第5話 信号 つづき
芥川が船内に入った。
「しきしま」の船体全体が青白い光に包まれ、太い光線が空高く放出された。
沢本達は融合の光が作り出すバリアに包まれた。
「俺達は芥川の作り出すバリアの中にいるんだな」
朝倉が周囲を見回す。
バリアの中で芥川のそばに近づいてくる女性の海上保安官。
「すごい目つき悪い」
大浦と三島が不快な顔をする。
「気が強そうな女だな。俺は付き合うのはパスだな」
しれっと言う朝倉。
「あれはあの船の船魂ね。敵意むきだしよ」
佐久間が注意する。
「時おり聞こえる声は船魂か」
つぶやく三神。
「それは俺も言える。自分にはない記憶は融合した船の記憶だ」
沢本が納得する。
「すごいな」
感心するSST隊員達。
「巡視船「しきしま」ね。納得していないけど私も納得していない」
はっきり言う芥川。
女性保安官と芥川は同時に動いた。速射パンチを芥川はかわし、彼女蹴りを保安官は受け払った。
保安官の回し蹴り。
芥川は受身を取り、彼女のパンチをつかみ背負い投げ。
保安官は体勢を立て直し着地して足払い。
芥川は飛び退き、片腕を長剣に変えてなぎ払う。
保安官はかわすと鋭い蹴りを入れた。
芥川はひっくり返った。
保安官は芥川の首をつかみ上げ、鬼のような形相で片腕を剣に変えて芥川の胸に突き刺し、背中から刃が出た。
「ぐはっ!!」
芥川はその腕をつかみのけぞった。ナイフでえぐられる鋭い痛みに顔が歪む。
目を吊り上げ保安官は何回も突き刺し、その腕を元に戻すと素手で傷口に手を入れて芥川のコアをつかみ力を入れた。
「ぐうぅ・・・!」
芥川はのけぞりもがき身をよじった。
「がんばれ!芥川!!」
思わず叫ぶ沢本と三神。
そうだ私には仲間がいる。サポートしてくれる人達がいる。
芥川はくわっと目を開いて保安官の胸に鉤爪を突き入れコアをつかむ。
保安官も口からエンジンオイルを噴き出す。
「巡視船「しきしま」力を借りる事になる。付き合いは長くなるわ」
芥川はにらみながら叫んだ。
鬼のような形相でにらむ保安官。
二人はしばらくにらんでいたが保安官はうなづいた。
バキバキ!!メギメギギギ!!
光線と「しきしま」を包む光がやみ、船体が歪み、よれて一〇対の太い金属の触手が飛び出した。
苦しげな呼吸音が煙突から聞こえ、金属が軋み音が響いた。
ヴォオオーン!!
獣のような威嚇音を上げ、「しきしま」の船橋の窓に二つの光が輝いた。船体を激しく揺らし一〇対の鉤爪で船体を引っかいた。
オーボエのようなが咆哮で「しきしま」は吼えた。
船首を横浜港の出入口に向け離岸する「しきしま」
「どこにいくんだ?」
朝倉が疑問をぶつける。
「沢本隊長。たぶん制御できてない」
三神が気づいた。
「早く止めないとあの四隻もやってくるわ」
大浦が周囲を見回す。
横浜港を南下すれば横須賀基地である。
「貝原さんを呼んで。彼の音波で耳ツンにしてリンガム、オルビスが接続して彼女に話しかける。そうしないと制御できてないし、「しきしま」の方が強いと思う」
ひらめく翔太。
「俺が連れてくる」
三神が動いた。その動きは建物に退避している人々や保安官達にも見えなかった。
沢本、三浦、三島、朝倉、は飛び込み、それぞれ融合している船に変身した。
佐久間は鎖を伸ばして翔太を艦橋に乗せる。
オルビスとリンガム、高津、氷見、朝比奈は甲板に飛び乗る。
「芥川!!止まれ」
「しきしま」に追いつく五隻。
「制御できてないぞ」
朝倉は接近した。
ヘリ格納庫にある四〇ミリ機関砲が火を噴いた。朝倉はジグザグに航行してかわす。
沢本は四対の鎖を「しきしま」の船体に巻きつけ引っ張った。
「しきしま」がスピードを落として四対の鉤爪で「やしま」の鎖を振りほどいて船体ごと五隻に向けた。
二対の錨が青白く輝き鋭くなる。
「どうやら俺達を敵として認識していて暴走しているとか?」
朝倉が身構えた。
「そうみたいね」
三島と大浦を呪文を詠唱する。
「大浦、三島。魔術を使ったらダメだ」
注意するオルビス。
「しきしま」が動いた。二対の錨で速射突きを繰り出し、沢本は二対の錨と四対の鎖でそれを弾いた。
大浦と三島は機関砲を連射。四〇ミリ機関砲を撃ち抜いた。黒煙を上げたが破壊されても鉄の芽が伸びて復元した。
「沢本隊長。貝原を連れてきた」
追いつく三神。彼は鎖で巻きつけた貝原を「こうや」の船橋から出した。
貝原は緑色の蛍光に包まれて「いなさ」に変身した。
「本当に無理矢理だな」
怒りをぶつける貝原。
「文句は後。耳キーンにすればいいの」
氷見は「やしま」の船橋から身を乗り出し声を荒げる。
「よくわからないけど鼓膜を破ればいいんだろ!!やってやる」
貝原は船橋構造物から八つの拡声器を出す。
二〇ミリ機関砲と四〇ミリ機関砲から青い光線がなぎ払うように放出される。
ジグザグにエンジン全開で航行して光線をかわす七隻。
オルビスとリンガムは船橋から身を乗り出し片腕の砲身から青い光線を連射する。「しきしま」の煙突を連続で撃ち、沢本は四〇ミリ機関砲でエンジンを撃った。
「ぐあっ!!」
のけぞる「しきしま」
三神が動いた。その動きに「しきしま」は見えなかった。気かつくと船体に大きな傷口がいくつも開けていた。
八対の鉤爪で船体と煙突を押さえる「しきしま」
貝原はその懐に飛び込んだ。
溜めていたパワーが音の衝撃波となって同心円状に広がり「しきしま」の機器がショートして火花が散った。
沢本は四対の鎖で船体に巻きつけリンガムとオルビスは船橋に入ると操縦室にある機器にケーブルを接続した。
翔太はオルビスに抱えられて船橋内部に乗り込んだ。
翔太は時空武器を杖に変えて機器に差し込んで目をつむり精神を集中した。
芥川の意識は青い闇に包まれていた。
そこにある鏡で髪を結っていると鋭い目つきの女性保安官が映った。芥川は別に驚きもせず無視した。
くだんの女性保安官はいきなり首をつかみ上げ、開いている方の手で彼女の胸に突き入れコアをつかんだ。
「ぐうぅ!!」
もがきのけぞる芥川。
嫌でも頭の中におまえなど気に入らないという意志が入ってくる。
本当にしつこい船魂。
「やめろ!!「しきしま」
翔太は声を荒げた。
オルビスとリンガムが現われた。
「ヴァルキリーやいずもと違ってしつこそうね」
リンガムが声を低める。
芥川を乱暴に投げ捨てる船魂。彼女が動いた。パンチや蹴りを繰り出す。
