミルのバックから福岡行きの航空券が見つかった。福岡中央署に行ってくれ。沿岸警備隊チームは福岡保安署に行ったそうだ」

課長は人数分の航空券を出した。


三時間後。

三神と翔太は官舎の窓から身を乗り出す。窓から海が見えるがここは横浜ではない。福岡海上保安部の官舎にる。

自分達がいるのは第七管区海上保安部にいる。ここは九州北部地方の日本海、瀬戸内海、有明海ならびに山口県西部、福岡県、佐賀県、長崎県、大分県を管轄範囲とする、海上保安庁の管区海上保安本部の一つである。

本部は福岡県北九州市門司区西海岸にあり、下部組織として一〇の海上保安部、十二の海上保安署・分室、航空基地一カ所、海上交通

センター一カ所を有する。

管区には、国際海峡である対馬海峡や関門海峡があり、多くの船舶が行き交っている。

その周辺は玄界灘や豊後水道といった海の難所でもあり、多くの海難事案が発生する。

また、管区内には海上自衛隊及びアメリカ海軍の佐世保基地、長崎空港、新北九州空港、

大分空港といった海上空港、プルサーマル計画が実施される玄海原子力発電所と、警備が必要な施設が非常に多い。北九州工業地帯や大分臨海工業地域などの工業地帯における災害防除、博多港や下関港、北九州港、長崎港などの国際港があり、これらの港湾における警備や密輸阻止も大きな仕事である。

 「沢本隊長。韓国海洋警察と台湾海岸巡防署と海警船のミュータントが来ています」

 背の高い保安官は口を開いた。

 「秋山。沿岸警備隊チームが召集されているのか?」

 沢本が聞いた。

 「まだされていませんが、自発的に集まってきたようです」

 秋山が答えた。

 見ると李紫明、李鵜、烏来、ペクとキムが来ている。

 「中国海警局の一万二千トン型の海警船が就航した。番号は39~始まる。調査団チームと合同捜査で芥川が手に入れた資料にあった船が東シナ海に現われた」

 烏来がタブレットPCをTVモニターにつないだ。

 そこに「3901」「3902」「3903」という番号が船首に書いてある。煙突に幾何学模様の光る模様がある。

 「3901」はたぶんクイーンでないかと思う。波王の計画がうまくいっていないから別のクイーンを呼んだと思っている」

 ペクはスプラトリー環礁にいる「3901」を出した。

 「海警船は韓国のEEZにまで現われた。中国漁船軍団の警備だが韓国政府は漁船を撃っていいという許可を出している。撃ってもミュータントはやってくる」

 キムが腰に手を当てる。

 「そしてそいつらはこう言った。「しきしま」はどこだ?そいつのコアが食いたいって。海保の五隻の巡視船はどこにいるのか聞いてきた。コアがほしいと言っていた」

 李鵜は視線をそらした。

 「あいつらは俺達マシンミュータントを喰うからな。あいつらが捕食者で俺達はエサ」

 しゃらっと答える朝倉。

 「エサなんかになってたまるか」

 声を荒げるキムとペク。

 「さっそく狙ってきた感じね。「しきしま」と融合した芥川はまだ慣熟訓練が終了していない。暴走しやすいわ」

 大浦は腕を組んだ。

 「ここにいたんだ」

 部屋に入ってくる四人の男女。

 「羽生さん、エリックさん」

 翔太は声を上げた。

 「警視庁がなんでここに?」

 稲垣が聞いた。

 「俺達は羽田空港で盗まれた魔術書と封印された壺を盗んだ犯人を捕まえた。そこに取り引きに来たブラジル人女を捕まえたらニトロドラックが出てきて魔術書を盗んだ男の実家とアパートから福岡市と博多港の図面が出てきたんだ」

 福岡市と博多港の図面と犯人の顔写真を出す羽生。

 「魔術書?」

 椎野と翔太が身を乗り出す、

 「無名司祀署よ。民間伝承を集めた物だけど危険な魔物や眷属を呼んだり呪い殺したりできる書物」

 和泉は説明した。

 「これが魔物が封印されていた壺。大英博物館から盗まれたもの。M16やモサドから情報が横浜税関と東京税関に来た。羽田空港で合流したらマトリの鮎沢さんまで来た。この新見という男は東京の神田の古書店で田宮という店主を殺して魔術書を奪ってご自慢のコピー能力で逃亡。空港でミルという女の運び屋と接触したところを捕まえた」

