平井骸惚此中ニ有リ 其續

田代裕彦

第壹話 壹節

 ご一新は昔話の種になり。


 明治天皇の崩御とて一昔。


 政変、大戦、露西亜ロシア革命。西比利亜シベリア出兵に米騒動、更には未曾有の大震災。

 それらもすべて過ぎ去って、大正の御代も早十三年。


 ぽかりぽかりと暖かく。

 はらりはらりと桜舞う。


 気候ばかりは小春うららかな日の続く、四月も終わりのことでございます。


 こちらは日ノ本が中心、帝都・東京。

 けれども天皇陛下のおわす皇居からも、時代の先端銀座からもいささか離れた坂の町。


 大正時代このころの思い出を綴ったとある回想録などによれば、東京の中でも平坦なのが《下町》で坂の町が《山の手》だ、なぞという印象を抱いておられた方もいらしたようではございます。それに照らし合わせてみれば、この町も山の手ということになるのでしょうが、当時も今もそうとは思えぬ雑多な町で。


 さりとて下町らしい賑わいとも無縁なところ。

 殷賑よりかは閑静に寄り、閑雅というより閑寂で。


 なんとも中途半端な町でございまして。


 その町にあるのが、町を象徴するかのごとくの曖昧な坂。仰ぎ見れば平坦なようで、登ってみれば急勾配のような。ひょいと一跨ぎできてしまえそうな、なかなか越せぬような。歩む人人も首傾げ、いつしか誰もがだらだら登る。


 通称だらだら坂でございます。


 そのだらだら坂のそのてっぺん。坂を上り詰めた先にあるのが一軒の日本家屋。

 門前に掛かる表札には『平井』の字。


 その家の一階、お茶の間の脇。さして広くもないお庭を望む縁側に、銜え煙草で頬杖ついてゴロリ転がる御仁が一人。


 横になっても分かるすらりと伸びた長身で。六尺を超える長身で。

 けれども、尺寸に比べて貫目はいささか頼りなく。与える印象はどうにもひょろりと、あたかも枯れ木のような風情。

 高々伸びた鼻に掛かるは円形太縁ロイド眼鏡。その奥に収まるは、鋭さ与える切れ長の眼……ではございますが、この折ばかりはとろりと揺蕩たゆたい目覚めているのやらいないのやら。

 こちらの御仁がこの家のご主人。探偵小説で生計を立てる探偵作家の先生で。


 ――その名も平井ひらい骸惚がいこつ


 サテ。

 その骸惚先生に、とたとた足音ならして近寄る陰が。


「骸惚先生、お茶をお持ちしましたヨ」


 そこには両手に湯飲み茶碗を提げた青年が一人。

 とは申してもこちらの青年、年齢とし二十歳はたちを超えているのに、とてもそうは見えぬ童顔わらべがお。背丈も五尺で青年というより少年かといった具合。


 骸惚先生のお作に心酔し、お宅に押しかけ居座る書生っぽ。河上太一かわかみたいちという名の青年で。


「ん。……ああ、河上君か」


 首だけ巡らし骸惚先生。微睡む瞳が目に入り、足止め慌てる河上君。

「ヤ。お休み中でしたか。こりゃァどうも申し訳ありません」

「いや、寝てはいなかったがね。少々考え事をしていただけさ」

 骸惚先生、のそり起きあがると胡座を掻いて。


 その横に腰を下ろしつつも河上君、湯飲みと共に言葉を向けて。

「次作の構想を練っておいででしたか?」

 申し訳なさそうにしながらも、どこか期待の光が宿るのは、探偵作家を志す身としては無理からぬことでございましょうか。


 骸惚先生、そんな彼氏に苦笑して。頭を掻きつつ照れくさそうに。

「いやいや、もっと平凡なことさ。今年も桜を見ることができてよかったと、十人並なことを考えていたよ」


「十人並というか、チョイト年寄りくさくないですか。まだそんなお年じゃァないでしょうに」

 少々呆れた風に顔を歪める河上君。


 言われてみれば彼氏の言うことも尤もで。人生の終着点が見えた老齢の方ならばいざしらず、未だ三十台の坂を下り始めたばかりの骸惚先生が感じるには、いささか早すぎる心情というものではありますまいか。