翔太は受身を取り地面に転ぶ。
オルビスはパンチを受け流し、かかと落とし。そして足払いして転ばせた。
リンガムとオルビスは船魂を押さえる。
船魂はふりほどきリンガムとオルビスを投げ飛ばし、翔太につかみかかり足払いかけて馬乗りになり首をつかんだ。
くぐくもった声を上げる翔太。
相手の力はとても強く振りほどけない。
その時である背後から芥川の片腕の剣が貫き、そのまま持ち上げた。
目を剥く船魂。
せきこむ翔太。
剣を引き抜く芥川。
地面に落ちる船魂。
芥川は馬乗りになり二対の金属の触手で相手のわき腹に突き刺した。
「あんたは私と一緒に行動をするの」
芥川は船魂の髪をつかむ。
般若のような顔で睨む船魂。
芥川は深く触手を突き刺し、二人は黄金色の光で包まれ、抵抗するのをやめる船魂。
そして翔太は目を開けると元の景色にいた。
リンガムとオルビスもいる。
「船魂がしつこくて強くてうっかりすると支配されそうになった」
船橋の窓に二つの光が灯る。
「元に戻ったんだ」
声を弾ませる朝倉達。
「大丈夫とは思うけどこの船魂は意外に執念深くてしつこい。暴走したら遠慮なく撃っていい」
何か決心したように言う芥川。
「制御できているならそれでいい。とりあえず福岡保安署に行こう」
沢本は言った。
福岡海上保安部
「沢本隊長。韓国海洋警察と台湾海岸巡防署から巡視船のミュータントと海警船が来ています」
秋山は報告した。
部屋にペク、キムと李鵜、烏来、李紫明がいた。
「引きこもりの巡視船とSSTを連れてきたんだ」
李紫明は口を開いた。
ムッとする貝原。
腕を組む高津。
黙ったままの芥川
「彼も彼女達も重要だよ。彼が信号を見つけて芥川は「しきしま」と融合したんだ」
翔太が助け舟を出す。
「僕は無線機で怪しい電波を捉えてオルビスやリンガムは警視庁と一緒に踏み込んだ振り込め詐欺アジトには謎のコンピュータがあって調べたらここから出ていた」
稲垣は地図を出して掘削施設を指さす。
「カメレオンの巣になっているのではと思います」
椎野が指摘する。
「私達SSTが来たのは巣穴には海警局の一万二千トンクラスに39~から始まる巡視船が建造されてこの周辺をうろついている。もし出てくれば戦う」
芥川は地図にある掘削施設を指さした。
「確かにここの施設はいい話を聞かないわ」
ペクが掘削施設の写真を出す。
「今、韓国は大統領の親友が国政介入疑惑や機密情報漏洩疑惑に大揺れに揺れている。平昌オリンピックだけでなくその施設もその親友の財団の持ち物だ」
キムは口を開く。
「確かその大統領の親友は娘を大学に入れさせるために裏口入学させたんだろ。大統領の支持率が五%はなかなかないよ」
朝倉がわりこむ。
「偵察に行こう。何かあれば佐世保基地に佐久間さん達がいる」
三神が促した。
博多港から十一隻の巡視船が出港した。
「本来なら韓国がしなければいけないが国家機密漏洩問題で政府内部は大騒ぎだ」
キムは船内無線に切り替えた。
「土日になると一〇〇万人以上の抗議集会をやっているのはTVニュースで見たわ」
椎野が携帯からニュースを送信した。ネットでもニュースでも大規模集会の動画や映像は見れる。
「同じ韓国人として恥ずかしいわ。本来なら政府が自分で解決しなければいけないのに大騒ぎになったままね」
ペクが遠い目をしながら言う。
「九時の方向から四隻接近」
芥川が口をはさんだ。
レーダーに掘削施設に別の方向から接近する船舶が映っている。ロシア警備船、インド、イタリア、アメリカ沿岸警備隊の巡視船が接近してきた。
「アレックスなんで?」
三神が声をかけた。
「俺はベクシル司令官とフランシス局長の指示で来ている」
アレックスが答えた。
「私とフランはレナ議員やタリク議員の指示で来た」
「僕はトリップ議員だ」
リドリーとリヨンが答える。
「ここで起こっている事はインド洋でも起こるとインド政府は見ている。モルティブで中国のリゾート開発という中継基地が造られようとしている。それを世界に警告しなければいけない」
フランは答えた。
「それは韓国だって同じだ」
キムが強い口調でわりこむ。
十五隻の巡視船は掘削基地に接近した。
基地に近づくと中国漁船が五十隻がいた。
「韓国海洋警察である。ここは韓国の領海だ。出て行ってもらう」
韓国語で警告するキム。
「俺達はここで操業しているだけ」
大型漁船が韓国語で言う。
「許可は出てない」
ペクが声を低める。
「許可?おまえ達の政府は混乱しているじゃないか」
バカにするくだんの漁船。
歯切りするペクとキム。
「政府から捜索許可証はもらってある」
ペクは許可証を見せる。
「ここは日本と韓国が共同で開発した。日本政府からも許可が出ている」
沢本が口をはさむ。
汽笛を鳴らす漁船。
するとどこからともなく五隻の海警船が現われた。
「金流芯と馬兄妹と箔麗花と夏謳歌だ」
三神が船内無線に切り替える。
「あらあら、ひきこもり巡視船を連れてきたんだ。そいつ役に立たないわ」
しゃらっと日本語で言う箔麗花。
「僕を犯人しようとしただろ。おまけにおかしなマークもつけた」
反論する貝原。
「それがどうしたの?ついてきた方が悪いじゃない」
箔麗花はクスクス笑う。
「今度は南シナ海だけでなく日本海に巣を造るのか?」
フランがわりこむ。
「なんでインドとイタリアとロシアの沿岸警備隊がいる」
ムッとする金流芯。
「なんで?いずれ破壊するからね」
リドリーはロシア語で言う。
「地中海にも中国漁船がうろついているから追い出している」
イタリア語で言うリヨン。
「操業の邪魔するなと言っている」
中国語で言う金流芯。
「俺達はこの基地の捜索に来た。実力で通してもらう」
三神は強い口調で言う。
「あんたは引っ込めと言っている」
李紫明がつっけんどうに言う。
「このアマ・・・別れた元妻だから見逃そうとしていたんだ。でもそれはやめてバラバラにする」
金流芯は声を低めた。
「本性が出たわね」
李紫明は船体から四対の鎖を出した。
夏謳歌と三神は遠巻きににじり寄ると同時に動いた。その動きはアレックス達には見えなかった。気がつくとどっちも傷だらけになっている。
リドリーは煙突から甘い煙を出した。それはいちごのような甘い匂いが漂う。
「あま~い」
匂いを嗅ぐ漁船達。するとどこかへ走り去っていく。
「本当に残念な漁船ね」
リドリーがしれっと言う。