 田代はホワイトボードに相関図を書いた。

 翔太はじっと見つめる。

 最初は殺人事件だと思ったら薬物事件と魔物を入れてしまう事件に発展。そして日本の外では新型海警船が現われた。たぶんこれは何者かがかく乱しているのだろう。なせそう思ったのかわからないが敵は日本でまた事件を起こそうとしている。芥川が狙いではないようだ。でも誰を?

 「博多港には長島さんと夜庭さんがいる。何かあれば連絡が来ると思うけど」

 椎野が口を開く。

 「今の所は異常はないです」

 秋山がわりこむ。

 「福岡中央署によると過去の薬物事件の工場がこの空き店舗であったようです」

 羽生は福岡市街の事務所を指さした。

 「こんな街中で工場が?」

 声をそろえる三神と朝倉。

 「驚きだけど東京でもそうだったじゃないの。歌舞伎町の事務所は探偵事務所になったり街金だったりアパートだと思ったら詐欺グループとスパイの隠れ家だった」

 田代がため息をつく。

 「街中なら隠れやすいと言えるわね」

 和泉と三島がうなづく。

 「俺はこの工場に行ってみたい。博多港と何か関連があればいいけどなければ帰ってくるだけだ」

 三神は地図を指さす。せつな電子脳の脳裏に東京湾の海図がわりこむ。

 「どうしたの?」

 椎野がわりこむ。

 「なんでもない」

 正気に戻る三神。

 「俺も行く」

 朝倉が名乗り出る。

 「僕も」

 翔太がわりこむ。

 「では行こう」

 羽生は言った。


 博多漁港。

 博多漁港に入港してくる漁船。その漁船は桟橋に停船して漁師が出てくる。

 双眼鏡をのぞく男。男がのぞく方向には香唯パークや福岡アイランドシティ、貨物埠頭が見え、その中には海保の保安署も見える。

 「鷺沼は失敗だな。残念だな雪風、根本」

 男はつぶやく。

 「笹岡。だいぶあの頃とはちがうぞ。特命チームが結成され、沿岸警備隊チーム、調査団チームが結成されて邪魔が多い」

 雪風は口を開いた。

 「あの時はな。五、六年ぶりだ。あの時も海上保安庁やTフォース、自衛隊、警視庁の邪魔が多かったじゃないか」

 笹岡は笑みを浮かべる。

 「誰からやる?チームで一番弱いのは未成年者三人と警視庁の二人の刑事だが問題が多い。魔術師協会の二人も一筋縄ではいかない。「しきしま」と融合した保安官はカメレオンがやるらしいぞ」

