第21話 衝撃の事実

 ジェリドの衝撃的な求婚から数日後。予めエリーシアに話を通しておいたクラウスが、二人の部屋を訪ねてきた。


「シェリル、後宮での生活はどうかな?」

 クラウスからの呼称は、当初「シェリル姫」だったが、エリーシアに対するのと同様の口調で会話して貰える様に、シェリルが頼んだのを受け、少々躊躇ったものの「内緒にしてくれよ?」と茶目っ気たっぷりに断りを入れてからは、気軽に話しかけていた。そんなクラウスを珍しく人の姿で出迎えたシェリルは、彼に笑顔で言葉を返した。


「はい、皆さんとても良くしてくれます。随分慣れてきたので日中人の姿で過ごす時間も少しずつ増やしていますけど、やっぱりまだ服を着て過ごすのが慣れなくて……。お天気の良い日は猫の身体でひなたぼっこをしたいですし、寝る時は猫の状態じゃないと落ち着きません」

「それは仕方がないかな? 少しずつ慣れていけば良いさ」

 困ったような表情のシェリルを眺めながら苦笑したクラウスがそう述べると、ここでエリーシアが思い出したように言い出した。


「ところでどうして父さんは、王宮専属魔術師長を辞めたんですか? 昔から王宮にいる方にさり気なく聞いてみても、何かトラブルがあって辞めたという話は聞かなかったもので。静かな所で、魔術の研究を極めたいからとかですか?」

「一言で言えば……、アーデンが王妃様に失恋したのが理由だ」

「はぁ?」

「はい?」

 真顔で尋ねられたクラウスは微妙に顔を引き攣らせてからポツリと呟き、それを聞いた二人の目が点になった。それを見て再度溜め息を吐いてから、彼が付け加える。


「言っておくが、冗談ではないから。ミレーヌ様が陛下とご結婚された後、引き合わされた時に一目惚れしたそうだ。勿論、アーデンと王妃様は全く関係が無いから、そこは誤解しないで欲しい。アーデンの一方的な片思いに過ぎなかったから」

「あの貧相な父さんが?」

 もの凄く疑わしそうにエリーシアが言い返したことでクラウスは溜め息を吐き、シェリルが盛大に非難の声を上げた。


「エリー、酷い! 見た目は関係ないじゃない!」

「だってあの気品と自信に満ち溢れて人望を一身に集めているような王妃様とは、どう考えても不釣り合いよ。それに魔力や魔術の腕前は一級でも、見た目押しが弱そうで容姿も平々凡々で、舌先三寸で丸め込まれて有り金全部持っていかれそうな人で、実際にそうだったもの。街に出た時に何度露天商に二束三文のガラクタを売りつけられそうになって、その都度私が撃退していたか! 王宮専属魔術師長って言うのもおじさんだったら分かるけど、父さんにそんな威厳なんて皆無よ」

 それを聞いたクラウスは、どこか遠い目をしながらしみじみと述べた。


「すこぶる冷静な人物評価は、間違っていないとは思うが……。アーデンが反面教師となって、エリーはそんなに逞しく育ったか……」

「大体父さんは王妃様に一目惚れなんて間抜けな事をした挙げ句、『俺はこれ以上あの方の近くで過ごすなんて耐えられん』とかなんとか一人で盛り上がって、職務を放り出して出奔したって事よね。とんだヘタレじゃない」

 そんな風にエリーシアが問答無用で父の行動をぶった切ったことでクラウスは旧友を不憫に思って項垂れ、シェリルはうっすらと涙ぐんだ。


「エリー。あいつにはもっと色々と、深い葛藤があった筈で」

「お義父さん、可哀想……。泣く泣く身を引いたのに」

「陛下が相手だから、身を引くのは当然。個人の感情なんて置いておいて、職務を遂行するのがプロでしょう?」

「やっぱりエリー、男の人に厳しい!」

 肩を竦めたエリーシアにシェリルが更に涙ぐんで会話が途切れてしまった所で、クラウスが恐る恐る口を開いた。

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