「本当に残念なのは誰だろうね」
クスクス笑う金流芯。彼は船体から一〇対の鎖を出した。せつな、金属がぶつかる音がして李鵜と烏来は金流芯の鎖を弾いた。
「こいつらはなんとかするから掘削施設を偵察してくれる?」
李鵜と烏来は金流芯の鉤爪を弾きながら支持を出す。
「了解」
リドリーとフラン、リヨンが走り出す。
馬兄妹の機関砲をかわすペクとキム。
「リドリー。気をつけろ。金流芯は音もなく忍び寄って攻撃する」
三神が注意する。
「わかった」
リドリーが四対の鎖を船体から出した。
夏謳歌と三神が同時に動いた。
三神はその錨や鉤爪を弾き、錨を突き刺し船体をえぐった。
くぐくもった声を上げてのけぞる夏謳歌。
機関砲を連射する三神。
夏謳歌が変身する海警船のエンジンを打ち抜いてスクリューを破壊した。
箔麗花は煙突からバラの香りを吹いた。
リドリーは煙突から柑橘類の香りを撒いた。
舌打ちする箔麗花。
沢本達は掘削基地に近づいた。
芥川、高津、朝比奈、氷見は船橋から基地の桟橋に飛び移ると壁やハシゴを蹴りヘリポートに飛び乗った。
管理棟から出てくる作業員達。目は赤く光っていた。いきなり銃を抜いた。
高津、朝比奈はジグザグに走りながら銃を連射。正確に従業員の頭部を撃ちぬいた。
氷見は分厚いドアを開けた。
ヘリポートに上がってくる翔太、椎野、稲垣の三人と三神と朝倉。
「死んだのは魔物使いにパシリにされたか魔物化したのか」
沢本は死んでいる従業員達をのぞく。
大浦と三島、アレックスは周囲を見回す。
リドリー、リヨン、フランは三神達と一緒に管理棟の中に入った。
従業員達の死体が転がっている。鉤爪が生え、赤い目で牙が生えている。
爆発音、銃声が奥の方で響いた。
翔太は時空武器を出した。これは父から十五歳の誕生日に受け取った。代々、自分の家系は時空武器が受け継がれる。高祖父の葛城庵に渡したのはダニエルという三十一世紀の未来からやってきた時空エージェントである。
自分達しか扱えないようになっているのか他人だと反応しない仕組みになっていた。
翔太は時空武器を短剣に変形した。
船室から飛び出す赤い目の従業員。
つかみかかってきた従業員の胸を突き刺す翔太。従業員は目を剥いて倒れた。
「すごい匂い」
稲垣と椎野が鼻をつまむ。
生ゴミの匂いと卵が腐った匂いが漂う。
廊下を翔太達は進んだ。
管理センターに芥川のチームは入った。
奥の部屋から出てくる三人の男。首筋にタトゥが入っている。そして魔物化した従業員達が飛び出す。
芥川と三人の男が同時に動いた。芥川の背中から一〇対の金属の触手が出し、男が発射する光線を弾いた。
高津は長剣を出して飛び出した数十匹の黒トカゲを切り裂いた。
氷見や朝比奈はライフル銃で飛びかかってくる従業員を正確に撃っていく。
芥川は鋭い蹴りを受払い片腕の金属のドリルで男の頭部を貫き、片腕でコアをえぐった。
二人目と三人目の片腕のバルカン砲の光線を一〇対の触手で弾く芥川。彼女と二人の男が同時に動いた。その動きは朝比奈達には見えなかった。残影が動き回っているのしか見えなかった。すると芥川が壁にたたきつけられ二人が飛びかかり片腕の剣を彼女の胸に何度も突き刺した。
朝比奈と氷見は銃を撃つ。
男は背中の四対の鎖で銃弾を弾いた。
高津は呪文を唱えた。
男は片腕の銃身で稲妻を吸収した。
その時である二人の男の頭に五本の光る矢が突き刺さったのは。
目を剥いて倒れる二人の男。
管理センターに入ってくる翔太達。
三神は天井を這い回る黒トカゲを片腕の機関砲で撃った。
「芥川。大丈夫?」
駆け寄る翔太と三神。
身を起こしうなづく芥川。
「ここにいたのは全員中国人よ。日本人と韓国人はいない」
朝比奈は死体を指さした。
「あとは魔物ばかりとカメレオンが三人」
高津は死んだ三人のタトゥ男を指さす。
「ペクやキムが聞いたらショックだろうな」
朝倉がのぞきこむ。
「ここは通信指令基地だな」
高津はパソコンを操作する。
芥川は手首からケーブルを出してメインコンピュータに接続する。
「カメレオンの中継司令部ね」
芥川は冷静に指摘する。
「まさか・・・」
フランとアレックスが絶句する。
「中国のリゾート開発と言う名前のカメレオンの巣穴と司令部をつないでいる」
芥川はスクリーンに世界地図を出した。
モルディブ、パラオ、ミクロネシア、マーシャルにリゾート地開発が行われていて南シナ海から指示が来ている。サブ・サンの種族の中継基地が海南島で司令部が南太平洋にあるというものだった。
それを写真で撮る沢本、フラン。
カメラで撮る朝倉、リヨン、リドリー
「まずカメレオンの司令部と中継基地を破壊してサブ・サンの司令部も破壊しないと人類の滅亡は近いな」
アレックスがつぶやく。
翔太は死者の羅針盤を出して管理センターを出る。廊下を進み、倉庫に入った。
その後を三神、朝倉、沢本、三島、大浦の五人はついていく。
「このコンテナから電波が出ている」
無線機を操作しながら言う稲垣。
三神はコンテナのドアを開けた。
「これは?」
翔太、椎野、稲垣は声をそろえる。
「機雷じゃないわ。カメレオンの卵よ」
大浦が指摘する。
「沿岸警備隊チームは横浜に来たテロリストを倒したけど佐久間さん達はこの卵を運ぶ船もどきを破壊したんだよね」
稲垣が思い出す。
「電波の発信元はここだったんだ」
部屋に入ってきた貝原が見回した。
「この施設は壊した方がいいわ」
椎野が言う。
「韓国政府が正常ならいいけど」
アレックスは写真を撮る。
芥川は片腕を放射器に変形させるとコンテナに向けて青い炎を放射した。
掘削基地の桟橋に降りてくる翔太達。
海警船が走り去っていくのが見えた。
「39~で始まる海警船が現われないな」
沢本が周囲を見回す。
桟橋に接近する韓国と台湾の巡視船。
李紫明が変身する海警船が近づく。
韓国の警備船にデータを送信する沢本。
「バカな・・・いつの間にかカメレオンの中継基地になっていたとは」
愕然とするペクとキム。
「韓国政府にこの基地を壊す事を進言する」
アレックスが口を開く。
「正常に判断できればいいけどね」
烏来が言う。
黙ったままペクとキムは韓国の方向へ走り去っていく。
「俺達は日本政府と本庁に報告だ」
沢本は言った。
Tフォース博多支部
翔太、椎野、稲垣と芥川は官舎に入った。倉庫には電動台車に乗った模型漁船がいた。第五福竜丸である。