 根本は聞いた。

 「俺は三神裕介と貝原昌憲の息子を始末しようとしている。俺の父は第五福竜丸に邪魔されたんだ。おまえ達もあの時は乗り気で協力してくれた。今度はしないのか?腰抜けか」

 笹岡は見下すように聞いた。

 「危うく我々も捕まりそうになった。Tフォースや海上保安庁もバカではない。場所も東京湾のど真ん中で横浜だった。やるなら下田とかさびれた漁港を狙うと思っていた」

 根本は目を吊り上げた。

 「我々を巻き込むのか?」

 声を低める雪風。

 「指紋なら福岡市街に置いてきた」

 しゃらっと言う笹岡。

 「勝手な事を。あの時も勝手に巻き込んだ」

 雪風は目を吊り上げる。

 「俺は刑務所から脱獄して片目を失った。刑務所にぶち込まれた原因はあの二人の息子のせいなんだ。バラバラにして廃船置場に売り飛ばしたい」

 顔を朱に染めて眼帯を取る笹岡。

 「俺達を勝手に巻き込んだくせにお礼参りか。勝手だな。お手並み拝見と行こう」

 雪風は怒りを抑えながら言った。




 福岡市内の空き店舗に入る羽生達。

 「この五階建てビル丸ごと空き店舗なんですね」

 翔太は部屋に入るなり死者の羅針盤を出す。

 なんの変哲もないビルである。どういうわけか借主は暴力団関係者だったり街金だったりといういわくつき物件である。

 「管理が行き届いているとはいえないな」

 羽生は天井のクモの巣や床の散らかったゴミを見下ろした。

 「誰かがいてもおかしくないな」

 三神がこわれている机を起こした。

 港では放置された船が不法漁民やテロリストの隠れ家になったりする。

 「盗まれた物はないわね」

 和泉は本棚を見る。本棚は空っぽだ。

 二階や三階、四階も同じだった。

 五階で死者の羅針盤が灰皿に針が反応した。

 「これは誰かがだいぶ前にいた形跡があるわね」

 田代はタバコの吸殻をピンセットで取ってビニールに入れた。

 「これは紅色の綿毛だ」

 翔太はゴミ箱を指さした。

 ゴミ箱に綿毛がどっさり入っていた。

 「この間の福岡の事件の影響かしらね。博多港にあった物は片付けたけど市街に舞った物もあったのね」

 和泉は窓の外を見る。

 黙ったままの三神。

 調査団チームとして貝原を連れて福岡に行ったら金流芯達が死体と一緒に捕まえたオルビスと同じような仲間を入れようとした事件で自分は無我夢中で韋駄天走りをやって時空の歪みを引き起こした。あの原因は自分だしまだ制御もできていない。