 骸惚先生ご自身、そう感じておられるのか、頬を撫でつつ微苦笑で。

「まあ、そうかもしれないがね。だが、そう思ってしまったのだから仕方がないだろう」

 降り来る桜を見ながらしみじみと。さらに遠くを眺めてつくづくと。


 そんな骸惚先生を見ていれば、

「そりゃァ、小生も似たような気分にならんこともありませんが」


「本当かね」と骸惚先生、胡散臭げに顔歪め。疑わしげに流し目で。

「とてもじゃあないが、君がそんな感傷的な気分になるとは思えんがね」


「ひどい。そりゃァひどいですヨ、骸惚先生。小生だって偶さかにはそんな気分になることもあります。一体、小生をなんだと思ってたンですか」

「何かと問われれば」

 顎に手をあて考え込む風の骸惚先生。けれどもその実、とうの昔にその答えは出ていたよう。

 ニヤリ笑って即答で。


「《迂闊》で《粗忽》な《お調子者》だね」


 何か反論の一つもと口を開きかけはするものの、どうにもその評が一番身にあっているような気がしないでもない河上君でございまして。

 結局、ニヘラニヘラとお愛想で。

「まったく。骸惚先生にはかないませんヨ」

 こんなところが《お調子者》だと言われる所以なのではございますが。


「ですが、また桜を見られて良かったと思ったのは本当のことですヨ。もっとも、小生の場合にはこのお宅で、という注釈がつきますが。小生がこの家にご厄介になるようになったのは、ちょうど去年の今頃じゃァないですか」

「ああ、そうだったか」

 言われて気付いたとでも言うように、骸惚先生、チョイト驚き、意外の声。


 言葉の通り、河上君が平井家のご厄介になり始めたのは――より正確を記するなら、平井家に押しかけたのは――大正十二年の四月も終わり。


「いきなり現れて玄関先で土下座をされた時はどうしようかと思ったよ」

 往時を思い出したように骸惚先生、顔に浮かべる表情は、困惑七分に苦笑が二分。残りの一分は呆れ顔。まさに、昨年の今頃、河上君の前にて浮かべていた表情でございまして。


 対する河上君は往時通りの表情とはまいらぬようで。

「いやあ、あの時は骸惚先生の弟子にならねば先はないとばかりに思い詰めていたモンですから……」

 当時は眉も頬も引きつらせていたものの、今の彼氏の顔にのぼるのは、気恥ずかしさと申し訳なさの入り交じった苦笑い。


「まァ、何にせよ小生の判断は間違ってはいなかったわけです」

 腕を組んでうんうんと。一人合点の河上君。けれども先生そっけない。

「僕は判断を誤った気もするがね」

 湯のみの茶をずずりと啜ると、銜えた紙巻煙草に火を点けて。


「しかし、河上君が来てから一年か。なんだかもっと経っているような気もするよ」

「そうですねェ。自分でもそう思います。まあ、仕方ないって気はしますけど。なんと言うか、大変な一年でしたから」


 大正の御代に入り十と三年。それまでにも欧州大戦や西比利亜出兵、米騒動に西班牙スペイン風邪の大流行と有史に残る大事件もございましたが、昨年、大正十二年は別格で。


 何と言っても後に関東大震災と呼ばれる未曾有の大地震は、忘れたくとも忘れようもなく。七月余りが過ぎ去った今をもっても、その爪痕は生々しく。東京市中を見渡せば、バラックの姿もあちこちに。