そばにシド、平賀博士がいた。
「他のメンバーは?」
オルビスとリンガムが入ってくる。
「福岡保安署。僕達はここで泊まる事になるし、三神さん達もここへ泊まる事になっている」
翔太が答えた。
芥川はふらっとよろけて胸を押さえた。
「どうしたの?」
椎野と稲垣が駆け寄る。
「融合の苦痛だ!!」
翔太とオルビスが声を上げた。
「え?」
「そこの台を使って」
第五福竜丸は簡易ベットを指さした。
リンガムとオルビスは芥川を抱えてベットに寝かせ拘束ベルトで手足を縛った。
「融合の苦痛ってマシンミュータントの?」
椎野が聞いた。
「オルビスの種族は乗り物と融合する度に融合の苦痛が起きて順応する。彼らはマシンミュータントと違って乗り物を交換できて、五つもストックできる装置も持っている」
翔太はベルトを固定した。
「僕は何度も見ている」
第五福竜丸がわりこんだ。
芥川はくぐくもった声を上げた。せつな頭をハンターでたたかれたような痛みが走り、のけぞった。呼吸が荒くなり胸が激しく上下した。
「ぐああああ!!」
バキバキ!!メキメキ!!
腹部から胸まで深く断ち割れ、ケーブルや配管がその傷口の下で激しくのたくるのが見えた。傷口は軋み音をたてて歪み、胸当てが分厚く硬質化する。厚さは一〇センチで胴体も厚さ五センチの鎧に覆われる。でもそれは体をよじりのけぞる度にシワシワになった。
肩口から腕まで膨らみ連接式の金属の触手に変わり手は鉤爪に変わる。
この体・・・嫌・・よけいに嫌・・・
芥川は身をよじりのけぞる。
足もプロテクターに覆われ硬質化した。
電子脳の脳裏にレーダーや赤外線センサーや亜空間センサーがくわわり、装備している武器にビーム銃、銃剣、バリア発生装置が、プラズマ砲や普通の機関砲も装備されている。
どんどん自分の体が変わっていく。
耳障りな軋み音とともに胸や腹部、わき腹、背中、ひざ、掌底の断ち割れた割れ目から金属ドリルが飛び出した。
「ぐうぅぅ!!」
ズン!と突き上げるような音や何かが引っかき回すように体が激しく盛り上がりへこむ。
目を剥く芥川。
ギギギギ!!ビシビシィ!
金属の背骨から連接式の金属の触手が一〇対飛び出し先端が鉤爪に変形して周囲をまさぐるように這い回る。
金属の背骨が激しく軋み歪むのが嫌でもわかる。心臓音が耳に響いた。
自分には最初から生身の部分はない。
パックリ開いた傷口から金属骨格が軋みながら歪み盛り上がり、全身に血管の張り巡らされた配管やケーブルがウネウネ動き回りは激しく這い回っているのが芥川の目に入ってくる。
それは翔太にも見えた。
まるで蛇のように配管という配管が這い回りのたうち、小さな歯車から火花が上がる。
激しい軋み音が響き、青白い光を放つコアが見えた。
「痛い・・・嫌・・この体・・・」
芥川は激しくのけぞり身をよじり、胴体や胸が激しく歪んでいるのが嫌でも目に入った。
しばらすると金属ドリルは体内に収納され、ぐったりする芥川。
ため息をついて座り込む翔太、椎野、稲垣。
息を整えるシドと平賀。
「ごめん。巻き込んで」
オルビスはうつむいた。
「大丈夫。私達は勝手についてきただけ。もう関わっている」
椎野はオルビスを抱き寄せた。
顔を赤らめるオルビス。
シドと平賀、リンガムは拘束ベルトを外していく。
倉庫に入ってくる三神達。
振り向く翔太達。
「どうした?」
氷見が聞いた。
「芥川は融合の苦痛が起きた。今は寝てる」
オルビスが口を開く。
「種族が違うからね」
高津と三神は納得する。
「傷口が治ってないな」
沢本と朝倉がのぞきこむ。
傷口から金属骨格や配管、ケーブル、機器が見える。
「自然にふさがる」
リンガムが口をはさむ。
「あの掘削基地にあった暗号通信は東シナ海の中国の掘削施設を中継していた。それと中継する通信船がいるみたい」
オルビスがタブレットPCの画像を出した。
「米軍の情報収集艦のような施設がないと中継したり返信して具体的な対策を送信ができないと各国を経由してなんて無理だ」
三神があっと声を上げる。
「その船は東シナ海にいる」
リンガムが指摘する。
「佐久間さん達を呼ぼう。そこからだ」
沢本は言った。
三十分後。
会議室に入ってくる佐久間。
「佐久間。米軍と中国軍ではない情報収集艦がいるみたいだ」
オルビスがスクリーンに地図を出した。
「識別番号はなくて東シナ海を航行している。米軍の船は黄海にいて中国軍の船は尖閣諸島沖にいた。中国も何隻か持っているけどちがう気がする」
佐久間は分析する。
「近づけませんか?」
それを言ったのは翔太である。
なんか嫌な感じ。第六感というより本能が怪しいと言っている。
「情報収集艦はカメレオンかもしれないわ。
東シナ海なら台湾巡視船と一緒に行った方が相手も油断するわね。椎野さんと稲垣さんはここに芥川さん達といなさい」
佐久間は少し考えてから言う。
稲垣と椎野はうなづく。
「福岡保安部にはまた李鵜や烏来もいるし李紫明もいる。必要なら尖閣専従部隊の力も借りられる」
三神がポンと手をたたく。
「佐世保基地に行くわよ」
佐久間は言った。
佐世保基地からオスプレイが離陸した。機首を東シナ海の目的の海域へ向ける。
窓からのぞく翔太、三神、朝倉。
地図を広げる沢本。
その地図をのぞきこむ三島と大浦。
「電波は中国軍でも米軍でもないよ」
オルビスは地図をのぞきこむ。
「カメレオンか?」
李鵜と烏来が聞いた。
身を乗り出す李紫明。
「かもしれない」
首をかしげるオルビス。
「貝原を置いてきてよかったのかな?」
疑問をぶつける三神。
そもそも信号を聞き取ったのは貝原と稲垣である。稲垣はアマチュア無線と改造パソコンで信号を受信した。
「敵は中国軍か海警局かわからないから偵察に行くの」
佐久間は窓をのぞいた。
「間もなく目的海域に着きます。該当の船はコンテナ船ですか?」
自衛官がわりこんだ。
「え?」
「目的海域に着いたのですがコンテナ船しかいません」
操縦席から見える船を指さす自衛官。
操縦席からのぞく佐久間達。
「あの船からその電波が出ていた」
オルビスは目を吊り上げる。
ホバーリングするオスプレイ。
海に飛び込むミュータント達。緑の蛍光に包まれて巡視船に変身した。
佐久間は翔太を抱えて「やしま」の船橋ウイングに着地。オルビスもその後に続いた。
飛び去るオスプレイ。