 「これは回収ね」

 和泉はゴミ箱に蓋をしてガムテープで縛る。

 「これは鑑識か」

 羽生はビニールに灰皿を入れた。

 「戻ろうか」

 羽生は言った。

 空き店舗から出る羽生達。

 二台の覆面パトカーに乗り込んで商店街から出た。場所は博多駅や住吉神社が近い場所である。

 二台の覆面パトカーは大通りに入った。

 翔太の脳裏に仮面をかぶった男が待ち伏せしているという映像だ。

 しかし大通りには多くの観光客や家族連れ、サラリーマンや宅配業者が行き交っている。

 「どうしたの?」

 和泉が気づいた。

 「変な仮面の男がどこかにいる。でも雑音が多すぎてわからない」

 翔太は周囲を見回した。

 運転しているエリックは無線で報告した。

 二台目に羽生と田代、三神、朝倉が乗っている。

 三神は身を乗り出した。

 殺意か何かだろうか?自分も視線を感じる。

 三神は補聴器を取った。とたんいいろんな雑音が入ってくる。ここは海とちがう陸上である。いろんな電波が飛び交い話し声が聞こえて耳を思わずふさいだ。

 朝倉は彼が落とした補聴器を拾って彼の耳につけた。

 荒い息の三神。

 「街中で外すなよ」

 しれっと言う朝倉。

 「ごめん。いつものクセで取った」

 あやまる三神。

 その時である車の天井を金属の拳が突き破ったのは。

 「わあっ!!」

 羽生達は思わず声を上げた。

 天井をめくり上げ仮面の男がのぞいた。

 三神と朝倉は片腕を機関砲に変えて連射。

 男はジャンプして飛び退いて翔太が乗っている車に飛び乗った。

 仮面の男はショットガンを発射。

 ジグザグに走ってかわす羽生の車。

 どこからともなくバイクが一〇台やってきてライダーは軽機関銃を連射。

 「ファイアーウオール」

 和泉は身を乗り出し呪文を唱えた。本来は炎の弾を発射するがアレンジして同心円状に炎の波が広がり一〇台やってきたバイクは衝撃で倒れ、火の玉がライダーを吹き飛ばした。

 悲鳴を上げて逃げ出す人々。

 車から降りてくる羽生達。

 羽生と田代は拳銃を抜いた。

 翔太は時空武器を弓に変えた。

 エリックと和泉は長剣を抜いた。

 数台のジープから降りて切りかかる覆面の男達。

 朝倉と三神は機関砲で正確に飛びかかってきた五人の男を撃ち落とす。

 エリックや和泉は長剣で男の鉈や斧を受け流し弾くと胸を刺した。

 翔太は弓を射る。四本に分裂した光る矢は駆け寄ってきた四人の覆面の男の頭に刺さる。

 路地から走ってくる三人の男を撃つ田代と羽生。

 バイクの音がした。

 三神はそこに乗り捨ててある自転車を投げた。とたんに走ってきたバイクに命中。スピンしながらライダーは地面に転がる。らいだーは跳ね起きた。さっきの仮面の男だ。

 仮面の男は長剣を抜いた。その長剣には返しがついた刃がいくつもついている。

 三神は片腕を長剣に変えて男が振り下ろした剣を何度も弾く。朝倉の短剣の突きをかわす仮面の男。

 仮面の男は朝倉の短剣のなぎ払いをかわし、三神の鋭い蹴りを受け払う。男は長剣で速射突きを繰り出す。

 三神と朝倉は間隙を縫うようにかわす。

 男はジープに飛び退き機関砲を連射。

 三神が動いた。その動きは建物に避難している人々にも羽生達にも見えなかった。そのジープの周囲を駆け抜け帰還砲弾をかわし、飛び蹴りして地面に着地した。

 男は地面に落ちたが跳ね起きた。ポケットから種を撒いた。種はすぐに歩く草に成長にして朝倉の足や羽生達の足に巻きついた。

 三神はそれを蹴り飛ばし車の屋根に飛び移った。

 男は舌打ちするとジャンプ。長剣を振り下ろす。

 三神は身をかわすと足払い。男は飛び退いて長剣を振り下ろす。

 三神は屋根からボンネットに飛び退き、男を蹴り上げた。

 男は地面に落ちた。

 三神は跳ね起きて男に近づいた。

 男の仮面が落ちている。

 その顔にはどこかで見覚えがある。どこだっけ?

 三神の電子脳にフラッシュバックでどこかの港で襲ってきた魔物や襲撃してきた男がフッと浮かぶ。そいつがこいつだろうか?

 「三神!!」

 朝倉が叫んだ。

 三神は正気に戻って男の剣をかわした。せつな、わき腹に鋭い痛みが走る。見ると二十センチの刺し傷がある。

 朝倉は短剣を突き出した。

 男はその剣をなぎ払うと朝倉を蹴っ飛ばす。

 翔太は弓を射る。光る矢は確実に男に向かって飛ぶ。

 男はその矢をつかんで捨てた。

 男は三神の首をつかんで剣を胸に突き刺す。

 「ぐはっ!!」

 三神はくぐくもった声を上げて身をよじりのけぞり男の腕をつかむ。焼きゴテで心臓を押し付けられるような痛みが電子脳を襲う。

 男は剣を引き抜く。

 「三神崇だろ。三神裕介の息子。巡視船「こうや」ひさしぶりだね」

 男は三神を離した。

 「おまえは・・・刑務所のはず・・・」

 三神は胸を押さえよろけ片膝をついた。胸の傷からケーブルや部品が飛び出ている。そしてそこから出てくるのは血ではなく緑色の潤滑油と機械油だ。耳障りな金属の軋み音が聞こえてくる。

 男は飛びかかり馬乗りになるとコアを循環する主要パイプをつかみ、力を入れた。

 「ぐあああぁぁ!!」

 のけぞり目を剥いて叫ぶ三神。

 電子脳に巡視船と体内の状態が表示される。それと同時にナイフでえぐられる痛みと心臓をつかまれているような痛みと息苦しさに暴れる三神。

 「巡視船「こうや」どうだ?おまえの正体は巡視船だ。機械なんだ。マシンなんだよ。戻りたいだろ。元のミュータントに」

 男はささやいた。

 「おまえだけがあの家族の中でマシンミュータントだ。哀れな船。巡視船「こうや」苦しいだろ」

 男はそれ以上言えなかった。朝倉に蹴り飛ばされたからである。

 男は跳ね起きた。

 「おいおまえ。ここは囲まれているぞ」

 鋭い声が聞こえて振り向く男。

 「間村さん」

 翔太は目を輝かせた。

 間村だけじゃなく佐久間や沢本達もいる。

 「デジョン」

 男は呪府を投げた。力ある言葉とともに消えていく。

 「三神さん!!」

 駆け寄る翔太。

 「三神」

 沢本達が駆け寄る。

 三神の胸やわき腹に刺し傷があり、そこから金属骨格の胸部プレートが見え、部品やケーブルが見えている。

 「ひどい傷。佐世保海軍病院に運ぶわよ」

 佐久間はぐったりしている三神を見て指示を出した。


 ここはどこだろう?

