中3より高校生まで~中3~
@russia20
卯月
0401(日)
最悪な船旅だ。
シベリア鉄道から乗り継いだフェリーは、運悪く日本海を東に進む低気圧と交差しあう事になり、特に昨日はほぼ1日何かにしがみつかないと駄目な状況だった。なので、船に弱い者達は特に大変な事になり、活気は全くと言っていいほど無かった。
そして、悪夢のような1日が過ぎる事は、弱い者達にとってはなく、今か今かと船が巣に着くのを待っていた。
「
「まだだな」
訛りが喋るごとにだんだんと濃くなっているタチアナも一緒で、ベッドに寝転がり、5分おきに聞いてきている。
船窓からは徐々にクレーンが近付いてきているので、間もなく着岸というのは確実だろうが、ここで焦ってしまっては元も子もない。安全第一である。
低気圧のうねりが岸壁に打ち付ける中、ウラジオストクからここまで日本海を縦断した『ルチア号』は、その体を休ませたのは出てから43時間目の事で、どんよりとした空の下で溜め息を大きくついた。
「着いた~」
小さく溜め息をついたタチアナは小さくそう呟き、ほとんど開ける事のなかったリュックサックを持つ。
私も同じリュックサックを背負い、隣の部屋にいた『父さん』の呼び掛けで、入管手続きなどで2時間ほど待ってから下船する。
「あ、あの!」
タチアナを支えながら降り立った直後、横から声がかけられたので、そっちの方を見ると見覚えのある少女が制服姿でいた。
「昨日はありがとうございました!」
「どういたしまして」
「……
「
「……
「は、
空気が鋭い? と思っていると、酔い止め薬を飛ばされた少女の横に同じ制服姿の少女がニュッと出てくる。
「君が小梅が話してた少年?」
「小梅?」
「この
「…………会ったっけ?」
「こっちが見かけただけ」
学園をし……見て回ったのは授業時間の時だったはずだが……、と相模さんを見ると、視線に乗せられた意味に気付いたのか下手な口笛をしてルチア号の方へ視線を逸らした。
相模さんが視線を逸らし丹後さんが
「一迫君じゃないか!」
そんな大声で呼ばれたのは、そこまでインプットした直後の事で、2人の後ろの方を見ると、笑顔で近付いてくる……宇佐美先生と、カルガモのようについてくる女子中学生の集団が見えた。
「こちらは?」
「私の父の一迫勇一です。
「宇佐美直虎です。春海くんの担任を勤めさせてもらいます」
「一迫勇一です。短い間ですがよろしくお願いします」
私と先生、そして『父さん』の会話で大まかな意味を察したらしいタチアナと相模さん以外の女子中学生は唖然として、それを見て相模さんはニヤニヤとしていた。
期せずしてこれから入る学園の人と合流する事になった私達は、それぞれの荷物を持って最寄りの駅に向かう事になる。
「へー、ペテルブルグにいたんだ」
「正しくはその近くの村だけどね」
私は相模さんの質問に答え、数えてみたら彼女を含めて7人いた少女達の内の5人は、日本語で交わされるその会話の聞き手に浸かっていた。
一方、タチアナはというと残る1人の壱岐さんと自分達の外見の事をロシア語で話し合っていた。
「先生~、ここでは食べないんですか~?」
「食べないぞ。高岡で特急に乗り換えてからだな」
『えー!』
ちゃっかりとタチアナも交じってやがるな。
「一迫君は大丈夫なのかい?」
「朝御飯はしっかりと食べましたので」
「うちは私以外ダウンしてたよ」
一時は引き返すんじゃないかとマジに思ったほどの高波だったから、仕方ないといえば仕方ないんだろうな。
先生があふれでる愚痴をおさえつつ、越中北西部と能登南部を結ぶ氷見線にのって件の高岡駅に向かう。
「ここで自由に買っても良いぞ~」
『はーい!』
高岡駅のホームを出てすぐの駅弁屋に8人の女子中学生が向かっていき私と先生、そして『父さん』はそれを後ろから見守る。
買わない、というわけでは無く、彼女達が買い終わって空くのを待ってから向かう。
「この列車に乗るぞ。米原で乗り換えるからな」
『はーい』
列車の出発時刻まであと15分ほどなので、駅弁を食べようとする人はおらず、そのほとんどが先生から渡されたチケットを持ってまた改札口を通る。
そして予定通りの時間に列車が見えてきて、飲み物を買ってたりベンチでくつろいだりしていた11人が思い思いに動き始めた時だった。
ズシン!
そんな鈍い音と共にホームが
「きゃあ!?」
悲鳴と共に黄色い線の上に立っていた相模さんの体が線路の方に傾いていくのが見えたので、すぐに魔法を発動して何とか捕まえる。
しかし、その直後に横揺れが襲い、初撃に耐えた立っていた全員が思い思いに倒れる。
「くそっ!!」
四の五の言えない状態になると考えた私は、ほとんど反射的に魔法を広範囲に広げ、尻餅をつきながらも他の10人をまるごと包み込む。
列車が急ブレーキをかけ、窓が割れ、何かが倒れ、ついには跨線橋が軋む音も聞こえてきたが、やって来た時と同じように揺れは急速に収まってきた。
「……みんな、大丈夫か?」
宇佐美先生が声をかけ、各々から返事が返ってくるのを聞いて、私は半円型にしていた魔法を解く。
「とっ」
急に強い魔法を使ったせいか、グラッとしたので、近くの柱に寄りかかり立ちくらみが過ぎ去るのを待つ。
「一迫だ。日本の地震の情報を」
こういう事態に馴れている『父さん』は、辺りを見回しながらも本国の方に電話をする。
それを横目で確認してから、口々に怖かった節を言っている女子中学生達の近くで丸まっているタチアナの方に向かう。
「大丈夫だった?」
「……
「
彼女に抱き締められながら、地下からの嵐が過ぎ去った駅を見渡す。
傾いた看板、ホームに入る前に止まった列車、跨線橋から聞こえてくる泣き声、逆に聞こえてこないエンジン音……。ここでさえこうなのだから、縦揺れと横揺れが同時に来ることになるはずの震源地がどんな事になってるか想像したくなくなった。
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