間章「真説~未来での一幕~」
―――人類滅亡から2か月前。
ニューヨークシティ/財団本部付き未来予測研究所内。
財団と言っても、オブジェクトの維持管理団体としてのみ活動していたのでは資金繰りが厳しい、というのは世知辛いながらも現実である。
特に財団を支援する事実を知る社会の上層部や最上流階級、企業体の一部などは莫大な資本を投下してくれているが、それでも厳しいというのは人材の徹底的な不足からして事実であった。
今では少人数の管理職員による高効率な管理体制が求められており、極端な最適化が進行しており、未来予知、未来予測におけるオブジェクトの活用によって、全ての問題を事前に知り、対処する事で何とか持っている、という側面があった。
このような未来予測研究を行う部門に莫大な予算が投下されていた事はまったく理にかなった話であり、それ故に多くの成果を求められるわけだ。
しかしながら、未来予測の結果として最悪の事態。
人類の消滅が確認されてしまった今現在。
研究所内には薄暗い空気が漂っている。
彼らの予測に対して今までのパトロン達は宇宙に逃げ出す算段をし、地表の今以て暮らす大勢を見捨てるという決断に出たからだ。
灰色の通路にあった活気も今は無く。
各地のサイトも順次、重要度の低いオブジェクトの隔離・収容・保護は停止されていくだろう。
そんな研究室の最中。
一人のまだ若い二十代の男が無精髭を生やしながら、ジッとモニターの前に陣取っている。
未来予測による変動が出た瞬間にモニター内部の数値に変化が出るかもしれないと齧り付いているのだ。
頭はボサボサだし、Gパンは摩り切れているし、ワイシャツはヨレヨレだ。
それでも予算が大半停止された其処で彼が待っているという事実こそがまだその研究所の可動を意味し、彼の傍にまだ数人の所員が残っている事こそが、彼の執念の結果をまだ誰かが信じてくれている証左なのだった。
「………全員、元気かな……」
彼が過去へ送った者達に想いを馳せた時。
不意打ち気味に数値が1だけ上がった。
ガタガタガタッと食い入るようにモニタを掴んで覗き込む彼の先でまた数値が1だけ上がる。
「――――――総員集合せよ!!!」
その怒鳴り声に所員達が慌てふためいて、有らん限りの速度でその部屋へと突入してくる。
扉の先から足音が複数。
彼はモニターから顔を上げて、彼の目の前にあるモノへと視線を向けた。
それは台座だ。
彼が発見し、ニューヨークの地下鉄で採取した極めて特異なシステムを有する残骸から再生させた代物だ。
台座の形にしてあるが、その下には今も再生させたソレが眠っている。
「光量子通信の反応だ!! システムの再確認!!!」
「は、はい!! システムチェック開始!! 主任!! 間違いありません。システムオールグリーンです!!」
「空間歪曲開始されました!! 此処に!! 此処に何かが来ます!!!」
「予測数値が降り切れて―――な、何コレ!? 分子観測による因果律統計が滅茶苦茶に―――一体何が来るって言うの!? た、退避しなくていいんですか!!?」
所員達が次々に不安そうな顔をするものの。
男は視線を目の前に向けたまま首を横に振る。
「何が来るにしろ。明日には此処の電源は非常電源となる……非常電源ではこのシステムを維持出来ない。これが最後のチャンスだ!!」
「空間歪曲による高次領域との境界の接触を確認!! 次元均衡が崩れます!!」
「予測エンジンが出鱈目な数値を吐いてます!!? 何だコレ!? 何で安定しないんだ!? 何処の時間から来てるか特定出来ません!!」
「ッ、そうか!! やはり、僕らの理論は正しかった!! この世界とは直接繋がらない未来からのお客様だ!! あの子達はやってくれた!! やってくれたぞ!!」
「おお!? まさか、本当に―――」
彼らが盛り上がった瞬間。
ボガンと空中で爆風のようなものが吹き荒れると台座の上空に奇妙な空間のようなものが開いた。
そして、電車の扉の開閉音が響いたかと思うと。
ボテッとその先から何か黒い塊が落ちて来て、台座の上に激突する。
ゴクリと唾を呑み込んだ誰もが、そのナニカがノッソリと起き上がり、頭を振って、頭を片手で押さえているのを見て……叫びを上げた。
「う、うぅうおおおおおおおおお!!!!」
ビクッとした黒衣装の相手が彼らを見て、彼らは涙目で互いの肩を抱き合っている。
「………此処は……一体、何年だ?」
「1万2322年にようこそ!! 黒蒼将カシゲェニシ!!!」
「ッ、つー事はあいつらの未来か?」
「やはり!! 彼らと出会ったのですね!!?」
主任と呼ばれた無精髭の男が彼の傍に近付いてガシッと手を取る。
「……お前、あいつらをあの時代に送った張本人だな。彼って言われてた」
「は、はい!!」
「―――此処は一般人にとって何年だ」
「西暦三千年以下ですよ。黒蒼将=サン」
「諸々あいつらから情報を聞いてたが、違和感の正体はやっぱりソレか。何度やり直した?」
「12回……それが彼ら人類が再トライした回数です」
「13回目の人類……完全な滅亡じゃないな? オレ達の事が伝わってるって事は大規模な文明の崩壊と人口の極端な減少に対して北米のアレを起動したな?」
「全て御見通しですか」
「オレの技術もアレの内部で生成する人類に転用しただろ?」
「ええ、財団の全会一致での事でしたから」
「1つ聞く。あいつらはオブジェクトの総合研究成果……だけじゃないな?」
そこでようやく主任が彼から手を放して、真面目な顔で頷いた。
モスグリーンの瞳には真剣な色がある。
「それが分かっているのならば、この世界の危機的状況もお分かりでしょう。至高天を継ぎし人よ」
「………この世界にまだ委員会はいるか? いるなら合わせろ。話はそれからだ」
「残念ながら、僕一人です」
「―――そういう事か」
「ええ、僕が委員会最後の一人ですよ」
「いいだろう。まずは落ち着いて話せる場所に移動しようか」
「ええ、喜んで……さぁ、全員で行こう!! ああ、もう偽装は解いていいぞ」
主任の言葉に所員達が自分の顔を剥ぐような素振りをした。
すると、その下からはゆっくりと別の色の肌が見え始める。
「財団も後が無いようだな。オブジェクトの遺伝子を転用して人類の管理者を創る……もしかしたら、オレのいた未来のあいつらもその類だったのかもな……」
「興味の尽きないお話ですが、まずは行きましょう。お話しますよ……今、人類が置かれた現状とこの時代の事を……」
鱗に覆われ、暗い緑色をして、顔は……蜥蜴にも似ていた。
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