 三神は漁港を歩いていた。

 漁港の近くには実家がある。実家に入ると乳ともう一人誰かいる。

 自分はそれを兄と妹と一緒にドアのすき間ごしに見ている。

 「貝原。この電波は南から来ている。これを操る敵は危険だ。特にこいつは魔人に変身できる人間だ」

 父親の裕介は指の背であごをなでる。

 「野放しはまずいだろう。そいつは米軍に時空の揺らぎの実験をさせているしそれを中国軍に売っている」

 貝原は首を振る。

 「やり方は街を魔物を使って灯台結界を停止させて襲撃する。そして人間やミュータントを捕食する。異世界の人間に違いない。時空の亀裂を閉じないといけない」

 裕介は困った顔をする。

 「こいつは雪風や根本と一緒にいる。第五福竜丸を夢の島に捨てたのは産廃業者だがいろんな連中を使っている。展示館に行ったがスタッフと葛城茂元長官に追い出された。福竜丸は記憶を完全に失っている。私達で行くしかない」

 貝原は言う。

 「そうだな。私は信頼できる部下を連れて行く」

 何か決心する裕介。

 貝原は子供達に気づいた。

 逃げていく三人。

 「行くぞ」

 裕介はうなづいた。


 唐突に場面が変わった。

 誰かが鉤爪で船体を引っかき、触手を巻きつけた。自分は巡視船に変身している。

 タコともイカとも思えない怪物は背中にコウモリのような翼を生やし、口からは炎を魚眼から光線を発射する敵は口を開いた。

 「巡視船「こうや」元のミュータントに戻りたいだろう。あの家族の中で一人だけだマシンミュータントだ。おまえは機械なんだ」

 「俺はミュータントだ」

 すると場面が変わった。

 その保安官は敵の内通者だ。色仕掛けで惑わしてコンピュータウイルスを海上センターに仕掛けた。別の保安官は敵のスパイだ。相棒と一緒によくそいつともカラオケに行った。誰かが止めないといけない」

 「そいつが言った。南の海で融合した乗り物を切り離す薬を開発している。元のミュータントに戻りたいだろ。俺達と組まないか?」

 「断る!!おまえを刑務所にぶち込む」

 三神はビシッと指をさした。せつなその保管官は長剣で突き刺した。

 でもコアを刺されただけでは自分は死ななかった。傷口からはケーブルや配管が飛び出る。それは血管が伸縮するように動き、小さなポンプが見え、部品が飛び出ている。

 愕然する三神。

 ケーブルや配管は脈動し、軋み音を立てて傷口から金属の芽が伸びてふさがっていく。

 唐突に頭に強い衝撃を受けなにがなんだかわからなくなった。


 ベットから飛び起きる三神。

 「ここは?」

 「佐世保海軍病院よ。福岡市で暗殺者が襲ってきてあなたは刺されて重症だった」

 佐久間は答えた。

 三神は医療用チョッキに気づいた。背中から後ろの壁からケーブルが伸びている。

 俺はもうミュータントではないのか・・・

 「気がついたんだ」

 翔太、椎野、稲垣が入ってくる。

 沢本達もいる。

 重本も元のミュータントに戻ったのかTフォースの作業着を着ている。

 「羽生さん達は?」

 三神が気づいた。

 「福岡中央署。襲撃事件を捜査している」

 間村は答えた。

 「おまえずっと俺は機械じゃない。ミュータントだとか、そんな分離できる薬は飲まないとか誰かがやらないといけないとか二日間うなされていた」

 心配する朝倉。

 「俺達は機械ではない。ミュータントだ。体の構造がちがうだけだ。融合の苦痛の悪夢は俺も誰も忘れられない。悩んでいるのは俺達も同じだ」

 沢本はさとすように言う。

 深くうなづく三神。

 「オルビスやリンガムも連れて来ているし芥川も佐世保基地にいる。不審船や海警船の警戒でね」

 佐久間は笑みを浮かべる。

 「あいつ、俺をずっと前から知っているみたいだった。子供の頃、親父と貝原の父が何を調べていたのか盗み聞きしていた。南シナ海での分離薬や異世界から来た奴を探していた。だから俺はそいつと五年前か六年前に駆け出しのマシンミュータントとして任務についている時に戦った記憶がある。俺はそいつの心臓をえぐって角を部屋に飾る」