コンテナ船に接近する三神達。
「海上保安庁である。そこのコンテナ船泊まれ」
「台湾海岸巡防署である」
沢本と李鵜は中国語で声を張り上げた。
停止するコンテナ船。船橋から船長らしい中国人が出てきた。
「なんでしょうか?」
船長がたずねた。
「臨検だ。荷物を検査する」
李鵜が答える。
「航路を偽装しているわね。どこにもよった形跡がないけど」
烏来が指摘する。
顔色がくもる船長。
「中国海警船が一〇隻接近」
オルビスは「やしま」の船橋から身を乗り出す。
「あの船。荷物が見当たらない。船内が空っぽみたい?」
死者の羅針盤を見ながら困惑する翔太。
「空っぽって何も運んでないとか?」
朝倉が口をはさむ。
「運んでいる。邪魔するな」
いきなりわりこむ声。
「金流芯。まだいたんだ」
わざと言う李紫明。
見ると夏謳歌と馬兄妹がいない。一万二千トンが四隻と五千トンクラスが五隻。煙突や船体に光る模様がある。一万二千トンの三隻の船首番号は39~始まる番号がついている。
「3901」「3902」「3903」とあった。
「本当に手を組んでるんだ。いつかそいつらは裏切るけど」
大浦が警告する。
「もう巣穴が中国国内に出来ているんじゃないの?」
三島が指摘する。
「まだそこまではなってないさ。思う存分暴れるさ」
五対の鎖を船体から出して妙な構えをする金流芯。その動きは鎖の動きがわからないような動きだ。
「あの構えは」
李鵜、烏来と李紫明が気づいて動いた。
三神と朝倉の手前で李鵜と烏来が鎖で弾き、李紫明の二対の錨で金流芯の船体をえぐった。
「音がしない。鎖の動きがわからない」
驚く三神と沢本。
「雲竜拳よ。片側の鎖が見えないから動きが悟られない」
李紫明が動きと型を送信する。
「斜め四十五度で向き合うと片側の動きがわからないのか」
三神が気づいた。
元のミュータントに戻ってもその構えをすれば片側の腕や武器の動きが見えないのがミソだろう。
三神と金流芯は遠巻きににじり寄る動いた。
金流芯は片側の鎖で連続で突いた。
三神はジグザグに動き、その鎖を弾いた。
朝倉は泡を投げた。
金流芯は機関砲を連射。泡を撃ち落す。
三神が動いた。その動きは李鵜達には見えなかったが、金流芯は何度もその鎖を弾き、機関砲を連射。
三神はそれをかわして機関砲を撃った。
金流芯が変身する海警船の船橋の窓を撃ち抜いた。
「ぐあっ!!」
金流芯は鎖で目をかばうようなしぐさをする。
朝倉は船内から円盤のような物を出すと彼の船体に貼り付けた。せつな金流芯の機器に制御装置が接続されてエンジンがかからなくなり動けなくなった。
「3903」と「3902」はは船内に格納していた砲台を二基出して赤い光線を連射。
沢本達はジグザグに航行してかわした。
「3901」が動いた。
三神は弾かれたように動いてその錨を弾いて船体をえぐった。
「3901」の動きが金流芯のさっきの構えに似ている事に気づいた。
三神は動いた。彼が今いた場所に「3901」の二対の錨が振り下ろされた。大きな水柱が上がる。
「これではコンテナ船に近づけない」
沢本はジグザグに航行しながら舌打ちする。
船橋の手すりににつかまる翔太。
コンテナの船体中央部から青い光線が伸びて朝倉の船体を捉えた。するとコンテナ船に引き寄せられる。
「何これ?」
鎖をばたつかせる朝倉。
「朝倉!!」
三神は朝倉に飛びついて二隻とも一緒に船内の奥に消えた。
「あの光線はなんだ?」
沢本達が叫ぶ。
「トラクタービームだ」
だしぬけに叫ぶオルビス。
「3901」の体当たり。
大きく揺れる「やしま」
コンテナから触手が伸びて翔太と佐久間をつかんで引っ張り込んだ。
「逃がさないさ」
笑いながら金流芯は円盤状の接続装置を沢本達が変身する巡視船の船体にくっつけた。
オルビスは船橋ウイングから身を乗り出し銃を空に向かって撃った。
その頃。福岡海上保安部
「警告信号が発信されたのは本当か?」
海上センターに入ってくる間村、室戸、霧島の三人。
部屋にいた秋山達が振り向いた。
「警告信号は「あしがら」と「やしま」です。この海域にカメレオンの情報収集艦が出現。注意されたし。です」
オペレーターが地図を出して指さす。
「情報収集艦って米軍が持っている船ですか?東シナ海と尖閣沖には中国軍の情報収集艦が出没しています」
秋山がスクリーンを切り替える。
「知っている。自衛隊もそれを追跡しているし本家のパクリだし性能はイマイチだ」
しれっと言う間村。
「情報収集艦があるという事はどこかにカメレオンの司令部や前線基地がある」
霧島が口をはさむ。
「それは私達もそう見ている」
リドリーが口を開く。
「それは南シナ海から来ている。中国は南シナ海の環礁を改造してそのいくつかをカメレオンにやっている。たぶん中国国内にもサブ・サンだけでなくカメレオンの司令部があると見ている」
アレックスが地図を切り替えた。
「結局中国は言いなりだし、アメリカはスレイグが大統領になった。アメリカ国内に巣穴や隠れ基地を造られそうだぞ」
フランが心配する。
「そんなに遠くに行ってないハズ。でもどうやって追跡する?」
秋山が聞いた。
「そこなんだよな。電波も信号も消えた」
室戸が肩をすくめる。
「信号なら追える」
不意に声がして振り向く間村達。
部屋に入ってくる貝原と稲垣、椎野、重本。
「そのままその収集艦を探しに行っても何も見つからない」
芥川が入ってくる。
彼女と一緒に高津、氷見、朝比奈が入ってくる。
稲垣はアマチュア無線機とノートPCをつないで解析した。
「信号はここから来ている」
貝原は東シナ海の海域を指さした。
「そこは中国の掘削施設だ。海警船と漁船が多数いる。接近するだけで警戒される」
リドリーが困った顔をする。
「米軍だって警告信号を解読している。私はオルビスの警告信号を受信した。リンガムとアーランも受信している」
芥川はキーボードを操作して入力する。
「僕も五十年前の調査で似たような信号を受信したけど記憶がなくなっている」
重本はうーんとうなる。
「情報収集艦は掘削基地のそばにいる。接近するには潜水艦とアーランの潜水艇を用意する。彼らだってバカじゃないしワナを仕掛けている。米軍も追っているなら偽情報と偽船をつかませるの」
芥川はホワイトボードに計算式と数式と記号を記入しながら説明する。
