第3話 フレアとの出会い
「フレアはフレアって言うにゃ」
足が付くような浅瀬で溺れていたという、何とも珍しい人間を拾い上げた後、あたし達はたき火を囲んで事情を聞いていた。
「えーと、あたしの名前はルオンだ、で……」
モカとナナキも紹介。
まずはこちらも名乗ってそれが済んだ後は、あんな事になった理由。
「フレにゃ……フレアは
「え、使徒にかよ!?」
フレアから明かされたのは驚愕の川流れの真相だ。
本当なのかそれ、と驚くが……返ってくるのは肯定だった。
フレアがしみじみとした様子で首を縦に振る。
「そうにゃ、大変だったのにゃ」
一般人の視点からすると、しみじみと言えるような物でもない気がするが……。
目の前の少女はそんな出来事を一言の感想ですませて、脇に追いやった。
赤い髪に踊り子が着るような衣装を来たフレアは、寒そうに肌をさすっている。
それくらいの間流れてきたかは知らないが、風邪を引いたらいけないので焚火の近くへと移動させた。
「それよりにゃ、フレアは猫のお医者さんを探してるにゃ。ルオン達は良いお医者さん知らないかにゃ」
「それよりにゃ、じゃねー。一大事じゃねーかよ、巫女でもないのに。いや、猫も大事か」
「にゃにゃ!」
ルオンの突っ込みにびくっと肩を派ねられて驚くフレア。
……言葉もそうだけど、しぐさとかも猫っぽいなこいつ。
「びっくりしたにゃあ」
「いや、随分な目にあった事をさらっと流そうとしたフレアの精神に、逆にあたしがびっくりしたよ」
まるでどこかの誰かさんみたいだよな。と、ルオンはどこかの誰かさんことモカという少女を見やる。
横ではそのモカがシマシマ模様のネコの顎を人差し指でこしょこしょしていた。
「ふんふんふーん」
「うにゃうにゃ」
……あ、ずるいそそれ。あたしもやりたい。
と、視線に気が付いたのかモカが話に加わってくる。
「ねぇねぇ、フレアちゃん。モカ思うんだけど、そういう事を言うって事は、何か具合の悪い子でもいるの?」
その言葉にナナキも首を傾げて問いかけた。
「見た所、どの猫も元気そうに見えますけど」
よく考えれば確かにそうだ。
だが、周囲を見回してみるが、猫たちの中に特別具合が悪そうなものは見つからない。
それは寄って来るネコの扱いに困るナナキも、同じのようだった
「うんにゃー、気のせいならいいんだけどにゃ。念の為なのにゃ。深い意味はないから安心するといいのにゃ。何て言うかにゃ、ちょっと喉の奥にひっかっった大魚をとりたい気分になったから、お医者さんに連れていくだけなのにゃ」
「ひっかかるのは小骨だろ」
……丸のみしたら、気のせい所の違和感じゃないぞ。それじゃ大事になっちまう。
「うにゃ。お医者さんの事、知らないならそれでいいにゃ。フレアが頑張って自力で探すにゃ」
あたし達の反応にがっかりしたフレアは、そんな風に言ってくれた。
この先の町は初めて訪れる町となる為、良く知らないのだ。力になれないのは少し申し訳なかった。
だが、そんな事をいつまでも気にしてても仕方ないだろう。
一つの話題が終わった所を見計らって、気になることを尋ねてみた。
「そいや、さっき使徒に襲われてたって言ったけど何かしたのか?」
そうだ。巫女であるルオン達ならともかく、何の関係もない一般人が襲われるはずはないのだ。
「フレアは何もしてないのにゃ。でもフレアが何もしてなくても向こうの人達には害があるかもしれないって、追いかけてくるのにゃ。しつこくて、本当にうんざりしてるにゃ」
つまり心当たりはなくて原因不明ってわけらしい。
……っていうか、あたし達がノシちまった連中が鬱憤はらす為に襲ったのだとしたらどうしよう。
……あ、何か考えれば考えるほど、それしかないような気がしてきた。ていうかそれじゃないのか?だって、他にないみたいだし。つまりあたしのせい?
