魔導人形、オルク
宿を出たリーフは感覚を研ぎ澄まして辺りを見回す。この町に目的の人形がいることはわかっていた。
(ったく、どうして探しに行かなきゃならんのかな。動けるなら向こうからやってくればいいのに)
自分の魂が入っているならば、本体にどうして戻ろうと思わないのかを不思議に感じながら町の中心部から離れた小山に向かって歩き出す。気配があった。
低木の茂る林を抜けると、黒い狼がちょこんとおとなしく座っていた。
「オルクだろ? おとなしく俺についてきてはくれないか?」
狼型の魔導人形はリーフの姿を認めるとすっと立ち上がり、林の中へと走り出す。
「こらっ! てめぇ!」
見失うまいとリーフは慌てて追いかける。低い木ばかりの茂みを追い駆けていくと、必然的に身体に傷が生じた。しかし血は一滴も流れないどころか、痛みらしい痛みが感じられない。
(ちっ……人形化が進んでいやがる)
魂は順調に集まっているはずなのにとリーフは毒づきながら狼型の魔導人形のオルクを追う。
しばらく進んだところで、やはり広い場所に出てきた。
(やっぱりこうなるか)
オルクは主人の足下にたどり着くと、尻尾を振りながらおとなしく座り込む。
「どうもミールさんとは縁があるみたいだな」
オルクの主人――ミールはいつもどおりの格好でそこに立っていた。背後には彼のお気に入りの飛行用魔導人形が待機している。
「そう嫌そうな顔をしないでくださいよ。あなたに朗報ですよ」
「朗報?」
にこにことしながら告げるミールを訝しげに見つめながらリーフは首を傾げる。
「この事件の犯人が特定されました」
「スピリアなのか?」
「おや? もうお分かりでしたか?」
犯人の名を口にする前にリーフが言ってしまったので、ミールは残念そうな顔をする。
「俺以外でそれができそうなウィルドラドの人間っていったらあいつくらいのもんだろう? ただ、どうしてそんなことをしたのかわからない」
「わからないとは、あなた、ずいぶんと冷たいのですね」
「は?」
ミールの言っている意味に心当たりのないリーフはますます首をひねる。
「スピリアさんの気持ちを察しますよ。全くあの子も可哀想なものだ」
「一体何を言って……」
「あと、もう一つ朗報です。私が把握している人形で、あなたの魂が付着していると思われる人形はこのオルクで最後です。この人形についた魂を回収しても何も起こらないということは充分にありうることです。それでもあなたはこの当てのない旅を続けますか?」
「!」
その質問に即答できない自分にリーフは驚いていた。
人間に戻ることができなかった場合の身の振り方について一度も考えなかったわけではない。人間に戻ることができなくても、プリムのそばに居続けることができるならそれでもいいとさえ考えていた。
しかし最近のプリムの様子を見ていて考え方を改め始めていた。彼女の調子が悪いのは自分が負担を掛けている所為だからではないかと。ならば、人間に戻れなかった場合に選択すべき道は一つ。死を選択するしかない。魔導人形化した肉体を焼いてしまえば事足りる。
(しかしそれは……)
「どうしました? 答えられませんか?」
ミールに促され、リーフは迷いを断ち切って口を開いた。
「俺は……」
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