「米軍には囮になってもらうのね」
重本が気づいた
「正解」
芥川はうなづく。
「貝原。わざと在日米軍佐世保基地をのぞきに行ってうろつきながら信号をばら撒いて」
重本がひらめいた。
「え?僕が?」
ひどく驚く貝原。
「俺達がうろついていたじゃ相手は警戒するからな」
間村が納得する。
「少しは役に立ってよ」
しれっと言う重本。
「終ったらバラバラにしてやるからな」
貝原はフン!と鼻を鳴らして出て行った。
「僕達はいなくなった海域で捜索しているフリをしている」
秋山はポンと手をたたく。
「あのニコラスとカプリカを誘い出すのか」
辰野と佐村はうなづき秋山達と一緒に部屋を出て行く。
「潜水艦「そうりゅう」と融合するミュータントを紹介するから基地へ行くぞ。SSTはアーランとリンガムと一緒に潜入だ」
間村は指示を出した。
その頃。檻の中。
頑丈な檻に一〇人の男女が収監されていた。
「携帯が圏外になっている」
携帯を眺める翔太。
「電波が遮断されているわね。緯度も経度もわからない」
佐久間がため息をつく。
「この船は中国国内の造船所に建造されてエンジンはロシア製で乗員は中国人の操り人形とカメレオンだ」
李鵜はふと思い出す。
「格納庫やエンジン、機関部員は中国人で、そいつらに指示を出しているのはカメレオンだろうな」
三神がつぶやく。
ここに連行される時に格納庫や機関室には中国人の乗員がいた。どの中国人も赤い目をしていて首に刻印があった。日韓の掘削基地にいた従業員と同じように操られているのだろうか。
「中国製なのがせめての救いかな」
檻から手を出して朝倉は泡を投げた。
蛍光灯に命中して電気が消えた。
「そういえば途中からトラクタービームを使わなかったね。カメレオン達を使って強引に拉致してきた」
翔太は首をかしげた。
使おうと思えば使えたのになぜだろう?
「それは電力を意外に使うからだよ。地球の技術ではどうしても電力やバッテリーがもたないかもしれない」
オルビスが答えた。
「中国製はパクリが多くて粗悪品が多いから案外もたないかも」
大浦が身を乗り出す。
「この船が中国製である事に感謝ね」
烏来と三島はうなづく。
部屋に入ってくる金流芯。
「あんた、本当は中国国内に奴らの巣穴や基地があるんじゃないの」
身を乗り出す李紫明。
「今の所はない」
きっぱり否定する金流芯。
「本気で答えているのかよ。今の所はなくても連中は造って行くだろうな。現実にこの船はカメレオンの情報収集艦だ。政府だって乗っ取るぞ」
李鵜が声を低める。
「司令部もありそうだし前線基地だってありそうだな。どんな取引した?」
三神は挑発する。
「黙れよ」
目を吊り上げる金流芯。
「あなたがサイバー部隊にいた事やスパイもやっていた事は知っている」
しゃらっと言う佐久間。
「僕達を殺すの?」
翔太が声を低める。
「殺さないさ。囮になってもらう。役に立ったら市場に売り飛ばす。巡視船はけっこう高値で売れるし、そこのエイリアンのガキと日本人はもっと高値がついている。こっちは楽して暮らせる値段だ」
ニヤニヤ笑う金流芯。
「サブ・サンや南シナ海にいる彼の部下には会った事があるの?」
オルビスが口を開いた。
「ないね」
「じゃあ波王はあるよね。海南島によく出入りしている」
「黙れよガキが」
目を吊り上げる金流芯。
「波王に尻をたたかれているんだろ?」
ニヤッと笑う朝倉。
「本当にロクでもない連中よね」
挑発する佐久間。
「黙れ」
金流芯は声を荒げて出て行く。
「彼の心の中って複雑だね。いつでものぞかれてもいいというあきらめもあるね」
黙っていた翔太は口を開いた。
なんだろう?いつも波王やその仲間に心の中を探られるからいつでものぞいてOKというような感じだ。
「プレッシャーでそうなったのか?」
三神が身を乗り出す。
「プレッシャーというよりいつものぞかれるから慣れたという感じ。まだ李紫明さんとヨリを戻して復縁したいという感じだった」
困惑する翔太。
未練がすごいあって自分の物にしたいという欲望である。ドロドロしていてストーカーのようなそんな感じだ。
「死んでもお断りよ」
しれっと言う李紫明。
「これさえ外せればな」
つぶやく三神。
自分だけでなく翔太以外は船に変身できないようにする制御腕輪がつけられている。船に変身できないうえに能力も使えない。
「僕はこの腕輪の機能を使ってアーランとリンガムに信号を送信した」
オルビスが口を開く。
「オルビス。すごいよ」
翔太と三神が声をそろえる。
「ハッキングできなかったわ」
佐久間は目を細める。
「サブ・サンやカメレオンが造った腕輪だから接続できないよ。でも中国製だからデータチップはお粗末だね」
オルビスは片腕の手首からケーブルを接続して外した。
「出ろ。来てもらう」
部屋に入ってくる複数の乗員。首筋に幾何学模様のタトゥが入っている。
「どこに?」
佐久間が聞いた。
「答える必要なんてないね。おまえたちは一時保管庫で保管したらサブ・サン殿に引き渡すんだ」
ニヤニヤ笑う乗員達。
「じゃあ、そこで待っていたらサブ・サンが来るんだね?」
オルビスは声を低めた。
「そうだよ。来いと入っている」
乗員達は目を吊り上げライフル銃を抜いた。
「従うしかなさそうね」
佐久間は言った。
船外に出るとそこは石油掘削基地の船着場である。掘削基地はここの他にも何基があるのが見えた。
「東シナ海の石油掘削基地だ」
三神がつぶやいた。
「そうね。制御腕輪のせいで経度、緯度が見えないけど位置的に見ても東シナ海ね」
佐久間はささやく。
「そのうちの一基はカメレオンのアジトになっているのかもね」
烏来が周囲を見回す。
翔太達は管理棟に入り、長い階段を降りて部屋が並ぶ廊下を通り過ぎて監房に入った。
その頃。潜水艇
「なんか異質だな。エイリアンの船って感じだ」
高津は腕を組んだ。
「もともとこの船は宇宙船だったからね」
操縦しながら言うアーラン。
「それもすごいわね」
氷見と朝比奈が感心する。
黙ったままの芥川。
「オルビスからの通信を受信」
リンガムは助手席でタッチパネルを操作しながら報告する。
「え?」
「場所は東シナ海にある中国の石油掘削基地。十二基あるうちの三番掘削基地」
リンガムは地図を出した。
「捕まるとマシンミュータントは制御腕輪をつけられる。それでよく送信できるな」
高津が疑問をぶつける。