さすがにやりすぎたかもしれない。
「何かごめんなさいでした……」
「にゃ!どうしたにゃ、ルオン。いきなり死にそうな顔になったにゃ。何か病気でもしてるのかにゃ」
……いいや、違うんだ。
フレアにちゃんと理由を話して謝りたかったが、でも話せない。
どこから情報が流れるか分からない以上、巫女の正体をばらすわけにはいかないからだ。
「えっと、ルオンちゃんは何となく生まれてきた事を突発的にごめんなさいしたくなったんだよ、きっと、たぶん。おそらく」
モカ、フォローするならもっとはっきり断言してほしい。
あと、そこまで話しを重くしなくて良いからな。ほらフレア、ドン引きしてちょっと距離開けちゃったし。
「ドンマイにゃ、きっと次は良い事あるにゃ!」
「……うぅ、ありがとよ」
何か嬉しさや、悲しさや、罪悪感やら、情けなさやらでちょっと泣けてきた。
「襲いかかられた時は近くに巫女でもいるのかと思ったけどにゃ、でもそうでもないみたいだったにゃ。ほんと不思議にゃー」
ぎくっ。
「そそそ、そうか。通りがかった人に手当たり次第襲い掛かるような連中だとはさすがに思いたくねぇな」
「そうだね、そんな事したらただでさえ邪魔者だって思われてるのに、本格的に世界中の人を敵に回しちゃうよ」
あいつらも巫女が絡まなければちょっと欲深い普通の人間だって言えなくもないけど、好き勝手に暴れまわるようじゃそれも言えなくなるよな。
「でも、あの連中達は常識とか通じないところがありますから、ありえないとまでは言いきれませんよね」
ナナキの神妙な言葉に不安がこみあげてくる。
……フレア大丈夫かな。また追いかけられたりしないといいけど。
「常識というか自分の欲望に忠実って言った方がいいかもね」
モカがエグイ言い方をする。
……というか、あたしのは単にネガティブなだけだけど、二人共ほんと厳しい物の見方してるよな。
「フレアはこの先の町に行くつもりだけどにゃ、ルオン達はこれからコロッセウムの町に行くのにゃ?」
「ああ、そうだ。フレアも行くんだろ? 連中に追われているんだろうし、そこまで一緒に行かないか?」
「よろしくさせてもらうにゃ、賑やかな方がフレアも楽しくて嬉しいにゃ!」
やっぱりそっちの方が安心だった。
最後にはそんな感じでフレアが同行することで話がまとまりかけたのだが、
「そう言えばこっちも聞いてなかったのにゃ、使徒に襲われてるって言ったらフレアの事、真っ先に巫女だと思うはずなのニャ。どうしてそうじゃないって思ったのにゃ」
そんな答えづらい疑問が返ってきた。
……あ、しまった。
何とか、フレアの疑問をごまかした後、再び+一名と猫たちを加えて歩き出す。
色々トラブルがあったため、結局町についたのは、夕暮れ近くになった。
町に着いた後はフレアと言葉を交わして、宿を取るまでは街並みを見て歩いた。
「なんつーか分かってて選んだんだけど、異常な割合でむっさいおっさんの多い町だな」
「おじさんたちの町なのかな」
巫女として旅立の前に、常識とか礼儀作法とかを学ぶために、巫女を支援している組織
通りを行きかう人達のほとんどが強面の男性なのだ。
改めてそんな感想を言いたくなるのも当然だ。
そんな彼らはどこか浮かれているようにも見える。
「何かテンション高そうだし」
「何だろうね。お祭りでもあるのかな?」
そんな二人の様子にナナキが呆れた表情をする。
「ルオン様はともかくモカ様は覚えてらっしゃるんじゃないですか?」
「えへへーばれちゃった」
「
……そうだっけ?
「まあ、いいです。最初から説明しますからちゃんと聞いてくださいよ」
「わ、悪いな」
「お願いねっ」
自分の頭の構造やら出来の悪さを嘆きながら、ナナキの口からこの町の説明がな聞こうとした瞬間。
「とと」
モカが小さな子供とぶつかった。
この町にいるのはむさいおっさんだけじゃないらしい。
そう思った矢先だった
ナナキが手をのばし、去ろうとしたその子供の襟首を掴んで引き止めた。
「盗んだものを返すんだ」
「ちぇっ」
何とその子供が、懐から可愛らしい花の刺繍のされた財布を取りだすではないか。
モカの物だ。いつの間に。
……というか、よく気づいたな。
「この少年、お二人共どうしますか?」
「モカは別にいいかな」
「あたしも別に気にしてねーし」
ナナキが少年の処遇をどうすべきかモカに尋ねたが、モカは気にしてないようだったし、あたしも未遂なら気にしない。
「見逃しちゃう。だから行っていいよ」
でも、それでもモカと違って、文句の一つや報復の一つはしてもいいかなとは思うが。
……言動はアレだけど、モカって結構懐が深いよなぁ。
「アタシは、拳骨の一つくらいおみまいしてもいいと思うんだけどな」
「理由があってやったんだったら、それくらいじゃ堪えないと思うなモカは」
「悪い事なのにか?」
「じゃあ、悪い事でもやらなきゃいけない事情があったんじゃないかな」
モカは苦笑しながらそんなことを言ってくる。
気づけば子供はもう、遥か遠くに逃げてしまっている。
悪い事をやったら、反省と罰。
村や訓練所でそう教え込まれたあたしには、モカが言うようなそういう難しい事は分からなかった。
「まあ、単に人を困らせたいからやってるのかもしれないけどね」
ナナキから財布をもらてしまおうとするモカだが、
「ちょっと待ってください」
何かに気づいたようなナナキがそれを止めた。
「どうしたの? ルオンちゃんみたいにナナキもお腹すいたの?」
そうしてそう思った。別にあたしは腹をすかせてなんかないからな。
ナナキはモカの財布を受け取って、中身を確かめに開く。
表情が変わった。
何か嫌な予感。
「すみません、俺とした事が」
「え?」
「ん?」
財布の中身を見せながらすまなさそうにするナナキ。
財布には硬貨もお札も一つも入って無かった。
「盗られました」
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