 三神は目を吊り上げた。

 「誰の心臓をえぐりに行くんだよ?」

 間村が単刀直入に言う。

 「え?」

 「名前は?」

 「うんと・・・」

 「六年前はどこの保安署だ?」

 「横浜防災基地」

 「それは正解だ」

 間村が答える。

 「俺は駆け出しのマシンミュータントでなりたてのヒヨコだった」

 三神はどこか遠い目をする。

 「俺も一緒に横浜防災基地に配属になった。ある事件が起きて貝原が相棒のミュータントと一緒に来たんだ」

 朝倉がおぼろげながら思い出す。

 「僕が引きこもりになる前は潜水士の相棒がいた。橘唯の事件の犯人ではと思って来た。それは一部ビンゴだった」

 貝原は重い口を開いた。

 「そうそうあの事件はひどかった。魔物を入れてしまうテロリストがいてそいつも魔人に変身する奴だった」

 ポン!と手をたたく長島。

 「僕も遊びに来たら巻き込まれた」

 夜庭はあっと思い出す。

 「あれは三神と朝倉が配属されたばかりの頃だから六年前か」

 沢本がつぶやく。

 「俺はあいつを探し出す・・・」

 三神は最後まで言えながった。ベットを立ち上がったら鋭い痛みが走ったからである。

 鋭い痛みに身をよじり胸を押さえた。

 「その傷では無理だな。今は休めと言っている」

 沢本は身を乗り出す。

 「六年前のあの事件でも同じ事を言われた」

 あっと思い出す三神。

 「俺は前も同じことを言ったがおまえは勝手に行動した。人の指示を聞かず、一度自分が言い出した事は曲げない。そのくせ必要以上にボロボロになって周囲に迷惑をかける。一人で大丈夫だと言うが子供と一緒だ」

 はっきり指摘する沢本。

 「俺も同感だな。大丈夫と言ってボロボロになって死んだ奴はいっぱいいる」

 間村は腕を組んだ。

 「そんなに焦らなくても君はよくやっているよ。焦ってもしかたないよ。知らない船がいたら教えるし連絡するよ」

 夜庭は笑みを浮かべる。

 黙ってしまう三神。

 自分では納得していない。それに人の指示は聞いているし、妥協はしている。納得できない事はとことんやらないと気がすまない。自分の父親がとことん邁進するタイプだったからその傷跡だらけの背中を見ている。子供の頃、父は自慢げに体中にある傷跡を語っていた。自分は大きな傷を負っても治りが早く翌日には塞がったという。だが常に最前線で戦っていたため生傷が絶えなかった。子供心に誇りに思っていた。

 「だけど俺はコアと心臓をえぐって部屋にその首とアンテナを飾ってやる」

 ベットから立つ三神。

 なんでかわからない。自分の知らない記憶がある。なんでだろう?でもすぐに消える。

 「誰のコアをえぐる?ニコラスやカプリカか?飛鳥Ⅱか?サラトガか?」

 間村は声を荒げた。

 「ちがう連中。六年前と五年前と四年前の記憶がだいぶ飛んでいる所があって、日時がわかっていて普通に任務についているハズなのにちがう。別の任務をやっていた気がする」

 部屋の中を頭を抱えて歩き回る三神。

 「なんか僕のクセがうつったのかな」

 困った顔をする重本。

 「わかった。高次脳機能障害だ」

 朝倉が思いついた。

 「大きな事件に首を突っ込んで重症か瀕死の重傷はよくあるからな」

 困惑する沢本。

 「そんなに大きなケガってあるの?」

 翔太が聞いた。

 「六年前はすごい無鉄砲で無理、無茶、無謀の四拍子だったの。魔人や邪神の眷属、高レベルの魔術を操るテロリストに戦いを挑んでやられたり、事故や災害現場に無理な救助やテロリストを倒しに行って片腕や片足を失う事がしょっちゅうだったのよ」