「私達は長い逃亡生活の末に異星人が造った装置は分解して調べるの」
リンガムは操作しながら答えた。
「そうよね」
納得する朝比奈と氷見。
「芥川。あなたにも近いうちに教える」
リンガムは振り向く。
芥川はうなづいた。
「潜水艦「そうりゅう」と合流。石油掘削三番基地に接近。浮上」
アーランが報告する。
芥川、高津、氷見、朝比奈は出入口ハッチから出ると基地の橋脚のハシゴを駆け上がる。
船着場に通じるハシゴを駆け上がる間村、室戸、霧島の姿が見えた。
管理棟の前で作業していた作業員の首にロープが巻きつき柱へ引っ張られ芥川はその首に腕を回して力を入れた。作業員の首は不自然な方向に曲がった。
屋根から三人の作業員が落ちた。屋根から間村、室戸、霧島が降りてくる。
高津は呪文を唱えた。
ドアの電子錠が解除されて開いた。
「こちらリンガム。人質がいるのは東側の倉庫」
芥川の通信装置や高津達のヘルメットにも場所と位置が送信される。
「電波がうまく通じてないのに送信はすげえな」
間村は吹き抜けを飛び降り、下の階にいた作業員の首をへし折った。
室戸と霧島は隣りの配電盤室に入ってブレーカーを切り、配線を切断した。
監房でも唐突に停電した。
「あれ?電気が消えた」
周囲を見回す翔太。
「暗視スコープ」
佐久間は翔太に渡した。
「すごい見える」
翔太は声を弾ませる。
これなら暗くても進める。
檻のドアを蹴り飛ばす李鵜。
佐久間とオルビスは監守室に入るとそこにいた三人の作業員の胸を片腕の刃物で突き刺した。
監守室にはモニタースクリーンがいくつもあった。
「間村さんだ」
暗視スコープを取る翔太。
「SSTだ」
朝倉がスクリーンを指さす。
「ここは予備の場所だからメインは管理センターにあるようだ」
沢本は身を乗り出す。
オルビスはキーボードを操作して図面を出した。
「掘削基地じゃなくて基地だな」
三神と李鵜が指摘する。
補給基地的な役割だろう。掘削施設なのに武器庫があり育成室や工場がある。
「ここは破壊しましょう」
それを言ったのは李紫明である。
「爆薬がないわ」
烏来が首を振る。
「僕が工場を壊すよ」
オルビスがしゃらっと言う。
「簡単に言うな・・・」
あきれる三神と朝倉。
「ここを出てすぐ上の階にある管理センターへ行くわよ」
佐久間は促した。
長い廊下を進む芥川のチーム。
芥川は片腕をアサルトライフルに変形。正確に作業員を撃っていく。
天井を這い回る作業員達を撃つ朝比奈、氷見、高津。
四人は管理センターに入った。
そこには人間もどきがいた。一匹ではなく一〇〇匹いる。
朝比奈、高津、氷見は短剣を抜くと動いた。人間もどき達も銃を連射。
高津は呪文を唱えた。力ある言葉に応えて四人の周辺に半透明なバリアが出現。銃弾をすべて弾いた。
芥川は背中から四対の金属の触手を出して先端を刃物に変えて飛びかかってきた人間もどきを突き刺し、片腕のライフル銃で交互に撃ちながら進む。
高津達は人間もどきの間隙を駆け抜けながら袈裟懸けに斬っていった。
管理センターに入ってくる間村達。
足元には人間もどき達の死体が転がっている。下っ端なのか赤い一つ目のリーダーらしいもどきはいない。
霧島はキーボードを操作した。
スクリーンが十六分割された映像が出る。
「オルビス達は下の階の工場に向かっている。俺達もそこへ行くぞ」
間村はあごでしゃくった。
翔太達は工場に足を踏み入れた。
工場にはベルトコンベアーが並び実験機器が並び、スーパーコンピュータ京のような物が並んでいる。
「ここはいったいなんだ?」
三神と朝倉は周囲を見回す。
操作盤にケーブルを差し込むオルビス。
「ただの工場じゃないよね」
翔太はベルトコンベアーに触れた。せつな地球環境が激変して砂漠化が急速に始まり空気や酸素が別の物に変わるといった映像だ。
「どうしたの?」
佐久間が聞いた。
「この工場は地球の環境をすごい変える装置だよ」
翔太は口を開く。
といっても一基ではそんなに変わらないが。
「テラフォーミング装置というものか」
沢本と李鵜は本棚のように並ぶスーパーコンピュータをのぞきながら言う。
「でもこのスーパーコンピュータは中国製ね。配電盤は日本製だけど」
烏来は出ているコードを引き抜いた。
「コンピュータウイルスを植えた」
オルビスは手首の接続ケーブルを抜いた。
翔太は振り向きざまに時空武器を弓に変えて矢を射る。
天井から作業員が三人落ちてきた。首筋にはタトゥがある。
部屋の奥から首筋に幾何学模様のある複数の男女が近づいてくる。
「カメレオンだ」
オルビスと翔太が身構えた。
「ここは巣ね」
佐久間達は片腕を機関砲に変えた。
飛びかかる数人の男。
李鵜と烏来は男のパンチや蹴りをかわし、肘うちをして鋭い蹴りを入れた。
数人の男達はスーパーコンピュータに激突した。しかし跳ね起き片腕の機関砲を連射。赤い光線を走りながらかわす李鵜と烏来。
沢本は片腕の日本刀で飛びかかってきた男女達を袈裟懸けに切り裂き切断した。
三島と大浦は呪文を唱えた。力ある言葉に応えて黒い球体が出現して数十人の男女がその中に吸い込まれ消えた。
三神が動いた。その動きは男女達には見えなかった。彼は青い残影となって駆け回り、コアをえぐっていく。
朝倉は泡をたくさん投げた。
近づいてきた男女の命中すると黄金色の稲妻がほとばしり目を剥いて倒れた。
翔太は時空武器をライフル銃に変形。ベルトコンベアーから出てきた女を撃った。頭部を青い光線が貫通して倒れた。
翔太はオルビスと佐久間は地下三階に通じる出入口に近づく。
その時であるドアが吹き飛び、佐久間はとっさに翔太をかばって吹き飛ばされた。
駆け寄るオルビス。
その時である。誰かに腕をつかまれ壁にオルビスはたたきつけられた。
佐久間はわき腹の鋭い痛みに顔をしかめる。
彼女はドアの破片を引き抜いた。
「佐久間さん」
身を起こす翔太。
彼女の背中にも破片が突き刺さっているのが見えた。
近づいてくる女。首筋に幾何学模様のタトゥが入ってくる。
時空武器を長剣に変えて身構える翔太。
女の片腕が長剣に変わり動いた。
翔太は女の連続突きをぎりぎりの所でかわす。たぶんやっているのは時空武器だ。動きが見える。
女は剣を振り下ろす。翔太はそを受け止める。しかし相手の力は強く弾かれ地面に転がった。女が大股に近づき腕を伸ばした。
ドスッ!!
