ずっと君を見ていたい

御堂一夜

プロローグ

プロローグ

 九回の裏、2死満塁。

 ボールカウントはツーストライク、スリーボールのフルカウント。

 スコアボードは2―1。


 あと一球。あと一つのストライクを取れば、勝てる。優勝できる。

 そして、何よりもキミに証明してみせてあげられる。

 逆に一打でも浴びれば、逆転サヨナラ負けを喫しえない。

 そうなれば、全てが終わる。これまでの行いも、これまでの努力も無為に帰す。

 そんな運命の分かれ目と言える状況であるのに、限界が来てしまった。

 もう、投げられない。

 もう、腕が上がらない。

 もう、肩が回らない。

 無理をすれば投げられる?

 いいや、ダメだ。ダメだと身体が、肩がその痛みで訴えている。


 チームメイトがマウンドに駆け寄ってきている。

 キャッチャーはタイムを取って、真っ先に僕に駆け寄ってきた。彼は心配げな表情を浮かべ、呼びかけてきている。


 監督もこちらに向かってきている。

 交代。その言葉が脳裏を過る。


 観客も何が起きたのかと、ざわめき始めている。


 チームメイトからの声も、観客からの歓声も、今の僕には喧騒でしかなかった。


 肩の痛みは限界を超えてしまっている。マウンドの上で蹲ることしかできない。


 僕はどうしてこんなになってまで頑張ってしまったのだろう……。

 刺さるような日差しの中、もう動かせなくなるまで肩を酷使して、僕は何をやっているのか。

 日差しの暑さのせいか、それとも肩の痛みのせいか、意識が朦朧としてくる。

 ホント、馬鹿みたいだ。こんなになるまで投げ続けて、一体に何になるんだ。


 どんなに頑張ったって、君には僕の想いは届かないかもしれない。

 どんな姿を見せたって、キミがもう一度あの頃のように夢を追い続けるようになるとは限らない。

 分かっていた。無理かもしれないって心の底では理解していた。

 だけど、例えそうでも、僕は諦めたくなかった。

 もう二度と、夢を諦めるようなことはしたくなかった。


 だから、優勝すると君と約束した。

 だから、証明してみせるとキミに誓った。

 けれど、僕は諦めるしかない。



 僕はもう投げられない。

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