 大浦はため息をついた。

 「五年前と四年前の事件で何度も両足を失う戦いをやって倒れたり、両足や片腕を失っているのに戦いを挑んで邪神の眷属を倒したはいいけど昏睡状態になっていた時期があった。今ではマシになったし、話を聞くようになり、妥協する所は妥協するようになった」

 三島が視線をそらした。

 「そんなにヤンチャな性格だったんだ」

 驚きの声を上げる椎野と稲垣、翔太。

 「六年前よりだいぶ成長したと言える」

 間村は歩き回る三神を見ながら言う。

 「記憶喪失だったけど一部が蘇ったのかもしれないでも三年前のカルテや症状を見て高次脳機能障害も入っている」

 佐久間が推察する。

 「佐久間さんは二〇一〇年はどこに?」

 翔太はたずねた。

 「私は「あしがら」と融合して横須賀基地にいたの」

 佐久間は答えた。

 「僕は小学生だったから実家の伊豆にいた。その頃、時空武器は父さんが持っていた」

 翔太は思い出しながら言う。

 実家は和菓子屋で宮内庁御用達の和菓子を献上している。姉と一緒にいた。

 「事件は終わっていない。事件は僕が五〇年前に夢の島に捨てられてからずっと続いている。その事件に三神や貝原を巻き込んだ。今度は僕がやらなければいけないんだ」

 重本は何か決心したように言う。

 「僕は日誌を会社から借りてくる。住吉丸、小林丸、福寿丸にも聞いてくる」

 あっと思い出す長島と夜庭。

 「貝原、朝倉。横浜保安署へ帰って六年前と五年前、四年前の資料をもって来るんだ」

 沢本は指示を出す。

 「え?貝原と?」

 嫌そうな朝倉。

 「六年前、五年前は一緒に一時的にチームを組んだだろう」

 肩をたたく沢本。

 「もう一度・・・チーム組んでくれますか」

 もじもじしながら聞く貝原。

 「わかった」

 朝倉はしぶしぶ手を差し出す。

 朝倉と貝原は握手をする。

 「僕にも資料を見せて」

 重本がわりこむ。

 「いいよ」

 貝原はうなづく。

 貝原、朝倉、重本は出て行く。

 「俺は横須賀基地に戻って記録を調べる」

 間村はうなづくと佐久間と一緒に出て行く。

 「翔太達は秋山と一緒にいろ。三神は芥川やオルビスを見張りにつかせる」

 沢本は翔太の肩をたたく。

 翔太、椎野、稲垣は深くうなづいた。

 

 その夜。佐世保海軍病院。

 三神は医療用チョッキから伸びるプラグやケーブルを外した。パジャマのまま部屋を出ると廊下には誰もいない。

 彼は補聴器を外した。しかし圏外になっていた。レーダーが使えない。たぶん病院だからかもしれない。

 「こんな所にじっとしていられるか」

 三神はつぶやくと非常口から出た。

 「どこに行くの?」

 不意に声をかけられて振り向く三神。

 物陰から出てくる陽炎が二つ。陽炎が解けて正体があらわになる。オルビスと芥川だ。

 「君は胸の傷とコアの損傷が治っていない。君はあの時からマシになったと思っている」

 オルビスは口を開いた。

 「本当にうるさい奴ら。おまえに何がわかる?家族の中で魔術が使えないというコンプレックスがわかるか?」

 吐き捨てるように言う三神。

 六年前から思っている本音である。自分だけが魔術が使えないのだ。父は気合と根性でなんとか使えるようになった。その上で最前線に出て先頭に立ち戦い、殿をつとめる父にあこがれていた。

 「それは六年前や五年前、四年前にも言ったね。人間やミュータントが突然感情を爆発させるのか理解できる。僕達は魔術は使えないからわかる。使えないならそれなりに戦術を変える。そうやってやってきた。僕達と君は共通点がある」