 それを思えば、家の縁側から桜を眺めていられる今の身が、幸福に思える骸惚先生の心情も理解できようというものでございます。


「そう考えると」と突然、骸惚先生。何を思ったのか、不意に真顔で視線を移し。まじまじ河上君を見つめつつ。

「君はあれか。実は疫病神か何かじゃあないのか」


「い、いきなり何を言い出すンです」

 わたわた慌て出す河上君を愉快そうに眺めつつ、それでも口から出るお言葉は、存外真に迫ったものでございまして。

「そう思いたくもなるさ。君が来てからの一年、やたらに事が起こりすぎているのだからね」


「そんなァ」

 情けなくも河上君、今にも泣き出しそうな涙声。

「そりゃァ大変な一年でしたけど、小生のせいってことはないでしょうに。いくらなんでも大地震なんかどうにもできませんヨ」


「そっちじゃあないよ」

 骸惚先生は苦虫を噛み潰したような表情で。訳も分からず河上君、「へ?」とばかりに間抜けた声。そんな彼氏をジロリと睨み、忌々しげに頭を掻いて。

「この一年、やたらと妙な事件にばかり巻き込まれている気がするんだがね」

 骸惚先生の仰る通りにこの一年、何の因果か先生と河上君の周りでは大小様々な事件が巻き起こっておりまして。


 例えば晩春に起きた文芸評論家殺人事件。

 例えば夏の嵐と共に訪れた華族連続殺人事件。

 例えば資産家養女誘拐事件に端を発した当主殺害事件。

 例えば大震災のただ中に起きた心理的密室殺人事件。

 例えば真冬のパーティを一瞬にして騒然とさせた二つの首無し死体。


 好む好まざるとに拘わらず、ご両人がその渦中にあったのも確かなこと。

「い、いや。それだって、別段小生のせいってわけじゃァ……」

 反論めいた言葉を口にはするものの、その様子はしどろもどろであたふたで。恰も悪さが見つかって、縮まるばかりの悪戯小僧。


「本当にそう思うのかい?」

 半眼で睨み付けられれば「そ、それは……」と河上君が思わず口籠もってしまうのも無理からぬこと。


 常々、殺人事件なぞに関わるのはご免だと口が饐えるほどに言い張る骸惚先生。

 意に反して事件のただ中に飛び込んで、嫌々ながらも素人探偵を打って出るのは、河上君がいればこそ……ばかりではございませんが、迂闊で粗忽なお調子者の河上君、《知りたがりの悪い虫》まで飼っておりまして。


 いざ事件が起これば心中の虫が騒ぎ出し、よせばいいのに首を突っ込み駆け回り、気付いた時には渦に飲まれてぐるぐると。目を回して身動きのとれなくなった彼氏を放っては置かないのは、師弟愛というものでございましょうか。


 ですが、颯爽と事件を解決してしまう骸惚先生に、河上君がますます尊敬の目を向けてしまうのは、致し方ないとはいえこれまた頭痛の種で。


「同じ穴の狢が何を言ってるのよ」


 その時聞こえてきた声は、怒声混じりの呆れ声。


 声の主を振り向けば、そこに見えるは束髪崩しのお下げ髪。頭に結わった大きなリボン。淡紅色さくらの着物にえび茶の袴。ふっくら頬の丸顔に大きな二重が印象的。チョイト癇が強そうに見えますものの、なかなか目を張る美少女で。


 骸惚先生の上の令嬢、すず嬢で。この語もいささか古くさくはなってまいりましたが、見た目通りに《はいからさん》の女学生。

「わざわざ関わらなくていいようなことにまで自分から首を突っ込んでるくせに、なんでもかんでも太一のせいにするもんじゃないわ」


「そうです、兄様あにさまは悪くありませんっ」

 呆れ顔で涼嬢が苦言を漏らせば、続いて聞こえる幼い声。


 こちらが下のご令嬢の溌子はつこ嬢。十歳とおをわずかに出たばかりの幼嬢なれど、姉によく似た可愛らしさ。もっとも、溌剌とした涼嬢に比べれば、色白控え目弱々しげで。


 けれどもこの度、父君を見つめるその視線。眉寄せ険しく非難がましく。

「お父様は冷たすぎるんです。兄様はご自分の興味のためだけに事件に関わっているわけではありません。だいたい、悪いことを悪いと言うことの何がいけないんですか。溌子だって、きっと兄様と同じようにします」


