準備と心配

「よし。これで大丈夫なはず……」


いよいよ修学旅行前日となった夜。

おれはキャリーバッグに着替えやしおりなど必要なものを詰め込み、最終確認をしているところだ。


「しかし、やけにバッグが軽いな……」


キャリーバッグを持ってみて、そう思う。

他の人はもっと重かったりするのだろうか……

あ、こういう時こそ遥香に聞いてみるか。


おれは部屋を出て、隣の遥香の部屋のドアをノックする。


「はい。誰?」


「おれだよ。ちょっと聞きたいことがあって、今いいか?」


その返すとすぐに部屋のドアが開いた。


「どうしたの?」


「さっき、修学旅行の荷造りが終わったんだけど、なんかやけに軽くて、不安になってさ。それで遥香はどんな感じなのかと思って聞きに来たんだ」


「まぁ普通の旅行とは違うから軽くて当たり前だと思うけど、私もそこまで重くないはずよ?」


言って、遥香が部屋の中に戻っていったので、おれもその後に続く。遥香はおれと同じくキャリーバッグに荷物を入れていた。


「持ってみる?」


「あ、うん」


そしてキャリーケースを持ち上げてみる。

キャリーケースは力を込めずとも、あっさりと持ち上がった。


「確かに軽いな」


おれのと同じくらいだな。


「でしょ?大体こんなものだと思うけど」


「そっか」


「それにしても、いよいよ明日ね」


言いながら、遥香は自分のベッドの上に腰掛けた。


「ああ、なんかあっという間にきたな」


「そうね。楽しい修学旅行にしたいわね」


「その辺りは任せてくれ。スケジュールはバッチリ頭に叩き込んでるから」


「秒単位で動くスケジュールは勘弁だけどね」


遥香は苦笑する。


「さすがにそんな滅茶苦茶なスケジュールは組んでいないから安心してくれ」


そう返すと2人揃って顔を見合わせ、笑い合う。とその時。


「ん?」


おれの部屋から携帯の着信音が聞こえてきた。


「電話みたいね」


「ああ、こんな時間に誰なんだ、一体」


そもそも電話が鳴ること自体が珍しいからな。


「ちょっと出てくるわ。色々ありがとうな」


「うん。おやすみ。明日ね」


そう言って遥香の部屋から出て、部屋に戻り、携帯を手に取る、


「って、昌樹さん?」


なんと電話をかけてきたのは昌樹さんだったのだ。完全に想定外の相手だった。


「はい?どうしました……?」


「京介君……」


電話に出てみるとやけに暗いトーンの昌樹さん。

なんだ、何か深刻なことでも起きたのか……?

ごくっと喉を鳴らし、少し身構えてしまう。


「君も分かってるとは思うが……」


「は、はい……」


「ハメだけは外すなよ……?ましてや夜這いなんて言語道断だ。やるなら手順を守って同意の上で……」


「何の心配してるんですか……」


わざわざ電話してきたから一体何事かと思ったじゃん……


「いや、だってな……」


「そんなことしませんから大丈夫です。それじゃ切りますよ……」


そして、おれは返事を聞く前に通話を切った。


いきなり電話が来たかと思ったら、変な心配をされてしまった……


その後、隣の部屋から遥香の怒号が聞こえてきたので、おそらく昌樹さんが似た内容のことを遥香に電話で伝えて、思いっきり怒られているのが容易に想像がついた。


心配の仕方が斜め上なんだよなぁ……

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