「ぐはっ!!」
女は青い潤滑油を噴き出す。
背後に三神の鉤爪が突き刺さりコアをえぐった。女は目を剥いて倒れた。
三神はとっさに動いた。男の腕を斬りおとし、鋭い蹴りを入れた。
男は壁にたたきつけられる。しかし男は跳ね起き、身構えた。
「その動きは・・・」
三神がつぶやいた。
片腕と背中の触手の動きが見えない構えは金流芯の雲竜拳だ。たぶんこいつは技をコピーしたにちがいない。
男と三神が同時に動いた。男の速射パンチをすべてかわす三神。男の左腕の鉤爪突きをすんでの所でかわし、三神の膝蹴りが腹部に食い込んだ。
ベルトコンベヤーに激突する男。
三神の後ろ回し蹴り。背後からつかみかかってきた女は壁にたたきつけられる。
男女と三神が同時に動いた。
翔太は身を起こした。
地面にたたきつけられ床に転がる三神。
「三神さん」
翔太が駆け寄る。
三神は口からしたたる緑色の潤滑油をぬぐった。鋭い痛みにわき腹を押さえる。電子脳にわき腹と腹部の機器が損傷と表示される。
翔太は身構えた。
自信はない。でも戦わないとやられる。
男女が動いた。せつな青い光線が頭部を穿って胸のコアをもう一人がえぐった。
目を剥いて倒れる男女。
見ると芥川とオルビスが立っている。
「大丈夫か」
駆け寄る間村達。
うなづく三神。
佐久間は烏来に肩を抱えられて近づく。
朝倉に支えられて立つ三神。
「この下は育成室だ。破壊するよ」
オルビスは何か決心したように言う。
深くうなづく翔太達。
地下三階に降りる翔太達。
そこには数千個の金属の卵が並んでいた。大きさは一メートル位で形といい機雷によく似ている。
「これがいっせいに孵化したら最悪だぞ」
李鵜が顔をしかめる。
「テラフォーミングするには足りないけど繁殖力は強そうね」
佐久間が冷静に見回す。
「そうさせないために僕達はいるんだ」
翔太は金属の卵を見下ろす。
「芥川。僕と同調させて。ここを吹き飛ばすよ」
オルビスは背中から太いケーブルを出す。
芥川はうなづいて背中から太いケーブルを出して接続した。
「証拠はばっちり撮った」
朝倉と李鵜がOKサインを出す。
「俺達は退避だ」
間村は促した。
芥川とオルビスの片腕がバズーカー砲に変形した。二人の片腕の砲身から青い稲妻をともなった黄金色の光線が発射された。
三番掘削基地は閃光とともに木端微塵に吹き飛んだ。
「・・速報が入りました。東シナ海にある掘削基地で大きな爆発がありました。国連によるとこれはカメレオンの巣だという事です。中国政府は否定していますが、Tフォースと日本政府、自衛隊、海上保安庁の調査により映像が公開されています」
女性キャスターは流れる動画を説明する。
「映像の提供は海上保安庁SSTによるものです。それによるとカメレオンの情報収集艦が出現しているとのことです。自衛隊によると収集艦があるという事はどこかに司令部と基地、孵化基地があるとの見解です」
男性キャスターは原稿を読み上げた。
「世界中の国々で使われていない掘削基地や鉱山の調査が始まりました。使われていない掘削基地は解体。鉱山は埋めるといった作業になります」
女性キャスターは報告した。
「世界中大騒ぎだな」
福岡保安署の会議室にあるモニターを見ながら朝倉はつぶやいた。
「アレックス、リドリー、フラン、リヨンありがとう」
お礼を言う三神。
「俺達としても感謝している」
アレックスは手を差し出す。
「アレックス。君はカラムの後任で調査に来た。俺と一緒でいいのか?」
三神は恐る恐る聞いた。
「俺はカラムの後任で来た。でも過去のおまえを俺は知らない。それでいいじゃないか」
アレックスは真剣な顔になる。
「わかった」
三神は手を差し出し握手した。
「台湾海岸巡防署の協力には感謝する」
沢本は李鵜の肩をたたく。
「海上保安庁の協力には感謝している。世界に警告できた」
李鵜は笑みを浮かべる。
「貝原。囮にして悪かった」
重本が言いよどむ。
「おかげでレジーとレイスに追いまわされた。でもなぜか楽しかった」
貝原はフッと笑みを浮かべる。
「翔太。戦いに巻き込んですまない」
芥川は視線をそらす。
「でもカメレオンの情報収集艦は見つけたし巣穴は潰した。彼らがテラフォーミングしようとしていた事もわかったんだ。カメレオンやサブ・サン。他の時空侵略者を一緒に追い出そう」
翔太は笑みを浮かべる。
うなづく芥川。
翔太は芥川を抱き寄せた。
ドキッとする芥川。
でもなんて暖かいのだろう。自分には最初からない物がある。芥川家でも小さい頃は抱かれたし、いつの間にか安心して眠っていた。
「君は機械じゃない。生命体だよ」
翔太は言い聞かせる。
「李紫明。いいのか?海警局の奴らは本気で襲ってくる」
三神が重い口を開く。
「構わないわ。海警局は私を除籍にしていない。私は王海凧を探している」
李紫明は答えた。
「最悪の結果でもいいのか?」
李鵜がわりこむ。
李紫明は深くうなづいた。
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