 二人のご令嬢を味方につけ、意気も上がる――というわけにもまいらぬ河上君。当の骸惚先生から胡乱な目つきで睨み付けられていれば、「いや、まあ、はは……」なんぞと愛想笑いをするのが関の山。


 それを見ていた骸惚先生、深く重いため息一つ。頭を掻いて忌々しげに。

「こうしてみると、君は疫病神というより病原菌のような男だな。娘たちがすっかりと君の病気に感染してしまっている。忌々しき事態だよ、これは」


 大真面目な顔つきでそんなことを言われては、どんな顔をしていいかも分からずに。結局河上君の顔から出るのは先ほどと同じ愛想笑い。


 それに癇気をそそられた様子なのが端で見ていた涼嬢で。

 つかつか河上君に近寄ると、

「あンたも少しは言い返したらどうなのよ。ヘラヘラ笑ってるだけなんて、見てて情けなくなってくるわ」


「そう言われてもなァ」

 弱気に苦笑を浮かべて頭を掻く様は、確かに少々情けなくなってくるものではございますが。

「骸惚先生の仰ることももっともだと思うし。顧みなくちゃならない部分があるのもよく分かるからサ」


「だからって病原菌扱いされて黙ってることはないでしょう」

「そりゃァそうかもしれないケド……でも、涼さんや溌子ちゃんまで巻き込んでいるかと思うと申し訳もないしネェ」

 いつまで経っても気勢の上がらぬ河上君。さすがにカチンときたのか涼嬢は、ギロリと彼氏を睨め付けて。


「言っておきますけどね、別にわたしはあンたなんかに影響を受けたりしてませんからねっ」

 フンと鼻息も荒い涼嬢で。それを見るなり「やれやれ」とばかりに肩をすくめたのが骸惚先生。

「自覚があれば僕もここまで心配してないのだがねえ」

 虚ろな目つきで遠くを見つめ、まるで他人事のよう。ぼそりと呟き煙草をぷかり。

 なまじ面と向かって反論されるよりも身にしみるものがあるようで、思わず「う」と言葉に詰まる涼嬢ではございますが。


「と、とにかくね、そんな簡単に父様に言いくるめられてて、いざって時にどうするのよ」

「いざって時ねえ。そんな時があるかなァ」

「あるかもしれないじゃない。……きっとあるわよ」

 涼嬢は、やたらと《いざって時》のことを気にかけているご様子ですが、河上君がピンとこないのも無理はなく。元より鈍い鈍いと言われる河上君。腹芸や含みを持たせた会話なんぞが通じる相手でもございません。


 とは言え逆に、涼嬢の心中を悟ってしまう御仁が一人。

 他でもない、骸惚先生でございまして。けれどもそれが、先生ご自身にとって良いか悪いかはまた別で。

 その時、顔に浮かべた表情は、愉快と不快を混ぜ合わせ、苦笑と微笑をかき混ぜて、捏ねて丸めてぐちゃぐちゃにして。


 なんともはや、表現のしがたい微苦笑だったのでございます。


「それはアレかい。例えば、河上君が僕に向かって『お嬢さんをください』とか、そういう類の《いざって時》のことかい」

 苦々しげに骸惚先生が呟けば、河上君も涼嬢も、加えてなぜだか溌子嬢まで、瞬時に顔染め赤くして。


「やっ、そっ、なっ。何もそんな具体的なことまで想定してたわけじゃないわよっ」

 真っ赤になって慌てる様子からは、図星とは言えないまでも、似たようなことを考えていたのは間違いなく。ますます苦い顔つきとなる骸惚先生でございます。


「し、心配いりませんヨ、骸惚先生。そんなことにならないよう気を付けますから」

 先生のご機嫌を伺うように、慌てて口を挟む河上君。こんなことだからお調子者だなんぞと言われるのですが、汗掻き焦る河上君には気付きようもなく。

 その上、自分の失言にも気付きようもなく。


「……ちょっと太一」

 ぽつり呟く涼嬢の声。先ほどまでの焦り慌てて熱の籠もったそれとは逆に、その口から漏れたのは、ひんやり冷えた極寒の声。当事者の河上君ならずとも、ぞくりとさせられてしまうようなものでございまして。