 オルビスは目を吊り上げる。

 「ここには私だけでなく高津達も潜んでいる。あなたは必要な人材だ。私は魔術は使えない。だからチームメンバーはいる」

手を差し出す芥川。

フン!!と鼻を鳴らして病室に三神は帰って行った。



翌日。佐世保基地格納庫。

三神の腕を引っ張りながら格納庫に入ってくるオルビスと芥川。

格納庫には横浜防災基地でいつもチームを組んでいる沢本だけでなく調査団チームの面々だけでなく間村達や海保のSST隊員まで顔をそろえている。

「三神保安官。私や父が君を巻き込んだようだ。記憶が一部ないのはそのせいかもしれない」 

翔太の父の博は口を開いた。

「ワシは六年前までは長官をやっていた。事件は五十年前の福竜丸が夢の島に捨てられる以前から続いている。それを追っていた福竜丸は捨てられ、君の父が片足を失う事件と貝原の父が行方不明になり貝原の相棒である橘唯保安官や彼女の後に組んだ五人の相棒が死んだきっかけはベルウッドや雪風、根本に原因がある。そしてジョコンダ議員の前任者がからんでいる」

翔太の祖父の勝は禿げ頭をかいた。

黙ったままの三神。

「本来は私達で片付けなければいけない問題だ。巻き込んで申し訳ない」

勝は頭を下げた。

「じゃあ襲ってきた奴は誰だ?」

三神は声を低めた。

「笹岡正伸。二十五世紀から来た時空侵略者だ。精霊の契約なしに魔人になれるがそれ以外はわかっていない。君の記憶が頼りで、そこから事件のヒモは解けるかもしれない」

博は困った顔をする。

「だから資料課行って資料を借りてきた」

貝原と朝倉が自慢げに言う。

「僕に関連する資料もあったから助かったし、氷川丸の思い出も記録してきた」

録音機を出す重本。

「横須賀基地の資料も借りた。サラトガに無理言ってあいつらからも資料を取ってきた」

間村は指をさした。

机や台にはファイルが山積みになっている。

「日誌や記録を持ってきた」

長島と夜庭が顔を見合わせる。

三神はオルビスに促されてしぶしぶ資料に近づいた。

「羽生さんやエリックさんにも協力して警視庁や魔術師協会の捜査資料を借りた」

佐久間は口をはさむ。

「羽生さんやエリックさんが福岡県警と合同で福岡市内の怪しい場所を捜索しているし、博多港や周辺海域は秋山やペク、李鵜達が警備しているし、横浜税関や東京税関の海老名さんや吹田さんマトリの鮎沢さん、入国管理局の足柄さんも目を光らせている」

翔太は訴えるように言う。

黙ったままの三神。

「あなたが魔術を使えないのは知っているし、コンプレックスに持っている。父親に振り向いてほしくてがむしゃらに努力してきた。あなたは成人期ADHDと境界型バーソナリティ障害がある」

平賀博士はカルテを見せた。

三神はカルテを読んだ。

「あなたに虐待はなかったが厳しいハンター訓練や魔術師の訓練で常に追い詰められていた。幼少期はハンター養成所の寮生活で母親とは縁が薄い。家族は低レベルか高レベルの魔術が使えた。使えないコンプレックスであなたの頭の中はいっぱいで劣等感を常に持っていた。今のあなたには周囲のサポートが必要よ」

平賀はさとすように言い聞かせる。

「そんな事わかってた。三年前の自分はあきらかに異常で自分をセーブできなかった」

おもろげながら思い出す三神。

「そいつの行動パターンや攻撃を知っているのは君だけだ。そしてそいつだけでなく君はいくつかの時空侵略者に遭遇していると思われるし、君の喪失した記憶が必要でね。まず思い出してみないか。そこから後は考えればいい」

博はイスを指さした。

三神は不満げな顔で座り資料を読んだ。

「・・・・俺達が沢本隊長や大浦、三島と組むきっかけや数々の事件がこんなにあったんだな。二〇一〇年に俺達は配属か」

なつかしげな顔でつぶやく三神。

今思うとこんなにあったんだ。出会うきっかけも書いてあった。

「ねえ、聞かせてよ」

翔太、椎野、稲垣は身を乗り出す。

「あの時は本当に駆け出しだったな」

朝倉が目を輝かせる。

三神はどこか遠い目をしながら口を開いた。

「話が長くなるけどいいか。あれは六年前で俺と朝倉が駆け出しで横浜に配属になった頃だ・・・」

 

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