Chapter1-episode15

「よーし、上手くいったな。」

後ろから、帽子の青年の声が聞こえた。それにハンドルを握る茶髪の青年がからからと笑う。

「ぶっつけ本番だったけど、なんとかなったね!」

「あぁ、まあ、あのワイヤーをお釈迦にしちまったのはちょいと痛いが、そのぶん人助けができたならあいつも僥倖ぎょうこうだろ。」

「うんうん、確かに!」

そこで、茶髪の青年は笑顔でアリスを見下ろした。片側の一房だけ編み込んだ髪が、風になびいてぱたぱたと揺れていた。

「ね、きみ、名前は?オレはルカっていうんだ。」

「えっと………アリスです。」

茶髪の青年──ルカのフレンドリーさに面食らいながらも、アリスは名乗って頭を下げた。

「その、助けてくれてありがとうございます。」

それに答えたのは、帽子の青年だった。

「そんなに畏まらなくていいぜ。俺たちはこういうのが仕事なんだ。」

「そうそう、クロムのいうとおり!敬語なんて堅苦しいのはなしなし!」

クロムと呼ばれた帽子の青年は、ルカの編み込みを引っ張った。

「調子に乗んなよ、ルカ。」

「あだだだだ!なんだよ!オレは思ったことを言っただけだぞ!」

憤慨するルカは置いておき、クロムは片手で帽子を押さえながらアリスに尋ねる。

「それで、なんだってあんなとこでアサギリの旦那なんかに捕まってたんだ?こう言っちゃなんだが、あいつは〈紅の咆哮〉でも五本の指に入るくらいの大幹部だ。そんなのに直々に狙われるなんざ、よっぽどだぞ?」

クロムの問いかけに、アリスは力なく頭を横に振った。それはこちらが訊きたいくらいだった。

「それがわかってたら苦労しないわ……何が何だか、もうさっぱりよ。」

「ふむ…………。」

アリスは、自分の手元に視線を落とした。何が何だかわからないが……ひとつだけわかることがある。自分でも知らないうちに何かとてつもないことに巻き込まれてしまった、ということだ。

目を閉じると、アサギリに剣を向けられた感覚がよみがえるようだった。今更ながら、小刻みに手が震えていることに気がつく。そんなことにも気がつかないほど、気を張っていたのだと思った。

「……大丈夫だよ。」

不意に、温かい言葉が降ってきた。顔を上げれば、エアバイクを操縦しながらルカが優しい表情でアリスを見ていた。

「安心してって軽々しく言えないけど、少なくとも今は、オレたちがついてるから。ね?」

ルカの言葉に、クロムも力強い笑みを浮かべる。

「あぁ、そうだな。ルカの言うとおりだ。」

アリスは、少し黙った。どうして、この二人はこんなにも親切なのだろうか。会ったこともないのに、どうして助けてくれたのだろうか。

しばし考えた後、純粋な疑問をぶつけた。何となくだが、この二人はきちんと答えを返してくれる気がした。

「……あの、どうしてそんなに親切にしてくれるの……?会ったことないのに、助けてくれたり、今みたいに励ましてくれたり……普通、そういうのできないわ。」

すると、二人は肩越しに顔を見合わせた後、同時ににっと笑った。代表して答えたのは、クロムだった。

「さっきも言ったろ?こういうのが俺たち──風変わりな何でも屋、〈ワンダーランド〉の仕事なんだ。」

緑色の瞳が、真っ直ぐにアリスを射貫く。その力強い光が、今はただ心強いと感じた。

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