「今の、どういう意味?」

 重ねて告げられ河上君、一瞬真意が分からず「へ?」と間抜けた声をあげるもの、すぐにもはたと気付いて汗掻いて。


「い、いやっ。今のは、だね」

 言葉も途切れ途切れで狼狽えて。それでもなんとか弁明らしき言葉を口にしようとはするものの、


「今のは何?」


 再度冷ややかなる声で告げられれば、此度気になるのは骸惚先生のご様子で。チラリ横目で様子をうかがう河上君。けれども骸惚先生、素知らぬ素振りで煙草をぷかり。


 一方で、そのおっかなびっくりの様子が気に入らないのが涼嬢で。眉間に皺寄せ眉跳ね上げて。


「太一! しゃんとしなさいっ、しゃんと!」


 いつもながらとはいえ、きつく姦しい涼嬢で。ただこの折に限って言えば、同情の余地がなくはなく。


 なにしろこの涼嬢と河上君。将来を誓い合った仲……などという大仰な関係ではないものの、互いに好意を寄せ合う相思相愛の関係で。その彼氏に、このような煮え切らぬ態度を取られれば、熱り立つのも当たり前。熱り立たねば女が廃る……かどうかは定かではございませんが、涼嬢はそのようにお考えのようで。


 さらに一言二言言ってやろうかと口を開いたその時に、横から差し挟まれる涼やかな声。


「あらあら。何やら賑やかですわね」


 声の主は、骸惚先生の細君、すみ夫人。さすがに涼嬢、溌子嬢のお母様というべきか、目鼻立ちの整ったすっきりとした美貌の令夫人。左目の下の泣きぼくろがまた魅力的。


「どうかなさいました?」

 こくり首を傾げる姿も手弱女で。それに答える骸惚先生、呆れ混じりで皮肉げで。


「なに、いつも通りに涼と河上君がじゃれあっていただけさ。喧嘩するほどなんとやらと言うが、よく飽きないものだと感心してしまうね」

 とのお言葉に、猛然と反発するのはもちろん涼嬢で。


「元はと言えば父様が原因じゃない。あんまりにも理不尽な理由で太一を責めたりするんだから、口を挟みたくもなるわよ」

「そうです。兄様が可哀想です」

 涼嬢ばかりか溌子嬢にまでも責め立てられ、肩をすくめる骸惚先生。


「僕は至極もっともな不安を口にしていただけなんだがね」

 ご令嬢の非難を意に介する様子もなく飄々と。ところがそれを見ていた澄夫人。顔には微笑で、けれども瞳には意味ありげな光を湛え。


「あらあら。いくら娘たちの人気を河上さんに奪われているからといって、嫉妬はよろしくありませんわよ、旦那様」


「それほどつまらない人間じゃあないよ、僕は」

 骸惚先生、嫌ァな顔で澄夫人に目を向けて。けれどもその視線もお言葉も、澄夫人の微笑を変えさせることはできないようで。


「もちろん、わたくしはつまらない方と結婚したつもりはございません。けれど、娘を取られて嫉妬する程度には人間味に溢れる方ですわよ、旦那様は」

 骸惚先生、ますます嫌な顔付きで。それでも反論の言葉は出てこずに。照れ隠しか腹立ち紛れか、頭をがりがり掻きむしり。


「やはり判断を誤った気がするよ」

 河上君に向けぽつり呟く一言は、どうしたところで負け惜しみに他ならず。


 自然と頬の緩んでしまうご一同でございました。

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